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公的年金は老後生活の柱となるものではありますが、将来の年金額は人それぞれ異なり、また希望とする老後の生活も人それぞれ異なるため、公的年金のみでは、老後の生活をすべて保障できるわけではありません。

人生100年時代に備えるためには、公的年金以外の資金対策が必要となります。ここでは、まずご自身がの将来受給できる年金を考え、老後の不足額を確認し、対策について考えていきましょう。

老齢年金について

公的年金制度とは

日本の公的年金制度は、老後の暮らしをはじめ、事故などで障害を負ったときや、一家の働き手が亡くなったときに、みんなで暮らしを支えあうという社会保険の考え方で作られた仕組みです。

「国民皆年金」という特徴も持っており、①20歳以上の人が共通して加入する国民年金と②会社員や公務員等が加入する厚生年金よる2階建て構造になっています。
当コラムでは、高齢になり、会社を退職するなどして所得が低くなったときに生活の支えとなる、老齢基礎年金と老齢厚生年金について解説します。

まず初めに老齢基礎年金と老齢厚生年金の特徴についてご説明します。
老齢基礎年金は、保険料納付済期間と保険料免除期間などを合算した受給資格期間が10年以上ある場合に受け取ることができる全国民に共通した基礎年金です。
一方、老齢厚生年金は、老齢基礎年金を受け取れる方に厚生年金の加入期間(一例として、サラリーマン等組織に所属する期間)がある場合に、報酬額や加入期間等に応じて、老齢基礎年金に上乗せして受け取ることができる年金です。

老齢基礎年金と老齢厚生年金の受け取り開始時期は基本的に65歳からですが、
60歳からの繰上げ受給(受給前倒し)や、66歳以降75歳までの繰下げ受給(受給先送り)も可能です。
なお、繰上げ受給する場合は、1カ月繰上げるごとに0.4%減額。繰下げ受給する場合は1カ月繰下げるごとに0.7%増額します。

厚生労働省ホームページ 年金制度基礎資料集
厚生労働省ホームページ 年金制度基礎資料集

私的年金制度とは

私的年金は、公的年金の上乗せの給付を保障する制度です。この制度は、高齢期により豊かな生活を送るための制度として重要な役割を果たしています。企業や個人は、多様な制度の中からニーズに合った制度を選択することができます。

企業単位
企業型確定拠出年金(DC) 掛金と自らの指図による運用の運用益との合計額をもとに、給付額が決定される年金制度
確定給付企業年金(DB) 企業と従業員間の規約に基づき、あらかじめ決められた額を給付する制度
厚生年金基金 国に代わって厚生年金の給付の一部を代行して行う)とともに、企業の実情に応じて独自の上乗せ給付を行うことができる制度
個人単位
国民年金基金 自営業者やフリーランスなど国民年金の第1号被保険者が、老後の所得保障の充実を図るために、任意で加入する制度。地域型国民年金基金と職能型国民年金基金がある。
iDeCo(個人型確定拠出年金) 20歳以上65歳未満の人が加入できる制度。加入者自身が掛金を拠出し、運用商品も加入者が選んで積み立てる。
個人年金 民間の生命保険会社などが取り扱う年金商品

ねんきん定期便の見方~みなさんの年金受給額を確認しよう~

ねんきん定期便 ハガキ

日本年金機構HP 「ねんきん定期便」の様式(サンプル)
日本年金機構HP 「ねんきん定期便」の様式(サンプル)

毎年誕生月に、自身の年金記録が記載された「ねんきん定期便」が届きます。通常はハガキで直近1年の年金記録が届きます。

50歳未満の「ねんきん定期便」は、将来受給できる年金額ではなく、現段階の加入実績に応じたもらえる年金額が記載されています。

50歳以上の「ねんきん定期便」は、60歳まで継続して加入したと仮定して、65歳から受け取れる年金見込み額が記載されています。また、年金の受給年齢を70歳、75歳でまで繰下げ遅らせた場合の老齢年金見込み額を確認することができます。

ねんきん定期便 封書(35歳、45歳、59歳)

日本年金機構HP 「ねんきん定期便」の送付用封筒等の様式(令和5年度送付分)
日本年金機構HP 「ねんきん定期便」の送付用封筒等の様式(令和5年度送付分)

35歳、45歳、59歳の誕生月には、封書で全期間の年金記録が送られてきます。
記載されている年金加入記録は、年金加入履歴に未納部分がないか、厚生年金保険料の標準報酬月額に大きく誤りがないか等を、確認しましょう。

特に、転職をされている場合、海外に住んでいた期間がある場合等、生活環境に変化があった時期の年金記録が、適切に反映されているか確認しましょう。
配偶者の扶養に入り、国民年金第3号被保険者になっていたのに、会社側が手続きをしておらず、未納扱いになっていたということも、稀にありますので注意が必要です。

確認をして、何か不備があった場合には必ず年金事務所へ相談しましょう。誤りに気付かなかった合、年金が本来よりも減額されてしまう可能性があります。

社労士佐藤三和が教える老後資金対策 ~老後の不足額を確認して対策を考える~

老後のライフプランを考えよう

老後必要額を計算

人それぞれ、老後を「どう生きたいか」によって、必要になるお金はさまざまです。

総務省の「家計調査年報2021年」によると、65歳以降の夫婦のみの無職世帯の消費支出は、月平均で22万4,436円です。ご自身がどういったライフプランを送りたいかを考えることで、具体的なライフプランを考えることができます。

老後の年金収入を確認

老齢基礎年金:79万5,000円 【2023年度満額年金額】
(※国民年金保険料を40年間納付している場合は、満額となりますが、納付実績によっては、減額となります。)
一例として、商店街の蕎麦屋さん、魚屋さんなどいわゆる自営業者は、老齢基礎年金のみで、
老齢厚生年金の受給はありません。

老齢厚生年金:以下の早見表を参照
(※株式会社等の組織に所属する会社員だったときの報酬や期間により年金額は異なります。)
一例として、サラリーマンや公務員などの厚生年金保険加入者は、老齢基礎年金に上乗せして
老齢厚生年金の受給があります。

老齢厚生年金の受給額の目安 早見表 (年額)
平均標準報酬額
加入年数 20万 30万 40万 50万
10年 13.8万円 20.8万円 27.7万円 34.6万円
20年 27.7万円 41.5万円 55.4万円 69.2万円
30年 41.5万円 62.3万円 83.1万円 103.8万円
40年 55.4万円 83.1万円 110.8万円 138.5万円
※早見表は、昭和21年4月2日以降生まれの方の乗率を使用しています。

なお、60歳以降働きながら(厚生年金に加入しながら)年金を貰う場合には、給料と年金額の合計に応じ、厚生年金の全部又は一部がカットされることもあります(在職老齢年金制度)。

老後後資金対策

老後の生活のイメージができたところで、将来に向けて、今から何ができるかを検討してみましょう。例えば、老後は夫婦で年1度は旅行に行きたい、老後は毎月○○円で理想の暮らしを実現したいなど、さまざまな夢や希望があれば、現状もしかすると収支が見合わない方もいらっしゃるかもしれません。その場合、以下の対策が必要になります。

老後後資金対策

具体的には、余命をベース(最近では、人生100年時代を視野にプランニングを希望される人も増えてきました。)に、今後のライフプラン(海外旅行や生活費など)を数値化した支出トータルを算出し、収入トータル(公的年金など)と比較した上で、差額(不足分)を求めていきます。
こうして差額(不足分)が求まった段階で、この差額に対して対策を考えていくのです。
具体的には、「収入を増やす」・「支出を減らす」・「資産運用を検討する」などが考えられます。

「収入を増やす」
現在の高年齢雇用安定法では、65歳までの雇用確保が義務化されており、70歳までの就業確保は努力義務となっています。そのため、今後、高齢になっても働くという選択肢が増えていくことでしょう。しかしながら、ご自身がいつまで働く意欲があるかどうかも重要な問題です。具体的に何歳までいくら労働収入が確保できるかについても検討してみましょう。

「支出を減らす」
月1万円の支出の減少は、30年間で360万円の支出減少につながります。
現状、何に使われているか分からないお金(=使途不明金)が多い方もいらっしゃるのではないでしょうか。現状の支出の内容を再度確認したうえで、使途不明金を少なくすることや、保険の見直しなど、これをきっかけにして支出の見直しをしてみることも良いでしょう。

「資産運用を検討する」
人生100年時代に備えるためには、公的年金にだけ頼るのではなく、資産運用で備えていくことも検討してみましょう。一口に資産運用としても、預貯金の他、株式・債券・投資信託など様々な金融資産の運用の種類があり、また、老後、継続的に収入を確保するための一つの方法として、不動産投資もあります。

一例として、シミュレーションをして収入と支出の差額を計算した結果、月額6万円の差額(不足分)が生じたとします。その差額(不足分)の穴埋めとして、不動産投資の手取り家賃収入で賄ったり、金融資産の運用をしていたりしきつつ、金融資産を取り崩して生活していくことができれば、理想の生活が実現できるわけです。

ただ漠然と、金融資産を増やす目的で運用を考えたり、や不動産投資を考えるのではなく、将来のライフプランを考えた上で、将来の支出と収入の不足分を賄うためにはどうしたらよいかという発想が望ましいと言えます。

この機会にご自身の目標や元手を考慮して、勉強してみたり、専門家に相談したりしてみてはてはいかがでしょうか。

以上、公的年金の制度を軸とした老後資金対策法をご説明しました。

老後について漠然と不安を感じている方もいらっしゃると思いますが、制度を理解すると必然と今からできる対策が見えてきます。公的年金・私的年金・資産運用の3本建てで老後への対策をしてみてはいかがでしょうか。少しでもみなさまの参考になりれましたら、幸いです。

荻島一将司法書士
佐藤三和
佐藤三和社会保険労務士事務所 代表

社会保険労務士法人・大手グループ食品メーカーにて人事労務を担当したのち、2021年開業。 現在は、顧問先の労働・社会保険に関する手続きや労務問題の対応・助成金申請・就業規則の作成・執筆活動などに従事。また、人事部経験を活かし、経営者の良き相談相手になれるよう人事制度設計や人材育成についてのコンサルタントとしても活動中。


社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)、AFP(ファイナンシャル・プランナー)、高度年金・将来設計コンサルタント 、健康経営エキスパートアドバイザー、第一種衛生管理者 、両立支援コーディネーター 等
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