消防士の年収約636万、給与約40万|手取りや年収アップ法も解説【税理士監修】

本コラムでは、消防士の収入事情にスポットを当て、手取り年収アップの方法について解説する。

消防士の平均年収:約636万3,404円

総務省が発表した「令和4年地方公務員給与の実態」によると、その消防士の学歴や勤務する自治体により消防士の年収は異なることとなるが、消防士の平均年収は約636万3,404円(給与月額40万3,520円×12ヵ月+期末手当・勤勉手当152万1,164円)である)

国税庁が調査・発表している「令和4年分民間給与実態統計調査」では、民間企業に勤めている人の平均給与は約457万6,000円(男性約563万円、女性約314万円)となっているため、消防士は民間企業の会社員と比較すると年収が高い職業といえる。

しかし、この年収は基本給だけの数値ではない。消防士は、職務の特殊性から手当の種類が多く、平均年収額には各種手当が含まれている(下表参照)。

<消防職の平均年収の内訳>

諸手当金額
給与月額合計40万3,520円
給料月額30万1,948円
扶養手当1万3,870円
地域手当2万1,491円
住居手当5,834円
初任給調整手当1円
通勤手当7,727円
単身赴任手当59円
特殊勤務手当8,199円
管理職手当5,593円
特地勤務手当17円
時間外勤務手当2万1,498円
宿日直手当73円
管理職員特別勤務手当125円
夜間勤務手当5,113円
休日勤務手当1万1,972円
ボーナス合計152万1,164円
期末手当85万9,611円
勤勉手当66万1,553円

・平均給与月額:約40万3,520円(諸手当込み)
先ほどの総務省の調査結果で、消防士の平均給与月額が諸手当込みで40万3,520円となっているが、前述した通り、特有の各種手当が含まれており、手当の多寡によって月収額が大きく異なる。手当て抜きの給料月額で見ると30万1,948円だ。

一方、厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、2022年の一般労働者の月額の平均賃金は約31万1,800円(男性約34万2,000円、女性約25万8,900円)となっている。ここに残業代や通勤手当、住宅手当などが加わると、消防士とも大きな差はないと考えられる。

・ボーナス:約152万1,164円
先ほどの総務省の調査結果によると、ボーナス平均額は152万1,164円である。これは「期末手当」「勤勉手当」の合計額だ。

期末手当は、給料月額に各種手当を含めた賃金月額の数ヵ月分である。勤勉手当は、各職員の勤務成績に応じた手当であり、勤務成績によって変動する。

国税庁の「令和4年分民間給与実態統計調査」によると、2022年の民間企業で働く人の平均賞与は約71万6,000円(男性約91万7,000円、女性約44万1,000円)となっている。諸手当が含まれているとはいえ、ボーナスに関しては消防士のほうが比較的高いといえるだろう。

・消防士の初任給:大卒約18万7,240円/高卒約15万7,110円
前出の総務省のデータによると、消防士の初任給は大卒で約18万7,240円、高卒で約15万7,110円だ。

一般財団法人労務行政研究所が発表した「2023年度新入社員の初任給調査」では、東証プライム上場企業157社の初任給データがまとめられており、それによると大卒の初任給は約22万5,686円、高卒が約18万3,388円である。

東証プライム上場企業と比較すると、消防士の初任給は高くない。

・会社員との年収、月給、ボーナス、初任給の比較

消防士の年収約636万、給与約40万|手取りや年収アップ法も解説【税理士監修】

前述の国税庁の「令和4年分民間給与実態統計調査」によると、2022年における民間企業の平均給与は約457万6,000円、そのなかから正社員だけを抽出すると約523万円である。これらのデータを比較すると年収や月給は消防士のほうが高いように見える。

しかし、あくまでも消防士は諸手当がすべて含まれた金額での比較だ。初任給を見ると民間企業のほうが高い。このことから、消防士の年収は「手当次第」であることがわかる。

消防士の年収・月給・ボーナスの手取り額

ここまでは、額面での収入を紹介および比較してきた。額面ではなく最終的な手取り額についてはどうだろうか。額面給与からは、所得税や住民税、健康保険料、厚生年金などが差し引かれるため、これらが差し引かれたあとの手取り額を「手取り計算ツール」を用いて試算してみよう。

なお、「手取り計算ツール」では雇用保険も算出されるが、公務員は雇用保険がないため、ここでは差し引かないこととする。

【前提条件】

  • 勤務地:東京都
  • 年齢:35歳
  • 配偶者:あり
  • 配偶者年収:100万円
  • 額面年収:636万円
  • 額面月給:40万3,333円
  • 額面ボーナス:152万円

この条件から得られた手取り額の試算結果は以下のとおりだ。

・手取り年収

額面年収:636万円

<差し引かれる費用>
所得税:約18万6,300円
住民税:約29万8,800円
健康保険:約32万2,000円
厚生年金:約58万9,260円
介護保険:0円
雇用保険:0円

手取りの年収:約496万3,640円

・手取り月給

額面月給:40万3,333円

<差し引かれる費用>
所得税:約1万1,815円
住民税:約1万8,949円
健康保険:約2万500円
厚生年金:約3万7,515円
介護保険:0円
雇用保険:0円

手取り月給:約31万4,555円

・手取りボーナス

額面ボーナス:152万円

<差し引かれる費用>
所得税:約4万4,524円
住民税:約7万1,411円
健康保険:約2万500円
厚生年金:約7万6,000円
介護保険:0円
雇用保険:0円

手取りボーナス:約118万8,985円

消防士が高年収の理由

手取り額で見ると「それほど高くはない」と感じる側面はあるものの、額面収入よりも手取り収入が少ないのはどの職業でも同じだ。それを含めて消防士が他の職業よりも高収入であることには、以下のような理由がある。

・消防士にしかない手当があるから
前述のように消防士の職業的な特殊性ゆえに特有手当が多い傾向だ。大別すると「危険な任務に伴う手当」と「24時間体制を維持するために必要な手当」といった具合だ。自治体によって名称や取り扱いは異なるが、主に以下のような手当がある。

・高所活動危険手当
・災害業務手当
・ヘリコプター操縦手当
・夜間特殊勤務手当
・日直手当
・変則勤務手当
・救急手当
・火災調査手当
・査察業務手当 など

これらの手当を積算することにより、消防士の平均年収が押し上げられている。

・ボーナスが安定的に支給されるから
消防士は、公務員なので給与面に安定感がある。ボーナスは夏と冬の2回、安定的に支給されており、支給額は夏、冬ともに2ヵ月分以上である。

一般的に民間企業は、ボーナスの金額は業績によって大きな変動するが、消防士にはそれがない点も強みといえる。

・退職金が高いから
退職金は、生涯賃金のなかで大きなウェイトを占める。特に退職金の支給が約束されている公務員は、退職金を考慮に入れた人生設計が可能だ。もちろん消防士も同様で、定年退職まで勤務すれば数千万円クラスの退職金が支給される。
公務員と民間企業の退職金を比較してみよう。

<地方公務員の退職理由別退職手当1人当たり平均手当額>

退職理由一般職員一般職員のうち一般行政職員
自己都合の退職等310万2,000円255万6,000円
11年以上25年未満勤続後の
定年退職等
1,147万2,000円1,159万6,000円
25年以上勤続後の
定年退職等
2,123万6,000円2,208万7,000円

<退職者1人平均退職給付額(勤続 20 年以上かつ 45 歳以上の退職者)>

退職理由平均退職給付額
定年1,896万円
会社都合1,738万円
自己都合1,441万円
早期優遇2,266万円

表の通り、定年まで勤めた場合は地方公務員のほうが退職金は高くなる。

さらに年収を上げる方法

消防士としてさらに年収を上げたい場合、「上級役職を目指す」「昇給を目指す」「副業として投資をする」の3つの方法が有効だ。特に3つ目の副業については、公務員であっても取り組めるものがあるため、解説する。

上級役職を目指す

公務員の給与は、役職や階級に応じて決まる。業績による影響が大きい民間企業と大きく異なるのは、その点だ。

役職は働きぶりや勤続年数などによって位の高いポストに就ける可能性はあるが、階級を上げていくには昇任試験に合格する必要がある。合格すれば階級が高くなり、上級役職に就ける可能性も高くなるだろう。

受験ができる勤続年数などに若干の差はあるものの、学歴に関係なくこうした機会が与えられているのは消防士の強みとなるため、年収アップを目指すのであればチャレンジあるのみだ。

・昇任試験の概要
試験は一次試験、二次試験に分けられている。試験内容は地方自治体により異なるが、一般的な内容は以下のとおりだ。

<一次試験>
・筆記試験
・小論文

<二次試験>
・面接
・実技

・消防吏員の階級と仕事内容
消防吏員とは、階級を有し、主に消火や救急といった業務を行い、さらに救助、査察なども行う者のことを指す。以下の10の階級があり、いわゆる消防士は一番下の階級である。

<消防吏員の階級と職務の例>

階級職務(例)
人口30万人規模の消防本部人口10万人未満の消防本部
消防総監
消防司監
消防正監消防庁
消防監部長・署長
消防司令長副署長・課長指揮隊長消防長
消防司令課長補佐・係長指揮隊長署長・課長指揮隊長
消防司令補主任隊長課長補佐・係長隊長
消防士長副主任隊長・機関員・隊員主任隊長・機関員・隊員
消防副士長係員機関員・隊員係員機関員・隊員
消防士係員機関員・隊員係員機関員・隊員

・各階級の年収について
次に、消防吏員の各階級の月給と年収を人事院の公安職俸給表(一)から算出する。なお、ここでは年収に含むボーナスは月給2ヵ月分×2回で算出する。

<階級ごとの俸給月額と年収>

階級職務の級号俸俸給月額年収
消防監・消防正監・消防司監・消防総監8級1号俸38万4,600円615万3,600円
61号俸45万6,100円729万7,600円
消防司令長7級1号俸35万1,800円562万8,800円
85号俸44万1,900円707万400円
6級1号俸32万6,500円522万4,000円
93号俸42万6,300円682万800円
消防司令5級1号俸30万2,500円484万円
93号俸41万6,800円666万8,800円
4級1号俸26万5,300円424万4,800円
125号俸39万9,400円639万400円
消防司令補3級1号俸22万7,900円364万6,400円
141号俸38万2,000円611万2,000円
消防士長2級1号俸20万4,100円326万5,600円
145号俸36万2,600円580万1,600円
消防士・消防副士長1級1号俸18万8,100円300万9,600円
125号俸32万5,900円521万4,400円

上記はあくまで目安である。諸手当やボーナスにより、金額が異なってくることは覚えておきたい。

昇給を目指す

消防士を含む公務員の給与を決める要素の一つに、「号俸」がある。公務員の昇給は、基本的に年1回で昇給幅は「4号俸」が基本だ。しかしこれは、一般的な能力評価の場合であり、特に働きが高く評価された人については最大で「8号俸」まで昇給させることができる。

消防士の年収約636万、給与約40万|手取りや年収アップ法も解説【税理士監修】

この制度を生かすと、日ごろの勤務態度やがんばりによって年1回の昇給幅を大きくすることが期待できるだろう。役職や階級以外の部分で昇給を目指すのであれば、年に1回(1月1日)の昇給幅を最大化する努力を検討したい。

副業として投資をする

3つ目に紹介する方法は、本業の消防士ではなく副業によるものだ。なかには、「公務員は副業できない」と思っている人もいるかもしれない。しかし「投資」であれば本業に支障が出るほどの労働を伴わないため、合法的に取り組むことができる。

そこで消防士であっても取り組める副業のなかで比較的安全性の高いものとして国債や投資信託、不動産投資を紹介していく。

・国債
国債とは、国の借金の証文だ。日本政府が発行している国債は、個人向け国債として販売されており、個人も手軽に購入可能である。日本が破綻しない限りは元本保証であり、2023年12月7日(木)~12月29日(金)に募集している第165回「変動10年」の金利は0.46%だ。

決して高金利とはいえないが、定期預金と比べると金利は高い傾向にある。

・投資信託
投資家から集めた資金をプロのファンドマネージャーが運用し、そこで得られた利益を投資家に還元するのが投資信託だ。株式や債券、不動産などさまざまな資産で運用している銘柄があるため、選択肢も豊富なのが特徴である。最大のメリットは、プロに運用を託すため、初心者に向いている点だ。

また複数の資産に分散投資をしているため、リスクも分散される。一方で運用をプロに任せるためのコストとして毎営業日「信託報酬」が発生する。さらに投資信託は、基本的に元本保証ではないため、元本割れのリスクがあることも留意しておきたい。

・不動産投資
アパートやマンションなどを所有し、家賃収入や売却益を狙うのが不動産投資だ。上記2つの投資と比べると実務を伴うため「公務員の副業として禁止されているのではないか」といった懸念を抱く人もかもしれない。しかし独立した建物が5棟、もしくは区分所有物件が10室という基準の範囲内であれば合法的に不動産投資ができると規定されている(人事院規則14-8)。

公務員は、収入が安定しているため、物件を購入する際に融資を組む場合は比較的審査に通りやすくなる。公務員が不動産投資をする際には、この強みを大いに生かすべきだろう。

ただし「不動産投資は比較的リスクが低い投資」とされているが、入居者がつかない空室リスクや、売却時に安い価格でしか売れないことによる譲渡損失など、さまざまなリスクはある。こうしたリスクについては、それぞれ有効な対策があるため勉強してから取り組む必要がある。

【関連記事】公務員の投資は副業にあたる?株式や不動産投資などは可能!

消防士の年収に関するQ&A

Q.消防士の月収はいくら?
2022年の実績で、消防士の平均月収は40万3,520円(諸手当込み)。消防士には、特有の各種手当があるため、給与にこうした手当が多く含まれている。そのため他の職種と比べると消防士は高収入な傾向だ。

Q.高卒消防士の年収は?
高卒消防士の初任給は、約15万7,110円だ。ボーナスの実績が年間で約4ヵ月分と仮定すると高卒消防士の年収は、約251万円からスタートすることになる。ただしこれは、諸手当が含まれていない。高卒であっても消防士には多くの手当がつくため、実際の年収はこの金額よりも高くなるだろう。

宮路 幸人
税務に関する記述の監修

宮路 幸人
税理士・CFP・宅建士・マンション管理士

会計事務所での長い勤務経験で培った豊富な実務知識により、会計処理・税務処理および経営や税務に関する相談など、さまざまな問題に対応。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格を保有し、不動産と相続関連に強みを発揮する。特に相続関連では、税務面だけでなく、家族の幸せを重視したトータルでの提案を行っており、軽いフットワークでお客さまのニーズに応えることをモットーとする。離島支援活動にも積極的。
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