元ローン担当者の少しマニアな独り言〜不動産投資家になられる方に知っていただきたい不動産のお話〜【第6話】

不動産関連業務キャリア数十年のオリックス銀行元ローン担当者が、いままでの経験から皆さまに知っていただきたい不動産のお話を連載で綴っていきます。

第6話 売り出された物件の「利回り」に惑わされないように

「利回り」という指標が、不動産投資の世界では買主の判断材料の1つとして見られています。

この数値がなるべく高いほうが良いのでしょうが、一方で、利回りの高低だけで物件購入の判断をしてしまっては本質を見誤ります。

この指標は、現在の賃料で計算しているだけで未来永劫続くわけではなく、将来の賃料下落や空室の可能性、必要な修繕費などは織り込まれていないので、気を付けていただきたいものです。

【利回りに関して注意すべきこと】
・現在の賃料が今後も継続して得られるわけではない
・将来の賃料の下落、空室や修繕の発生は織り込まれていない

最近は、この点に警鐘を鳴らす記事も多くあり、まったくの初心者でない限りは利回りだけで判断する人は減ってきたと思われますが、基本的な注意点なので採り上げておきます。

今回は、不動産業者が表面上の利回りを高く見せようとするテクニックや、買主が利回りを求めるあまりついつい見落としてしまいがちな要素について触れていきたいと思います。

なお、当社には、過去の事例や駅からの距離などに基づく賃料相場、その賃料の減額予測、空室率予測などからAIで将来のキャッシュフローを算出する「キャッシュフローシミュレーター」というサービスがあります。無料の会員登録をすればどなたでも利用いただけますので、投資判断の一助として活用いただければ幸いです。

<appendix> 賃貸募集ポータルサイトなどの「賃料」の定義について

一般的な入居募集広告においては、「賃料」とそれに併記された管理費や共益費が存在します。

世間では前者のみを賃料と言う方もいらっしゃいますが、管理費(共益費)の金額自体にはほとんど根拠がない場合が多く、賃料を2つに分割した単なる内訳に過ぎません。プロの世界では基本的には管理費(共益費)込みで「賃料」と呼ぶのが通例です。

例えば広告で「賃料49,000円+管理費3,000円」と「賃料51,000円+管理費1,000円」という2つの物件が掲載されていたとします。プロの世界では基本的に同じで管理費込み52,000円として扱います。

新築物件の場合(入居募集をこれから始める場合)について

では、新築物件で意図的に表面利回りが高く設定されているケースを2つご紹介します。

・高めの募集賃料で利回りを良く見せかけるケース
・賃料以外の要因によって割高な賃料設定でも入居が維持されているケース

それぞれについて詳しく説明し、その対応策についても解説します。

高めの募集賃料で利回りを良く見せかけるケース

新築投資物件の募集賃料について、良識的な不動産業者であれば賃料相場を踏まえて設定しているはずですが、残念ながら、利回りを高く見せるために賃料相場を無視した設定をしているケースも見受けられます。

ローン審査でも、基本的に周辺事例を調査して相場から逸脱していないかを確認しますが、買主の皆さまにもぜひ賃料相場の調査を心掛けてほしいと思います。

もちろん、チャレンジとして強気の賃料設定をすること自体を否定はしません。というのも、実際に入居が決まる要素としては賃料の高低だけでは計れないものもあり、周辺に比べ割高でも入居が決まるときもあります。

不動産業者から勝ち誇ったように後で言われますが、やはり、入居者にとって、デザインや間取り・付属設備の良し悪しなど、別の要因が決め手になるケースも当然ありえます。

ただし、相場よりも高い賃料であるがゆえに入居が決まるまでに時間を要する可能性や、結局募集賃料を下げざるを得なかったりするリスクは認識しておくべきだと思います。

<対応策>
周辺の賃料を調査して、相場から逸脱していないか調べる

賃料以外の要因によって割高な賃料設定でも入居が維持されているケース

これは後で説明する中古物件にも共通することですが、賃料が相場と乖離していても、賃料以外の要因によって入居が決まっているケースがあります。

例えば、敷金礼金の金額が周辺物件よりも低く設定されていたり、何カ月間ものフリーレント条件であったり、いわゆる「AD」と呼ばれる広告料(家主が支払うもの)が多く支払われており、不動産業者による恣意的な募集が行われていたりするケースです。

こういった要因で入居が維持されている事情を知らずに、現在の賃料が相場であると勘違いして購入してしまい、同額の賃料では入居率が上がらずに苦戦することも起こり得ます。

敷金礼金で言えば、入居者は賃借に係る支払総額も考慮して判断しています。そのため、表面上、賃料が高めでも、条件次第では入居が決まるケースもあるでしょう。

こうなると、「賃料」という表示そのものにあまり意味は無くなってしまうかもしれませんね。

<対応策>
賃料以外の要因で入居が決まっていないか、入居条件を確認する

中古物件の場合

経済学に触れたことのある方ならおわかりになると思いますが、価格は市場の需要と供給のバランスに導かれて決まるという認識が頭のどこかにあります。

その感覚から言えば、既に入居者がいる中古物件の設定賃料は、賃料相場を反映していると考えがちです。決して間違いではないですが、やはり微妙なところで見誤ってはいけない面もあります。

ここでは中古物件で注意したい3つのケースを紹介します。

・長期入居者が周囲より割高な賃料を払っているケース
・特殊要因の賃料を、普遍的な相場賃料と混同してしまうケース
・悪質な不動産業者の手口に騙されるケース【「サクラ」の入居者を入れる】

長期入居者が周囲より割高な賃料を払っているケース

あくまで一般論ですが、建物が古くなれば、賃料相場は下がる傾向にあります。

そのため空室が発生して、新たに入居者を募集する際には、よほどリフォーム費用を投じる等のバリューアップを図らない限り、当初の設定賃料を維持できないことも多いのです。

ところが、契約更新を重ねて長く継続している入居者(ある意味ありがたいのですが)の場合には更新時の賃料が同額のため、いつのまにか周囲の部屋より割高な賃料を払い続けることが起こり得るのです。

引っ越し費用がかからずに済む分、入居者はその賃料が高いとも思っておらず納得していれば、その方が入居中は必ずしも大きな問題にはなりません。

退去後に新たに賃貸募集すると、同額で募集をするには無謀な相場に変わっている可能性があります。

そろそろ退去者が続出するタイミングのアパート一棟が売りに出ていたとして、購入検討者が現在の賃料収入を相場と勘違いして利回りを見誤るケースです。購入直後から繰り返される退去と募集によって徐々に平均賃料が下がっていくシナリオを想定して、入居者の入居期間と更新状況は確認したいところですね。

<対応策>
現在の入居者の入居期間を確認する(長期の場合は注意)

特殊要因の賃料を、普遍的な相場賃料と混同してしまうケース

コロナ禍以降の今でこそ、市場はやや縮小しましたが、一時期は民泊やウィークリーマンションなどの転貸事業が活況で、場所によっては一般的な賃料よりも高い家賃で借り上げてくれたケースもありました。

しかし、そういった需要が縮小した今日では、当時の賃料設定では相場感が合わなくなってしまうなど、状況は常に変化するのです。

また、レアケースかもしれませんが、アパートの一室をレンタルオフィス(ペーパーカンパニーの登記上の本店を置く)に貸すなど、特殊な使い方をしている事例もありました。こうした特殊な利用方法のために設定された賃料を普遍的なものと勘違いして物件を購入してしまい、安定的な収益を得られないというケースもあります。

投資判断のためにはよく考えなければいけない点だと思います。

<対応策>
住む目的以外の特殊な使い方をしていないか、状況を確認する

悪質な不動産業者の手口に騙されるケース【「サクラ」の入居者】

かつては、悪質な不動産業者が銀行を騙す手口として、外から見て入居者がいるようにみせかけるために窓にカーテンをつけた偽装などが話題になったこともありました。それはそれで酷い話ですが、銀行のみならず、そもそも物件の購入者を騙すための行為でもあったことも忘れてはいけません。

悪質な不動産業者は、賃貸借契約書の偽造なども平気でやるかもしれません。しかし、それでは私文書偽造罪という明らかな犯罪になってしまうので、形式的には法的な問題がない「サクラ(不動産業者の社員など)」と賃貸借契約をするなどの話も聞きました。

賃貸アパートなどの1棟売買による利益額から見たら、賃貸借契約に必要な資金などわずかですから、倫理観に欠けた不動産業者なら、多少の経費をかけてでも高い稼働率に見せかける方を選ぶでしょう。

購入直後からサクラの入居者は中途解約し、次々に退去してしまうのです。「サクラ」は実際には住まない(一時的に住むケースもあるかもしれませんが)ので、窓にカーテンをつける偽装工作は、購入予定者に対しても書類上だけの賃貸契約ではないように見せる手段だったのです。

<対応策>
サクラを見破るのは困難だが、周辺物件に比べて不自然に空室率が低くないか、ずっと空室があったのに急に満室になったなど、入居状況の経緯を確認する

<appendix>賃料データを見るうえで気を付けたいこと

賃料相場や傾向をつかむためにご自身でデータを調べることもあると思いますが、その際にデータの裏側に隠された部分に想像を巡らせてほしいと思います。

例えば「定期借家」という、法的には「普通借家」と別物の賃貸形式で、法律上では期日が到来したら退去しなくてはならない契約形態があります。

実際には期日到来後も貸主との合意によって更新できる場合が多いですが、一方で貸主から退去を求めることが原則として難しく借主が保護されている「普通借家」に比べ、定期借家の借主はやや弱い立場です。

したがって、一般論で言えば、同じ物件であっても「普通借家」と「定期借家」を比べると「定期借家」の方が賃料は安くなるというのが通例です。

ところが、統計資料やデータによっては、定期借家の方が賃料が高いという調査結果もあります。

実は高級賃貸物件(タワーマンションなど)を賃貸に出すオーナーが定期借家を選択する傾向にあるからです。

転勤や海外赴任などで家を空けることになったオーナーが賃貸に出すケースで、自分がその赴任を終えて家に戻りたいときに普通借家契約では貸主から退去を求めることが難しくなるからだと考えられます。

こういった背景で定期借家データの母集団の中に高額賃貸物件の割合が多くなり、普通借家と比べると定期借家の賃料データの方が高くなるという結果になるのです。

賃料をめぐる話題はいろいろと奥が深く、長くなりますので今回はここまでとしますが、ぜひとも表面上の利回りや情報だけをうのみになさらぬよう、ご注意願います。

シニアコンサルタント 真保雅人
(大学卒業後、鉄道会社約4年を経て1989年5月オリックス株式会社に入社し、投資用不動産ローン業務を約10年担当。その後、オリックス不動産株式会社にて約10年間の賃貸マンション用地仕入開発業務経験を経て、2010年11月オリックス銀行株式会社に出向。オリックス銀行では投資用不動産ローン業務に責任者として約10年従事し、現在に至る。)
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※シミュレーション結果で算出された借入条件は、あくまで目安であり、実際の借入を約束するものではありません。
※借入に際しては所定の審査が必要です。

- コラムの注意事項 -

本ページの内容については、掲載当時のものであり、将来の相場等や市場環境等、制度の改正等を保証する情報ではありません。