元ローン担当者の少しマニアな独り言〜不動産投資家になられる方に知っていただきたい不動産のお話〜

不動産関連業務キャリア数十年のオリックス銀行元ローン担当者が、いままでの経験から皆さまに知っていただきたい不動産のお話を連載で綴っていきます。

第4話
不動産マーケットにおける情報の不透明性

不動産に関係する仕事に長年携わりながら感じているのは、やはり不動産のマーケットには情報の不透明感が漂っているということです。今までの不動産業界では、問題を抱えた物件が、そのネガティブ情報を公開されないままに流通するというマーケットが常態化していました。

不動産という「商品」は、工業製品のように規格が定まっているものではなく、1件1件、すべて顔が異なり、その裏にある問題点が見えづらいことが極めて多いと感じます。特に「土地」に関しては、歴史的にも不確かな経緯が絡み合っていることが多く、権利関係などが複雑怪奇な事象に出くわした経験も数限りありません。(だからこそ、このコラムのネタも続くのですが。)

そして皮肉をこめて言えば、都合の悪そうな話はなるべくオープンにならないように売主も望み、業界も忖度して巧くとりまとめてきた、という歴史だったとも言えます。

オープンにならない隠された事象は、勘によって察知するしかなく、経験や学びによってそのセンスを磨くしかありません。

「不動産の市場なんて、そんなものだよ」と達観するやや鼻持ちならない自分が心の中にいますが、でも、この不透明な市場を何とかせねばと義憤にかられる自分も、そこにはいます。

不確かな経緯が絡み合う「土地」にまつわることは、また次回以降にお話しするとして、今回は、主に「マンション建築」に関連した出来事に絡めて、その不透明性のお話をしたいと思います。

マンションでも施工に問題が起きる可能性がある

頑丈で立派に見えるマンションでも、分譲会社の意思とは関係なく、施工不備が起こり得ます。これは、経験や学びによって勘やセンスを磨いても、事前に察知するのは極めて難しい部類の事例です。

施工不備が問題となり、実際に建て替えを行ったマンションとして、横浜市都筑区の「パークシティLaLa横浜」が有名です。その詳細はここでは省略しますが、ニュースにもなりましたし、分譲会社自身も公表しているので、実名でマンション名を記載しました。このマンションの建て替えは、売主の費用負担で行われ、今年(2021年)再建築が完了しました。それにしても、超大手デベロッパーだったこともあり、この分譲会社が履行した保証内容の大きさに業界関係者は驚き、「さすが」と感心したものです。(もちろん、すべての住民が納得できた対応かどうかは別の話ですが。)

元ローン担当者の少しマニアな独り言〜不動産投資家になられる方に知っていただきたい不動産のお話〜

また、福岡市東区にも、不具合のあった分譲マンションがあり、ワイドショーなどで知られています。この分譲マンションの不具合は相当以前から指摘されていたようで、やや時間が掛かり過ぎのきらいはありますが、やはり分譲会社が大手で、建て替えの方針になり、今春(2021年)工事が始まりました。これも業界においては画期的なことです。

そもそもマンションに施工不備が起きていることが意外だと驚く方も多いかもしれませんが、ここに例示した二つの物件は、分譲会社とゼネコン等に保証能力があり、適切な対処が行われた少数の好事例に過ぎません。実際には、建設会社と大揉めに揉めている話もありますし、公表されていない問題物件なども、山のようにあるでしょう。

そう考えると、建築物には多かれ少なかれ何らかの問題が起きる可能性があると思っておく方が自然なのかもしれません。

不動産取引における情報の不透明性

冒頭で、「不動産には工業製品のような規格がない」と申し上げましたが、不動産の中でも「マンション」は、どちらかといえば工業製品に近いかもしれません。ほぼ顔の同じものが存在し、「築年」「立地」「間取り」「構造」「グレード感」など条件が似たものは、似たような価格形成がなされ、売買価格や賃料などの面積あたりの単価(いわゆる坪単価や平米単価)を指標として比較検討できるマーケットと考えられます。

マンションは割と相場観がつかみやすく、分譲シリーズ名でだいたいのグレードがわかるため、一般論として、不動産に詳しくない経験の浅い銀行員にも担保物件として比較的扱いやすいと言えます。

ただ、マンションでも落とし穴があることは、ここまでお話ししたとおりです。もちろん当社においても落とし穴に落ちそうになった経験は何回もあり、その事例を1つご紹介しようと思います。

先日、社内において、担保として取り扱い不可と判断したマンションがありました。当社は、そのマンションで、まだ確定していないものの欠陥工事らしき問題が発生し、管理組合と施工会社であるゼネコンが揉めているらしいという情報を、たまたま入手しました。

ただ、ここで悩ましいのは、そのようなネガティブ情報は必ずしも流通市場でオープンにならないということです。当社のローン担当者が通常行う業務の中では、誰もがその情報に気付けるわけではなかったため、場合によっては、当社が融資審査を可決して、お客さまがこの物件を購入していた可能性がありました。

宅地建物取引業者は売買取引に先立ち、買主に対して「重要事項の説明」を行う義務があります。この物件を売買している不動産会社も、宅地建物取引業者として責任を果たすべく調査をしているはずですが、管理組合が不確定なネガティブ情報を敢えて公表するとは限りません。そうなると、不動産会社が法律に基づいて公式に入手できる書類の範囲で知り得る情報には、おのずと限界があります。

銀行がその立場で可能な限り資料を取り寄せても、結局限界があることに、当社のローン担当者もややショックを受けているように感じました。

不確定なネガティブ情報が買主に開示されるかどうかは、売主である現所有者の意識の差にもよるかもしれません。高邁な考えの売主ならば、少しでも問題になりつつあることがあれば買主に公開すべきと考えるかもしれませんが、逆に、問題が大きくなる前になるべく高く売り抜きたいと考える売主ならば、不都合な情報は隠したがるものでしょう。仲介を行う不動産会社も、買主側の仲介ならば買主の立場になって動きますが、売主側の仲介ならば売主の立場になって動くのが仕事です。売主側の仲介会社のコンプライアンス意識次第で、手元にある情報の取り扱いが異なる可能性があります。こうしたことの積み重なりが情報の不透明性の根源となっているように思えて仕方がありません。

※ 万一、購入したあとに物件の欠陥を知った場合には、買主は売主に対して「契約不適合責任」を追及できる可能性があります。詳しい内容を知りたい方は、「第1話 買主が不利になっているかも!?知っておくべき売買契約の売主責任など」をご一読ください。

情報開示された理想的な市場に

「株式」とて、長い時代を経て「公正で透明性ある市場」が形成されてきたわけで、不動産市場でも似たようなことができないものでしょうか。

実は、ひとつ「マンション管理適正評価制度」というものが始まろうとしています。個々のマンションの管理状態や管理組合の運営の状態を5段階で評価し、インターネットを通じた情報公開等により、いつでも誰でも閲覧できる仕組みだそうです。また、国土交通省の主導により「不動産ID」の整備も検討が進んでおり、個別不動産ごとの情報管理がし易くなります。

これらが実現して、もし積極的に活用され始めたら、投資用マンション1棟ごとの固有の情報が収集され、まるでマンション1棟が1つの上場企業の如くに情報公開されて、まさに株式市場での売買のようにマンション1戸を市場で売り買いする、という時代が来るかも知れません。

1棟ごとの管理組合の財政状況が公開され、株式市場で企業分析するかのように、その良し悪しを分析でき、また施工不良など個別の問題も開示されれば、ネガティブ情報に気付かずに不動産投資をしてしまうこともなくなります。

マンションによっては拒絶する管理組合も出て来るでしょうが、公開(上場?)の信用度による資産価値上昇をメリットとして歓迎する管理組合も多いでしょう。透明化された市場で相場が形成され、投資家が保護される世界…、そんな世界が実現されることが理想です。

シニアコンサルタント 真保雅人
(大学卒業後、鉄道会社約4年を経て1989年5月オリックス株式会社に入社し、投資用不動産ローン業務を約10年担当。その後、オリックス不動産株式会社にて約10年間の賃貸マンション用地仕入開発業務経験を経て、2010年11月オリックス銀行株式会社に出向。オリックス銀行では投資用不動産ローン業務に責任者として約10年従事し、現在に至る。)
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- コラムの注意事項 -

本ページの内容については、掲載当時のものであり、将来の相場等や市場環境等、制度の改正等を保証する情報ではありません。