2014年に導入されたNISA(少額投資非課税制度)は、その後、年間投資上限額の変更やロールオーバーの導入、2018年にはつみたてNISA(非課税累積投資契約に係る少額投資非課税制度)の新規導入により拡充が進んでいたが、2024年に大きく改正されることが決定した。改正を控えた今こそ、NISAの制度の内容をおさらいしておきたい。
「NISA」の全体像について
NISAとは少額で投資を始める方に向けて国が認めた非課税制度のことで、2021年現在では一般NISAとつみたてNISA、ジュニアNISAの3種類が存在する。そして金融庁の調査によると、2020年12月末時点で開設されているNISA全体の口座数は1,568万6,761口座、そのうち一般NISAの口座数は1,220万9,886口座、つみたてNISAの口座数は302万2,422口座、ジュニアNISAの口座数は45万4,453口座となっており、一般NISAの利用者が約8割を占める。
ジュニアNISAは子や孫の将来に向けた資産形成のために2016年1月にスタートしたが、子や孫が18歳になるまで払い出しについて非課税枠が適用されないという制約から、利用者が伸び悩み2023年12月31日をもって新規口座開設と新規買付が停止され、廃止されることが決定している。新規口座開設停止以前に口座開設と株式等の買い付けを行っている場合、子や孫が成人になるまでは引き続き商品の保有ができる(ただし新規買い付けはできない)ほか、払い出し制限が撤廃されることからいつでも払い出しができるようになる。
以降については今後大きく改正される一般NISAとつみたてNISAについて現行制度とメリット、デメリット、改正内容について触れていきたい。
一般NISAとつみたての制度内容詳細については以下のとおりだ。
(一般NISAとつみたてNISAの違い)
投資対象商品 | 年間投資上限額 | 購入方法 | 最長 非課税期間 |
|
一般NISA | ・国内、海外上場株式 ・公募株式投資信託 ・国内、海外ETF(上場株式投資信託) ・国内、海外REIT(不動産投資信託) など |
120万円 | 自由 (年間購入回数の制限なし。分割購入および一括購入も可能) |
5年 |
つみたてNISA | 金融庁により選定された商品(公募株式投資信託・ETF(上場株式投資信託))に限る | 40万円 | 積立購入 | 20年 |
出典:金融庁「あなたとNISA」より株式会社ZUU作成
NISAの制度を利用して購入した投資対象商品によって得た分配金や配当金、そして売却益については、通常であれば20.315%(復興特別所得税を含む)の税金が課税されるが、それぞれの非課税期間中は課税されない。ただし、分配金や配当金については、証券会社の口座で受け取る「株式数比例配分方式」を選択した場合のみ非課税となることに注意が必要だ。
NISAの口座は、20歳以上の日本に居住する方であれば誰でも開設できるが、1人1口座に限定される。そして、NISAのほかにも、複数の口座で投資対象商品を購入していたとしても、NISA以外の口座で発生した売却益は非課税にならない。非課税制度が適用されるのは、あくまでもNISAの口座だけであることを覚えておきたい。
また、一般NISAとつみたてNISAは併用することができず、どちらかを選択しなければならない点にも注意したい。ただし、1月1日から12月31日の1年を基準として、その年の最初の取引をする前であれば一般NISAとつみたてNISAを切り替えることは可能である。1度でも取引をしてしまうとその年の切り替えはできないため、切り替えようと思う際にはその年の最初の取引前に手続きを行おう。
一般NISAの特徴
一般NISAの特徴としては、投資対象商品の幅広さが挙げられる。投資対象商品は「上場株式」「公募株式投資信託」「ETF(上場株式投資信託)」「REIT」など全銘柄となり、さらに最大非課税運用期間である5年を経過した後は、NISA口座とは別の課税口座に移す方法や売却する方法以外に、翌年のNISAの非課税枠に移す方法を選択できる。これを「ロールオーバー」といい、一般NISAのもう1つの特徴である。このロールオーバーを利用することで、最大600万円(年間120万円×5年)の非課税枠を再度利用することが可能だ。
ちなみに現行の一般NISAの投資可能期間は2023年となっており、その後ロールオーバーの仕組みを用いて2027年まで非課税で保有できる。
つみたてNISAの特徴
つみたてNISAの特徴は、「長期」「分散」「積立」投資に適したものであると金融庁が認めた商品のみしか購入できない点である。具体的な投資対象商品としては「公募株式投資信託」「ETF」のみとなっている。(2021年6月18日時点でのNISA対象商品)
つみたてNISAでは、年間40万円を上限として毎月購入することができ、購入商品によって得られる配当金や分配金、売却益に対する非課税の取り扱いは一般NISAと同じ内容だ。
つみたてNISAと一般NISAの違いは、投資対象商品や購入方法、そして非課税で運用できる期間のほか、つみたてNISAではロールオーバーは利用できない点だ。したがって、20年間の運用期間を終えた後は、つみたてNISAでは通常の課税口座に移すか売却するか、どちらかの方法を選択することになる。
また、つみたてNISAは一般NISAよりも長い2037年まで購入し続けられることも覚えておきたい。
課税口座へ移管する際の注意点
一般NISA、つみたてNISAの非課税期間が終了した際には売却やロールオーバー(つみたてNISAでは利用できない)の他に課税口座へ移す選択肢があるが、NISA口座から課税口座へ株式等を移管すると、移管時の時価が取得価額となることは覚えておきたい。移管後に株式等を売却した際には、売却価格と課税口座移管時の価格との差額が売却益または売却損となるのだ。例えば課税口座に移管後、値上がりした場合、当初の取得価格より値下がりしたにも関わらず売却益とみなされ、課税される可能性があることには注意が必要だ。
一般NISAの強みとは?
非課税で資産形成を期待できる点が一般NISAの一番の強みといえるだろう。一般NISAで購入できる投資対象商品は多岐にわたっており、年間の購入額も120万円とつみたてNISAよりも高額に設定されていることから、まとまった額で一括購入する、もしくは年2~3回に分けて購入するという投資方法に向いている。
メリット
まとまった資金で自分の好きな時期に購入できる点、売却益など運用で得た利益については上限なしで非課税となる点がメリットである。
例えば、100万円で購入したある株式が800万円で売却できた場合、通常であれば売却益700万円のうち約140万円が税金として差し引かれることになるが、それを非課税で受け取れるメリットは大きいといえるだろう。
デメリット
年間の投資枠について、余剰分を翌年に繰り越せない点がデメリットだ。購入のタイミングを見計らっているうちに年内に購入できず、年間120万円の投資枠を使い切れなかったとしても、その余りを翌年に持ち越すことはできない。また、運用の結果、損失がでた場合にNISA以外の口座で発生した利益との損益通算ができないことや損失分の繰越ができないこともデメリットだ。
オススメな人は?どんな場合にオススメ?
まったくの投資初心者ではなく、ある程度投資の知識や経験がある方に向いている。市場の動きを先読みすることは経験豊かな投資家でも難しい。しかし、経験を積んだ方であれば、欲を出さずに自分のタイミングで売買することは可能であろう。特に外国株式など値動きの大きい銘柄での運用を考えているのであれば、自分の許容できる売値や買値をあらかじめ決めておき、その価格に近くなった時に売買することで利益(あるいは損失)を確定でき、それによって得た利益が出た場合は非課税となるメリットは大きいといえる。
つみたてNISAの強みとは?
投資対象商品が投資初心者向けに特化したものであることから、一般NISAよりも安定した運用が行える点がつみたてNISAの強みだ。
メリット
値動きのある運用商品を毎月一定額で購入する方法は、購入単価を平準化させることから一括で購入する場合と比べ、価格変動リスクの軽減が期待できる。それを自動的に行える点が、つみたてNISAの最大のメリットであろう。
デメリット
年間の投資枠が40万円までとなっており、一般NISAと比べ投資枠が小さいことや毎月一定額で購入するという性質上、安値でまとめて買うということができないことから、利益が出た場合でも一般NISAに比べると得られる利益は少なくなる点がデメリットである。また、一般NISA同様に運用の結果、損失がでた場合にNISA以外の口座で発生した利益との損益通算ができないことや損失分の繰越ができないこともデメリットだ。
オススメな人は?どんな場合にオススメ?
投資に対する知識や経験が浅く、お任せ感覚で運用を行いたい人に向いている。投資対象商品も投資信託に限定されていることから、運用自体は他人に任せることができ、毎月自動的に購入できることから購入のタイミングを考えなくても済む点がつみたてNISAならではの魅力と言えよう。
改正後の一般NISAの内容と注意点
現行の一般NISAでの口座開設が可能な期間は2023年12月31日までとなっているが、2024年より1階部分と2階部分に区分され、2028年12月31日まで口座開設が、2032年までの保有が可能となる。そして、現行の一般NISAにかかわる非課税制度で管理していた上場株式などは、そのまま改正後の一般NISA枠の2階部分に受入れることが可能だ。
改正後の一般NISAでは、1階部分の投資対象商品はつみたてNISAの投資対象商品と同様のもので、かつ年間投資上限額は20万円と設定されており、2階部分の投資対象商品は「上場株式」「公募株式投資信託」などで、年間投資上限額は102万円である。
2階部分を利用するためには、原則として1階部分を利用することが条件となるが、その際には1階部分の年間投資上限額20万円については全額利用しなくてもよいことになっている。そして、すでに一般NISAを開設している場合や投資経験のある方で、2階部分だけ(上場株式のみ)の投資を希望する場合は口座開設先の金融機関に届け出ることで1階部分を省くことができる。ただし、その場合の年間投資上限額は2階部分のみの102万円となる点に注意が必要だ。
(改正後の一般NISAの仕組み)
投資対象商品 | 年間投資上限額 | 購入方法 | 最長 非課税期間 |
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2階部分 | 一般NISAの投資対象商品から一部商品を除いたもの | 102万円 | 自由 | 5年 |
1階部分 | つみたてNISAと同様 | 20万円 | 積立 |
出典:財務省「NISA改正のイメージ」より株式会社ZUU作成
現在のNISAが一般NISAとつみたてNISAのどちらか一方しか利用できない点と同じように、改正後の一般NISAとつみたてNISAについても選択制の利用となる。どちらのNISA口座を利用するかについては、投資の目的や利用期間を確認し、長期の資産形成をしたい人はつみたてNISA、数年間の投資で株式投資をしたい人や資産に余裕のある人は一般NISAといった利用を考えてみよう。
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