本コラムでは、富裕層が借金をして不動産投資を行う理由、成功するためのポイントについて考察していく。
富裕層が不動産投資をする5つの理由
一般的に富裕層は、不動産投資を積極的に行っているケースが多いといわれる。そこには、以下の5つの理由があると考えられる。
理由1.手元資金を残せるから
不動産投資は、ローンを活用することで手元資金を極力使わずに資産運用をしていけるのが特徴だ。富裕層は、十分な預貯金や資産があるので、この特徴を生かすためにローンを利用して不動産投資を行うことが多い。このような行動を見て「資産があるのに、なぜわざわざ利息を払って不動産を買うのか?」という疑問を持つ人もいるのではないだろうか。
富裕層は、債券や株式、投資信託などで資産を保有している場合も多い。「キャッシュ・イズ・キング」という言葉があるように、これらの市場が暴落したときに備えて「手元資金を残しておきたい」と考える向きも多い。そのため借金をして不動産投資をする富裕層が多いのだ。
理由2 所得税・住民税を減らせる可能性があるから
高額所得者にとって、毎年納める所得税や住民税など税金をいかに抑えるかも重要だ。そのため、富裕層のなかには「所得税を節税できること」に魅力を感じて不動産投資をする人も少なくない。ただし、すべての不動産投資が所得税の節税になるわけではない点には注意したい。
富裕層が不動産投資によって所得税を節税できる仕組みは「損益通算」と「減価償却」の組み合わせによるものだ。
・損益通算
これは、不動産投資で赤字が生じた場合、ほかの所得(給与所得や事業所得など)から損失分を差し引いて所得税額を計算できる仕組みだ。
・減価償却
建物購入費を法定耐用年数(通常の使用が可能と想定される期間年数)に分けて経費計上を毎年していく仕組みだ。減価償却があることで、その年に実際に現金支出していない費用を計上しながら損益通算をすることが可能となる。
理由3 相続税対策ができるから
富裕層にとって相続税対策は、一族の繁栄のために重要なテーマの一つだ。「借金をして不動産投資をすると相続税対策」になるといわれているが、これはどのような仕組みなのだろうか。
相続が発生したときには、相続人の遺した財産から借金(債務)を差し引いた正味財産が相続税の対象になる。つまり、借金が多いほど相続税の対象となる財産が減るため、相続税対策になるというわけだ。
財産 − 債務=正味財産(相続税の対象になる財産)
注意すべき点は単に借金をするだけでは相続税対策にならないことだ。例えば、金融機関から2億円の借り入れをすると、2億円の財産(現金)が増える。この場合、「2億円の増えた財産-2億円の借金」で差し引きプラスマイナスゼロとなり、相続税対策にならない。
相続税対策になる借金は、不動産投資などのための借り入れに限られる。理由は資産を不動産で所有すると、現預金などと比べて相続税評価額が低くなるからだ。例えば、2億円を現預金で所有すると、相続評価額は2億円になる。
これに対して、2億円で不動産を購入・建築すると、相続評価額が低くなる(例:2億円で新築建物を建築→相続評価額1億2,000万円)。さらに不動産の用途が自宅などではなく、賃貸物件であれば相続評価額がさらに抑えられる(例:1億円で新築アパートを建築→相続評価額8,400万円)。
上記の例に基づいた場合、2億円の現預金を持っていた人が2億円の借金をして不動産投資をすると、資産は2億8,400万円になる。ここから借金の2億円を差し引くと、相続税評価額となる正味財産が8,400万円になる。
なお、上記については経済状況がデフレではないことやキャッシュフローがマイナスではないことなど、資産の大幅な毀損がない経済状況や物件選びが前提条件となる。
このように不動産投資には、相続税評価額を減らしながら効率的に資産を増やしていける性格がある。富裕層は、この仕組みを理解している人が多いため、あえて借金をしてでも不動産投資をすることが多いのだ。
理由4 有利な条件で融資を受けやすく、かつレバレッジを利用できるから
富裕層は一般的な人よりも潤沢な資産があるため、金融機関から貸し倒れリスクが少ないと評価され、金利や返済期間などで優遇されやすい傾向にある。「この融資のアドバンテージを使わない手はない」と考える富裕層は、あえて借金をして不動産投資を行う。またレバレッジ(てこの原理)を期待して不動産投資ローンを利用する富裕層もいる。
金融業界におけるレバレッジとは、借り入れを利用して手元資金に対する収益を高めることだ。例えば、上場株式や投資信託など金融商品を購入する際は金融機関からの融資を受けることはできないが、不動産投資であれば融資を受けて手元資金にレバレッジをかけられる。
理由5 インフレのリスクヘッジになるから
富裕層は資産規模が大きいため、インフレーション(物価上昇)による実質上の資産減少の影響も大きい。そのため富裕層は、資産を守るためのインフレ対策が重大なテーマとなる。借金をして不動産投資をすると、インフレのリスクヘッジの効果が期待できることから、富裕層は借金をしてまで不動産投資をするのだ。
借金で不動産投資をすることで期待できる主なインフレのリスクヘッジには、以下の2つの種類がある。
現物資産によるリスクヘッジ
インフレ時には、現預金などで資産を持っているよりも不動産で資産を所有しているほうが有利だ。なぜなら、不動産投資は現物資産であり、インフレ局面においてほかのモノと同様に価格が上昇しやすいからである。
例えば、インフレ率が10%で1億円の資産を現預金で持っていた場合は、額面は1億円のままでも実質価値は約9,000万円に目減りしてしまう。
一方、1億円の資産を不動産で保有していた場合は、インフレとともに価格が上昇するといったイメージだ。
※ただし実際にはインフレが起こっても物件価格が必ず上昇するわけではない
借金によるリスクヘッジ
インフレ時では、借金をしている人のほうが有利といわれる。なぜなら、インフレによって実質的なお金の価値が下がるのに合わせて、借金の実質的な返済負担が軽くなるからだ。特に不動産投資ローンは、借入額が数千万円、数億円単位になることもあるため、その恩恵も大きい。
仮に借金が1億円でインフレ率が10%の場合、実質上の債務残高が約9,000万円に目減りするといった具合だ。
富裕層とは:純金融資産保有額が1億円以上5億円未満
そもそも富裕層の法的や学術的な定義はないが、広く引用されているのは野村総合研究所が推計する「マーケットの分類(世帯の純金融資産保有額)」だ。
この分類によると、純金融資産保有額が1億円以上5億円未満を「富裕層」と定義している。なお富裕層全体が保有する資産規模は約259兆円で国内であり、国内で約139万5,000世帯以上の富裕層が存在する(2021年時点)。
純金融資産保有額の階層 | 世帯の純金融資産保有額 | 階層別の保有資産規模 (階層別の世帯数) |
---|---|---|
超富裕層 | 5億円以上 | 約105兆円 (約9万世帯) |
富裕層 | 1億円以上5億円未満 | 約259兆円 (約139万5,000世帯) |
準富裕層 | 5,000万円以上1億円未満 | 約258兆円 (約325万4,000世帯) |
アッパーマス層 | 3,000万円以上5,000万円未満 | 約332兆円 (約726万3,000世帯) |
マス層 | 3,000万円未満 | 約678兆円 (約4,213万2,000世帯) |
ここでいう「純金融資産保有額」とは保有する金融資産から負債(住宅ローンなども含む)を差し引いたものだ。金融資産には、以下のような項目が挙げられる。
- 預貯金
- 株式
- 債券
- 投資信託
- 一時払い生命保険
- 年金保険 など
EYグループの不動産部門、ゴールドマン・サックスグループの不動産ファンド部門勤務を経て2016年に独立した同氏がどのようなプロセスを経て投資規模を拡大しているのか。その物件選定の方法や融資戦略を具体的に深掘りして解説しています。
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富裕層に向いている不動産投資の種類
一般的に個人投資家が行う不動産投資の種類としては「区分マンション」投資が多い傾向にある。しかし富裕層に向いているのは、物件価格が高かったり資産価値を維持しやすかったりする以下の種類の物件だ。
新築一棟物件のメリット・デメリット
新築一棟物件は、物件価格が高いのが特徴だ。その分、融資審査のハードルが高く自己資金に余裕があり社会的な信用力が必要だといえる。新築一棟物件を購入・建設できることは、一部の人に限られるためライバルが少ない。その結果、有利な環境で不動産投資をしやすくなる。
とはいえ「物件価格が高い」ということは、「賃貸経営に失敗したときのダメージが大きい」ということでもある。そのため下記のメリット・デメリットを十分に踏まえたうえで慎重に投資を判断したい。
中古一棟物件のメリット・デメリット
中古一棟物件も、富裕層向きの不動産投資の種類である。中古ということは、新築よりも物件価格が抑えやすくなるがメリットはそれだけではない。例えば中古は、同じ条件の物件であれば新築に比べて1年あたりの減価償却費を多く計上できる。特に木造は、RC造などと比べて耐用年数が短いため、減価償却費による節税効果が高い。
中古一棟物件の注意点は、物件によって建物の傷み具合が異なることだ。状態によっては、購入直後にリフォームや大規模修繕が必要となり、多額の費用を要する場合もある。これを踏まえると中古一棟物件は、建物の状態を的確に判断できる知識と経験のある投資家に向いている。
海外不動産のメリット・デメリット
海外に分散投資したい富裕層には、海外不動産が向いている。不動産のみならず、手元資金の一部を株式・債券などに換えて海外資産で保有することは、世界の富裕層に共通している行動だ。特に日本は、少子高齢化による国そのものの衰退、それによる円安リスクが懸念されているため、資産防衛の観点で海外不動産の保有は有効だろう。
ただし海外不動産は、国ごとに商習慣や税金のルールが異なる。これらの情報をしっかりと理解したうえで物件を購入することが重要だ。
タワーマンションのメリット・デメリット
一般的に投資用ワンルームマンションの単独所有は富裕層に向かないといわれる。理由は物件価格が富裕層に見合わないからだ。しかし、区分物件でも高額なタワーマンションは富裕層に向いている不動産投資の一つだ。
タワーマンションは、好立地にあることが多く地価が安定・上昇しやすいため、資産価値が下がりにくい。好立地にあるということは、適正な家賃さえ設定すれば空室リスクを抑えやすいということだ。
タワーマンションと富裕層といえば、物件の「実勢価格」と「相続税評価額」の格差によって相続税を抑える手法が広がった。しかしこの「マンション節税」を防ぐため、2024年1月から国税庁が新たな算定方法を導入する点には注意が必要だ。
不動産投資で成功するためのポイント
不動産投資で成功するために重要なのは、以下の4つのポイントだ。特に1つ目の「事前に綿密な収支シミュレーションを行う」は、成功に欠かせない。
事前に綿密な収支シミュレーションを行う
不動産投資で成功するには、精度の高いシミュレーションが必須である。なぜなら不動産投資は、多額の資金を投下する必要があり、事業計画の妥当性を検証する必要があるからだ。これを怠ると、融資審査に通らなかったり、期待するような利益が上げられなかったりする恐れがある。
収支シミュレーションは、見込みの家賃収入や諸費用・税金などに基づき行われるが、空室率を高めに設定したほうがよいだろう。なぜなら想定よりも厳しい経営環境になっても耐えられる事業計画になるからだ。
【関連記事】不動産投資を成功させるためにはシミュレーションが重要!必要な情報、注意点とは?
賃貸ニーズの高いエリア・建物を選ぶ
不動産投資で安定経営をするには、空室リスクを抑える必要がある。これを実現するには、賃貸需要の高い物件を選ぶことが鉄則だ。賃貸需要の高い物件は、入居者が住みたいと思う「建物」と「環境」の両方を兼ね備えている必要がある。
例えば入居者が部屋探しの際に重視する「建物」の上位5つのポイントは、以下の通りだ。
- 間取りの広さ
- 日当たり
- 築年数
- 耐震性
- セキュリティ
参照:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会・全国宅地建物取引業保証協会「一人暮らしに関する意識調査」
また入居者が部屋探しの際に重視する「環境」の上位5つのポイントは次の通りだ。
- コンビニ/スーパーが近い
- 駅が近い
- 学校/職場に近い
- 静かな環境である
- 医療機関の有無
参照:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会・全国宅地建物取引業保証協会「一人暮らしに関する意識調査」
これらすべてのポイントを満たすことは難しいが、より多くのポイントを満たしていれば空室リスクを抑えやすくなると考えられる。
競合物件との差別化を意識する
空室リスクを抑えるには「競合物件との差別化を意識すること」も必要だ。競合物件とは、同じエリア内の家賃・構造・築年数・間取りなどが近い物件のことである。そのため同じエリアにある物件でも、新築マンションと築古の木造アパートでは競合物件にならない。
所有物件を差別化する方法としては、入居者に人気の設備を導入することが効果的だ。2023年における人気の設備は、以下の通りである。入居者のニーズに合わせて導入を検討しよう。しかし、区分マンションを所有している場合は、エントランスのオートロックや宅配ボックス等、設備の導入は困難だ。そのため、差別化できる方法は限られる。
単身者向け人気設備 | ファミリー向け人気設備 |
---|---|
1位:インターネット無料 | 1位:インターネット無料 |
2位:エントランスのオートロック | 2位:エントランスのオートロック |
3位:高速インターネット | 3位:追い炊き機能 |
4位:宅配ボックス | 4位:システムキッチン |
5位:浴室換気乾燥機 | 5位:宅配ボックス |
良い不動産会社・金融機関を見つける
不動産投資で成功するためには、その投資家に合った不動産会社を見つけることが大事だ。富裕層であれば、一棟物件やハイクラスなマンションを得意にする不動産会社にサポートしてもらうのがよいだろう。
ただし条件の良い物件が見つかっても、融資がスムーズに進まなければ不動産投資は始められない。その意味では、相性のよい金融機関を見つけることも重要である。物件が見つかってから金融機関に相談する選択もあるが、先に自身の属性や資産状況だと「どれくらいの融資が受けられるのか」を金融機関に相談するのも一案だ。
「消費のための借金」と「不動産投資のための借金」は本質が異なる
ここまで富裕層と不動産投資をテーマに解説してきたが、最後に一点だけ補足をしておきたい。富裕層が不動産投資をする場合であっても、物件購入費の大半は借金でまかなうことが多い。
「借金」と聞くとネガティブなイメージを持つ人もいるだろう。一般的に「借金は悪いこと」と考えられがちだが、富裕層は借金をポジティブに捉える人も多く、うまく活用して資産を増やしているケースも少なくない。なぜ借金に対して、このような真逆の捉え方になるのだろうか。これは、同じ「借金」という言葉でも富裕層が考える本質が異なるからだ。
まず、借金には以下の2種類があることを意識しよう。
- 消費のための借金
- 投資のための借金
消費のための借金とは、例えば「欲しいアイテムがあるからショッピングローンを組む」という行動だ。消費した結果、増えた負債はどこまでいっても負債のため、利益が生まれることはあまりないだろう。また借金を完済しても資産価値の低いモノ(あるいは、資産価値が減りやすいモノ)だけが手元に残ることが多い。このことからネガティブな借金といわれる。
一方、投資のための借金とは、例えば「不動産投資ローン組む」という行動だ。購入したアパートやマンション、ビルなどの賃貸物件からは、毎月賃料収入を原資にした利益が手に入る。また返済が進むたびに土地と建物という固定資産が増え、売却で売却益が得られることもあるだろう。そのため、ポジティブな借金と呼ばれることもある。このように、同じ借金でも「消費のための借金」と「投資のための借金」では性格が大きく異なる。
個人投資家の場合、「投資で直接的な借金ができるのは不動産投資のみ」ということには注目しておきたい。例えば株式や投資信託、国債などを買うために金融機関から借り入れすることはできない。なお不動産投資で融資を受けられる金融機関は、以下のようなものがある。
- 都市銀行
- 地方銀行
- 信用金庫・信用組合
- 信託銀行
- ノンバンク
- 公的金融機関(日本政策金融公庫、商工中金) など
富裕層であれば「借入額が多い」「低金利」「返済期間が長い」など有利な条件で融資が受けられるケースも多い。そのため複数の金融機関を比較したうえで借入先を決めるのがおすすめだ。
富裕層に関するQ&A
資産3億円の日本人の割合は?
日本国内で3億円の資産を保有している人の割合は、約2%だ(野村総合研究所の2019年のデータに基づく)。なお世帯の純金融資産保有額が「1億円以上5億円未満」の富裕層は、国内に約139万5,000世帯あり全体の世帯に占める割合は約2.4%である。
出典:野村総合研究所「純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数(2021年)」
資産5億円の日本人は何人?
日本国内で5億円以上の資産を所有するのは、約9万世帯だ。これは、全体の占める割合で見るとわずか約0.16%でしかない。資産5億円の世帯は、富裕層のなかでも「超富裕層」に分類される。
出典:野村総合研究所「純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数(2021年)」
富裕層は資産に不動産が含まれるか?
含まれる。金融資産保有額の枠組みでは、預貯金・株式・債券・投資信託などに限定されるが総資産の枠組みでは不動産も資産に含まれる。ただし純粋な資産という意味では、残債のない不動産が対象となる。
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