不動産テックを解説 不動産投資のオーナーに与える影響とは?
(画像=jirsak/stock.adobe.com)

不動産とテクノロジーをかけ合わせた「不動産テック」の普及が不動産業界で急速に進んでいる。海外では、米国がリードしているが日本の不動産テックも徐々に広がりを見せているのだ。本記事では、不動産テックの概要と国内外の状況、不動産投資のオーナーに与える影響について紹介する。

不動産テックとは

一般社団法人日本不動産テック協会によると不動産テックの定義は、以下の通りだ。

「不動産×テクノロジーの略であり、テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組みのこと」
出典:一般社団法人日本不動産テック協会

これまでの不動産業界は、取引において営業社員の判断やアナログ的な手法で業務を行うことが多い業界だった。IT化が遅れていただけに不動産テックでシステム化することでユーザーや不動産投資オーナーに革新的なサービスを提供できる余地が多い。今後の活用が広がれば不動産業界のさらなる活性化が期待できるだろう。

不動産テックには、情報提供以外にもさまざまな種類のサービスがある。不動産テック協会が「不動産テックカオスマップ」を発表しサービス事業を12のカテゴリーに分けて掲載しているので参考にしたい。2021年7月8日に発表された第7版では、446のサービス事業が掲載され内訳は以下の通りだ。

カテゴリー事業数カテゴリー事業数カテゴリー事業数
ローン・保証13不動産情報16リフォーム・リノベーション26
クラウドファンディング23物件情報・メディア52スペースシェアリング36
仲介業務支援59マッチング44価格可視化・査定26
管理業務支援85VR・AR31IoT35

※出典:不動産テック協会「不動産テックカオスマップ第7版」より株式会社ZUU作成

海外と日本の状況の違いについて

不動産テックにおける海外と日本の状況は、どのようになっているのだろうか。海外が先駆した不動産テックではあるが日本でも取り入れる企業が増えており国の施策もあわせて今後の拡大が見込まれる。

海外の状況

米国では、1990年代後半からすでにインターネットを活用した不動産広告が盛んに行われていた。不動産の売り物件情報をリスト化して共有することで取引を支援する「MLS(Multiple Listing Service)」という仕組みが発達してきた。ユーザー向けのMLSもある。

ユーザーは、MLSのサイトにアクセスして簡単に不動産実売価格の履歴を確認することが可能だ。不動産会社に聞きにくい過去の取引履歴をユーザーが自分で調べることができる点は大きい。不動産テック企業の実例を挙げると米国の「Open Door」の不動産買い取りシステムが注目される。同社は「オンライン不動産買い取り再販」を実現した。

同システムを利用すると不動産の売主と買主のどちらでもオンラインで申し込むことができる。売主にとっては、登録して短期間で現金買い取り金額が提示され折り合いが付けばすぐに買い取りが実行されるため、スピーディーな売却が可能だ。米国でも従来の中古不動産の売買には長時間かかるケースもあったが、不動産テックの活用で取引期間が短縮されるという。

欧州では、スイスの不動産テック企業「PriceHubble」がAIを活用した不動産価格査定やビッグデータの分析、視覚化などのサービスを提供している。また、「欧州の不動産テック企業TOP50」に選ばれている。日本法人のプライスハブルジャパンもあることから今後日本でも欧州の不動産テック企業の注目度が高まるかもしれない。

日本の状況

先に紹介したように、米国では不動産取引データを網羅するMLSの存在などにより、不動産取引に関する多様なオンラインサービスが提供されているのに対して、日本では不動産取引データを網羅するデータベースが存在しておらず、パブリックなビッグデータ利活用が図られていないのが実情だ。ただし、限られた範囲でデータ利活用したり、業務をデジタル化したり、あるいは、IoTを活用したりする形で日本の不動産テックは発展してきている。

住宅の付加価値を高める方法の一つとして、先に紹介した不動産テック12カテゴリーのうち「IoT」を活用するケースがある。不動産投資物件のオーナーであれば参考にするのもよいだろう。

  • スマートロック:スマートフォンを活用して住宅の鍵を開閉する
  • スマートリモコン:エアコンやテレビ、照明などをスマートフォンで操作できる

また、不動産賃貸取引の課題をITで解決する企業がある。その企業のサービスを1つ挙げると、入居者が更新や退去の作業をウェブで簡単に手続きでき、その情報がオーナーはじめ管理会社などに共有されるシステムを提供している。

民間企業の動きに加え日本政府も不動産取引の効率化について後押ししている。国土交通省が社会実験を行ってきた非対面で重要事項の説明を受けられる「IT重説」が2021年3月30日から本格的に運用が開始された。オンラインを使って重要事項の説明を聞けるため、不動産会社から離れた場所に自宅があるユーザーには便利だ。

考えられる不動産投資オーナーへの影響

不動産テックの普及は、不動産投資オーナーに良い面と悪い面の両面で影響を与えることが予想される。メリット・デメリットをよく分析して不動産テックを活用することが大事だ。

賃貸募集時におけるメリット・デメリット

メリットは、物件に関する情報がオープンになることで内覧希望者からのアクセスが増えることだ。ITを活用した物件情報を利用することでユーザーは、不動産会社を介さなくても賃料や間取り図などを確認できる。物件情報サイトにおいては、希望条件を入力することで最適な物件が表示されるため、内覧へとつながる可能性が高くなるだろう。

物件情報を見てアクセスしてくるユーザーが増えることはプラスだが同時に複数物件を検討するため、必ず内覧に結び付くとは限らない点はデメリットと言える。不動産テックを活用するとしても物件自体を魅力あるものにすることが大事なのはこれまでと変わらないだろう。

不動産売却時におけるメリット・デメリット

メリットは、不動産を売却する際に「不動産AI査定」を利用すると手軽に査定額を調べることができる。匿名で調べられるため、不動産会社の営業から連絡が来る心配もない。大都市圏の不動産であれば過去の取引実績が豊富なため、AIがより精度の高い査定を行える。不動産会社に査定を依頼する場合でもあらかじめAI査定で相場を知っておけば交渉を有利に進めることができるだろう。

デメリットとしては、不動産テックに頼りすぎると実際の取引と乖離する可能性があることだ。いくらAIの査定が正確な相場を提示したとしても実際に取引する相手は不動産会社である。売主または買主の希望価格とAI査定に差があれば交渉して折り合いの付く価格に落ち着くことになるだろう。不動産賃貸オーナーにとっては、不動産テックによる市場の活性化で競合が増えるマイナス点もある。

不動産経営にテクノロジーを取り入れることは、時代の流れといえる。これからの不動産投資オーナーは不動産テックを上手に活用すれば他の物件との差別化が図れる可能性がある。しかし、設備の導入には相応のコストがかかることから、導入のコストと導入によって得られる対価を比較しながら導入の検討をしてほしい。

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