目次
家主からの解約が可能な条件は、基本的に家主と入居者との信頼関係が破綻していることが考えられる。その他の理由や条件、立ち退き料の相場、賃貸契約解除通知書の書き方について解説する。
家主(貸主・賃貸人)から契約解除ができる理由
不動産賃貸では入居者の居住権を守るため、正当な理由なしに家主から契約を解除することはできない。家主から契約を解除(または解約、以下同)できる理由の正当性は、以下のような項目について総合的に考慮したうえで判断される。
・物件の家主および入居者が建物の使用を必要とする事情
・物件の賃貸借における従前からの経過状況
・物件の利用状況
・物件の現在の状況
・物件の家主が建物の引き渡しに応じてもらう条件と引き換えに、入居者へ金銭上の給付を行う旨の申し出(立ち退き料が必要な理由のケースのみ)
・物件の家主および入居者が建物の使用を必要とする事情
立ち退き要求の場合は、老朽化による建物の建て替えや資金の必要による売却のためなどの事情が考慮される。ただし規模の小さな補強工事の場合、認められない可能性が高い。
・物件の賃貸借における従前からの経過状況
「どのような経過で賃貸借関係が設定されたか」「家賃は適正な価格だったか」「当事者間に信頼関係はあったか」など、従前からの経過状況が考慮される。
・物件の利用状況
入居者が契約内容に従って建物を使用しているかどうかが考慮される。入居者が契約で禁止されている行為を行って建物に損傷を与えたり、ほかの入居者に迷惑をかけていたりするといった状況があれば、当然立ち退き要求の要件となる。
・物件の現在の状況
入居者が使用した結果、建物の現状がどのようになっているかが考慮される。入居者の落ち度によって建物に損傷を与えた部分の原状回復費用は、入居者へ請求できる。
・物件の家主が建物の引き渡しに応じてもらう条件と引き換えに、入居者へ金銭上の給付を行う旨の申し出(立ち退き料が必要なケースのみ)
家主が入居者に立ち退き料の支払いを用意しているかどうかが考慮される。ただし、立ち退き料を支払えば必ず正当な事由と認められるわけではない。
契約解除できる条件は信頼関係の破綻
契約解除できる条件は家主と入居者の信頼関係が破綻していることである。その代表的なケースとして家賃の滞納が多く挙げられる。家賃を支払うことで建物を利用できる旨を承知して入居しているので、家賃を支払わないことは入居者の債務不履行に当たる。
ただし、家賃の支払い方法が口座引き落としの場合、単純ミスで残高不足になることもあるので1回の振替不能ですぐに契約解除できるわけではなく、数回続いた場合である。
また直接集金なら再三催促しても支払わないなど、信頼関係が壊れたと判断されやすい状況であることが必要だ。信頼関係が壊れたと判断される家賃滞納の目安は一般的に3ヵ月とされている。
ほかにも、ペット禁止物件でペットを飼育していることや、騒音や異臭などトラブルが多いことも、信頼関係が壊れたと判断される要因になる。
ほかに契約解除できる条件としては、以下の3つのようなケースがあてはまる。建物の老朽化による建て替えや土地・建物の売却など家主側の事情で契約を解除する場合は、立ち退き料の支払いが必要になる。
・建物の老朽化による建て替え
建物が老朽化して倒壊の恐れがあったり新耐震基準を満たしていなかったりする物件は、建て替えや補強工事が必要なため、立ち退きを要求する正当な事由となる。
老朽化する一般的な目安は、築30年以上だ。しかし年数が経過していても小規模な工事で修復が可能と判断された場合は、立ち退き要求が認められないケースもある。
・土地・建物の売却
家主の物件売却に伴い、解約を申し出るケースもある。これは、入居者に立ち退いてもらったほうが高く売れる事情があるためだ。売却による立ち退き要求が認められるには「遺産分割をするため」「相続税の支払い」「債務の返済」など売却の必要性が重視される。
ただしオーナーチェンジで売却する場合は、入居者が住んでいる状態で所有者のみが変わるシステムのため、立ち退き要求は認められない。
・家賃滞納以外の入居者の違反行為
家主は、入居者に対して入居契約の際に禁止行為を説明している。例えば「入居者以外の人を物件に住まわせている」「物件を第三者に又貸しした」といった具合だ。契約で禁じられている行為を行った事実がある場合は、入居者の違反行為となるため、立ち退き要求の正当な事由として認められる。
EYグループの不動産部門、ゴールドマン・サックスグループの不動産ファンド部門勤務を経て2016年に独立した同氏がどのようなプロセスを経て投資規模を拡大しているのか。その物件選定の方法や融資戦略を具体的に深掘りして解説しています。
クリックして詳細を確認する
借主(賃借人)への立ち退き料の支払いは必要なのか?
契約を解除する場合、立ち退き料を支払う必要があるのかは気になる点だ。先に紹介した「解除できる理由の正当性を判断する項目」にあるように、入居者に金銭上の給付を行うことが求められるため、立ち退き料が発生すると考えるべきだろう。
しかし、立ち退き料を支払う必要がないケースもあるため、以下を参考に支払いの有無を判断するとよいだろう。
一般的な立ち退き料の相場
立ち退き料が必要なのは、建物の建て替えや物件の所在地が再開発されるなど家主側の事情で契約を解除する場合である。一般的な立ち退き料の相場は、オフィス、店舗、マンションなど物件タイプによって異なる。
一般的なマンションなどの住戸の場合、過去の立ち退き料の算定には借家権価格や個々の事情を勘案して算出されるが、百万円単位の立ち退き料の支払いで解約が認められるものが散見されることから同程度の金額はかかるものと想定される。
立ち退き料が不要なケース
先に紹介した家賃滞納のように入居者側に解除される理由がある場合や、「定期建物賃貸借契約」を結んでいて退去期限が決まっている場合などは立ち退き料が不要である。
国土交通上のQ&Aによると定期建物賃貸借契約は、以下のような契約だ。
「定期建物賃貸借契約は、契約で定めた期間が満了することにより、確定的に契約は終了しますが、賃貸人及び賃借人の双方で合意すれば、改めて再契約をし、引き続きその借家への居住を続けることができます」
出典:国土交通省「定期建物賃貸借 Q&A」※この先は外部サイトに遷移します。より株式会社ZUU作成
「賃貸契約解除通知書」とは何か
賃貸契約解除通知書とは、契約を交わした当事者の一方が何らかの理由で契約を解除したい場合に、相手方に通知する文書のことである。契約は基本的に当事者間の意思が合致することによって成立するが、状況の変化などによって継続が困難になる場合もあるだろう。
そこで民法540条では、以下のように規定されている。
契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする
出典:e-Gov法令検索「民法」※この先は外部サイトに遷移します。
契約時に契約書を作成した場合は、相手方に自分の意思を確実に伝えるために書面で通知するのが一般的である。この書面に当たるのが、賃貸契約解除通知書だ。
賃貸契約における「解除」「解約」の違い
「解除」とは、その契約が最初からなかったことにすることをいう。例えば一定期間なら無条件で契約を解除できる「クーリングオフ」が該当する。賃貸契約では、退去時に原状回復義務が生じるため、契約当初の状態に戻すことが必要だ。
一方の「解約」とは、契約自体は有効だが将来の契約のみを取りやめることをいう。解約した時点から契約は無効となるが、解除と異なり当事者間の話し合いが円満に進むことが多いため、損害賠償に発展するケースは少ない。
通知から退去までの流れはどうなる?
条件を検討した結果、契約を解除できると判断した場合、入居者への通知と退去するまでの流れは以下のようになる。自主管理の場合は賃貸契約解除通知書の書き方も知っておかなければならない。
通知する流れ
入居者への通知から退去までは以下のステップで進める必要がある。
<1.入居者への連絡>
家賃の滞納による契約解除の場合、いきなり賃貸契約解除通知書を送付するのではなく、まず支払う意思があるか電話などで確認することが大事だ。もし支払う意思がなければ連帯保証人に督促するが、それでも支払われない場合に通知に踏み切るというステップを踏む。
<2.賃貸契約解除通知書を内容証明で郵送する>
次に賃貸契約解除通知書を送付するが、必ず「内容証明郵便」を利用するようにしよう。内容証明郵便を利用すると、いつ(年月日)、どのような内容の文書が誰から誰に差し出されたかを、日本郵便株式会社が証明してくれる。
これによって相手方が「そのような郵便は受け取っていない」と言い張ることができなくなるので安心だ。訴訟になった場合の証拠にもなる。
内容証明は、一般書留郵便物の内容文書について証明する郵便サービスで加算料金は480円(2枚目以降は290円)となる。
基本料金 + 一般書留の加算料金 + 内容証明の加算料金
上記の式により総額が計算される。内容証明を利用する場合は、一般書留とする必要があり、はがきでは利用できない。
<3.入居者が同意した場合は契約解除を行い、建物を明け渡してもらう>
入居者の同意を得たら契約解除と建物の明け渡しを求めるが、ここで勘違いしてはならないのは、明け渡した場合でも滞納している家賃は支払わなくてはならないことだ。滞納分の家賃は必ずもらうようにしよう。
万一同意しなかった場合は「不動産明渡請求訴訟」を行う。明け渡しと滞納家賃の支払いを求めるが、判決前に和解が成立した場合は、明け渡しを求めることが可能だ。
契約解除の判決が出た場合に、強制執行日までに入居者が退去しなかった場合は、執行官が立ち会いのもとで家具などが強制執行で運び出される。
賃貸契約解除通知書の書き方
物件の管理を不動産管理会社に委託している場合は、入居者への督促や賃貸契約解除通知書の送付は不動産管理会社が行ってくれる。自主管理の場合は自分で行わなくてはならないので、賃貸契約解除通知書の書き方を知っておく必要がある。
通知書に記載すべき内容は以下のとおりである。例として居住用不動産で家賃の滞納を理由に入居者に通知する場合を挙げておく。
・通知日
・宛名(例:〇〇マンション〇〇号室、〇〇殿)
・家主氏名
・通知書の表題(例:家賃滞納による賃貸借契約の解除通知)
・契約を解除する理由
・契約期間満了日
・物件名、住所
・入居者氏名
・家賃滞納金額
・滞納家賃の支払期日
引越し代や原状回復費用は借主の負担
解約するとかかる引越し代や原状回復費用は、原則として借主の負担となる。ただし次に説明するようなケースでは、家主の負担になることもあるため、注意が必要だ。
家主負担となるケースは経年劣化や通常摩耗
原状回復費用が家主負担となるケースは、経年劣化や通常摩耗を原因とするものである。例えば、国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」※この先は外部サイトに遷移します。では、以下のような事例が挙げられている。
・家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
・畳の変色、フローリングの色落ち
・テレビ・冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
・クロスの変色(日照などの自然現象によるもの)
・エアコン(賃借人所有)設置による壁のビス穴、跡 など
これらの事由は、入居者が普通に生活していても発生するため、家主が負担するものと判断される。
契約解除できる正当な理由を把握して対応しよう
問題のある入居者との契約を解除したい場合、いきなり通知するとトラブルに発展する可能性が高くなる。相手を納得させるためにも解除の正当な理由を把握してから入居者に対応することが大事だ。
解除の理由は家賃滞納やトラブルだけでなく、老朽化した物件の建て替えや、再開発事業に協力するために建物を取り壊すなど、家主側の理由の場合もある。
家賃延滞時の延滞通知などは管理会社が行ってくれることもあるが、入居者と法的紛議になった場合、法的な手続きまで不動産管理会社が対応することは非弁行為に該当する恐れがあるためできない。オーナー自身が対応するか弁護士に依頼することが望ましいだろう。
弁護士に相談すれば交渉を一任できる
借主(賃借人)との交渉を一任できる
弁護士に相談する一番のメリットは、借主との交渉を一任できることだ。
賃貸契約解除通知書を送付した後も入居者との交渉は残っている。契約解除するほどの問題ある入居者となるため、建物の明け渡しまでにさまざまなトラブルが発生する可能性もあるだろう。家賃滞納のまま居座られた場合は、より一層損失が大きくなる。
そのため専門家に交渉を任せたほうがオーナーの精神的な負担も軽くなるだろう。
裁判になるケースでも手続きを一任できる
賃貸住宅における入居者とのトラブルでは、裁判に発展することも考えられる。裁判になった場合は、専門的な手続きが必要なため、オーナーだけで対応することは難しい。
この場合も弁護士へ手続きを一任することで強制執行を含め建物の明け渡しまで適切に進めていくことが期待できる。そのため入居者との交渉から万一の裁判手続きまでを専門家へ一任したほうがスムーズに事態を解決する近道となるだろう。
相談費用の目安は50万~100万円ほど
相談費用は立ち退き料を支払って、入居者を物件から退去させることが目的のため、費用内容は手数料となる。着手金と成功報酬、訴訟に発展した場合の追加費用を含め、50万~100万円程度を目安としておきたい。
ただし、この金額はあくまでも目安となるため、詳細は事前に弁護士事務所に確認することが必要だ。
家主からの解約に関するQ&A
Q.家主(貸主・賃貸人)からの解約の正当事由は?
A.家主(貸主・賃貸人)から契約を解約するには、家主と入居者の信頼関係が破綻していることが条件だ。例えば以下のような事例の場合は、解約の正当事由に該当する。
・家賃を滞納して再三催促しても支払われない
・ペット禁止の契約にも関わらず内緒でペットを飼っている
・騒音や異臭を発してほかの入居者に迷惑をかけている など
・入居者以外の人を物件に住まわせた
・物件を第三者に又貸しした など
ほかにも、老朽化による建物の建て替えや家主のやむを得ない事情での物件売却のために立ち退きを要求する場合もある。このケースでは、立ち退き料の支払いが必要だ。
Q.家主(貸主・賃貸人)から退去通知するには?
A.家主(貸主・賃貸人)から入居者に退去通知するには、以下のような手順で進める。
1.入居者へ連絡する
2.賃貸契約解除通知書を内容証明郵便で送付する
3.入居者が同意した場合は契約解除を行い、建物を明け渡してもらう
家賃滞納による解約の場合、通知書を発送する前に支払う意思や、最終的な意向を確認する。支払う意志がない場合は連帯保証人に督促し、それでも支払われなければ通知書を発送する手順で行う。
Q.退去通知の文例はあるか?
A.賃貸契約解除通知書に決まった文例はないが、インターネット上に無料でダウンロードできるテンプレートがある。オリジナルで作成したい場合は、以下のような文例を参考にするとよいだろう。以下で紹介するのは、未払い賃料の催告と契約解除を同時に行うケースの文例である。
家賃滞納による賃貸借契約の解除通知書
令和〇年〇月〇日
〒〇〇〇-〇〇〇〇
東京都〇〇区〇〇町1-1
〇〇殿
〒〇〇〇-〇〇〇〇
東京都〇〇区〇〇町3-1
通知人〇〇
前略 通知人は貴殿に対し、未払い賃料について以下のとおり通知します。
通知人と貴殿は、令和〇年〇月〇日に、以下の条件で賃貸借契約を締結し、以下の建物の引き渡しを行いました。
建物所在地:東京都〇〇区〇〇町1-1
物件名:〇〇マンション
部屋番号 〇号室
賃貸借期間:令和〇年〇月〇日~令和〇年〇月〇日
賃料:1ヵ月につき〇万円
しかし貴殿は、令和〇年〇月分以降の家賃を滞納し、その未払い金額は〇万円となっています。
つきましては、通知人は貴殿に対し、本通知が到着してから〇日以内に、未払い賃料全額を支払うよう請求します。
万一上記期限内に全額の支払いがなかった場合は、再度通知することなく、本書をもって貴殿との本件賃貸契約を解除します。その場合は、速やかに建物を原状回復した上で、通知人に明け渡していただくようにお願いします。
草々
manabu不動産投資に会員登録することで、下の3つの特典を受け取ることができます。 ①会員限定のオリジナル記事が読める ②気になる著者をフォローできる ③気になる記事をクリップしてまとめ読みできる |
- 【オススメ記事】
- 「FPの私ならここを見る」 プロが語る不動産投資とは?
- 不動産投資の種類はいくつある?代表的な投資方法を紹介
- 少額から始められる不動産投資4選
- 不動産投資は30代から始めるべき?メリットや注意点について解説
- 初めて不動産投資をする際に気をつけることとは?
- コラムに関する注意事項 -
本コラムは一般的な情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的とするものではありません。
当社が信頼できると判断した情報源から入手した情報に基づきますが、その正確性や確実性を保証するものではありません。
外部執筆者の方に本コラムを執筆いただいていますが、その内容は執筆者本人の見解等に基づくものであり、当社の見解等を示すものではありません。
本コラムの記載内容は、予告なしに変更されることがあります。