第15話、第16話では、「違反物件」への融資の姿勢について解説しました。個人の自宅や長期保有前提で購入した賃貸物件の使い勝手をよくするために、やむを得ず法に抵触してしまうことがあります。その結果、違反物件になっているものが世の中にはよくあるのです。
また、不動産会社が一般の投資家に売る「商品」として新たに建てている物件でも、違反物件は存在します。「なぜ、そんな設計をしてしまうのか?」・・・今回は、建てる側の視点でいくつかのエピソードを解説します。
建築基準法において住居に比べると事務所の規制は緩い
建築基準法は、火災が起きた際の避難経路など、細かく規制されています。それは、昔から日本は木造家屋の文化で、江戸時代から火事は日常茶飯事でした。最も身近で警戒すべき災害の1つが火災だったため、現代においても火災の規制が細かく決められているのだと思います。
さて、火災時の避難観点で言うと、「住居」と「事務所」どちらの法規制が厳しいでしょうか?答えは、圧倒的に「住居」の方が厳しいです。
そもそも、「住居」では日常生活で料理等をするので火を使いますが、「事務所」では日中に湯を沸かす程度です。また、「住居」では夜間就寝中に火災が起きた場合には逃げ遅れる確率が高くなります。
しかし、事務所では夜間に火災が起きたとしても人はいないので逃げ遅れるといったリスクが低くなります。建築基準法は昭和25年に施行されており、現代には必ずしも合わないこともあります。しかし、このような要因から「住居」の避難経路の考え方は当然に厳しくなります。
事務所に比べ、住居は避難経路などで建築基準法の規制が厳しい
一般的なマンションのバルコニー側には、緊急時にハシゴで降りられる避難ハッチがあります。全戸に備わっていない場合には、緊急時には隣接するバルコニーとの隔壁を破ります。そして、避難ハッチのある場所から階下に降りる避難経路が設計段階から考えられています。
また、階段のある廊下側に出られる場合には通常の階段で下りることができます。<図1>のように2つの方向から避難できる経路が考えられています。
【A】で火災が起きればバルコニー側に避難し、【B】で火災が起きれば廊下・階段側に避難することができます。このように、どの方向で火災が起きても、逃げられるように設計されています。
自室内ではなく【C】で火災が起きた場合には、一番右側の住人は階段のある廊下側に逃げられません。しかし、バルコニー側の避難ハッチのルートを使って逃げることができます。
また、バルコニーが敷地の裏側に向いていて、1階に着地しても道路側に出られないような設計の場合もあります。その場合には<図2>のようにピロティなどが作られています。その結果、道路側に逃げられるような避難経路が確保されています。
ただし、避難経路は地域や建物の規模によって必ずしも一定ではなく、自治体によっては条例等が異なります。仮に避難経路が2つの方向になくても、問題があるとは断定できません。
例えば、「東京都」はわりと厳しい方で、共同住宅においては「窓先空地」というものを確保しなければならない条例があります。それによって、住戸の主たる開口部である窓が同道路に面していない場合には、窓の先に一定の幅の空間が必要になります。
しかし、東京都以外の自治体では、必ずしも窓先空地の規定があるわけではありません。窓先空地がなければ、上図のように、どのような場合でも2つの方向に逃れられるような状態ではなくなります。しかし、それは地域性などを考慮して自治体が決定しているためやむを得ません。
「採光」の観点でも事務所より住居の規制が厳しい
「住居」については、建築基準法上の「採光」も確保しなければなりません。「採光」とは、居室に採り入れる光の量の最低限を決めています。
計算方法が複雑なためここでは省略します。簡単に説明すると、窓(開口部)の面積と隣接地からの距離との兼ね合いで光がどの程度入るかの計算をするもので、実際の明るさを表すものではありません。隣接地が空地であれば実際の居室は明るくなりますが、隣接地を考慮せずに境界線上に巨大な壁を建てられたものと想定して計算します。
例えば、隣接地が道路や公園などの場合には空地として考慮されます。そのため、窓先空地不要の自治体であれば、敷地ギリギリまで窓を向けて建てることができるように見えます。しかし、別の観点である「採光」においては設計上の配慮が必要にはなってきます。
下図のように、窓の向きを斜めにすることで境界線までの距離をとり、計算上満たすようにしている場合もあります。
規制を逃れるために「事務所」で建築確認する手法がある
建築基準法上の「避難経路」や「採光」を満たさなければ、「住居」としての建築確認は取れません。狭い敷地や変形の敷地に対して無理やり詰め込むような設計をすると、全戸もしくは一部分だけが抵触することもあります。
そういう場合に、その抵触した部分の住戸を「事務所」として建築確認を取り、その後に工事で「居住用」に変えてしまうという手法があります。
このケースの多くの場合、設計図の間取りに浴室が描かれていません。それは、浴槽があることで、「事務所」として認められないためです。
しかしながら、後に浴室として利用可能な空間が、設計図上では収納スペースなどの別用途として記載されていることがあります。検査済を取得した後にこの空間をユニットバスに変更し、実質的に「住居」として利用するケースが見られます。
事務所を事務所として利用している場合には、違法ではありません。事務所としての賃貸ニーズがないエリアのマンションやアパートにおいては、後工事でユニットバスを入れることがあります。これにより、事務所には見えない部屋を作り、居住用として賃貸募集している物件を時々見かけます。なお、昨今ではシャワーユニットだけの部屋も流行っているため、浴槽を入れない場合もあるかもしれません。
建築基準法と登記は必ずしも関係が無いので、登記簿で共同住宅や居宅になっていても、別に合法性を示すものではありません。建築確認を調べないと、「事務所」で申請していたかどうかはわからないということです。
しかし、後工事で住居に改築した時点で違法性があります。すでに検査済証も出ていて、金融機関をはじめとする関係者に対して合法と誤認する時点で作為性を感じます。その観点から、仮に「事務所として利用している」と主張していても、すでに合法であるという主張の根拠としては成り立ちません。これらの物件は、原則として当社はローン対象としていません。
※ 総12戸のアパート1棟のうち、1戸が事務所で建築確認を取った事例
(下図:建築計画概要書より抜粋、配置図しか無いので、どの部屋が事務所かは不明)
「事務所」扱いの物件で融資を行う規範は「安全性」
ただし、例外的に取り扱った事例もあります。「避難経路」を阻害しているケースは安全性・危険度にかかわるので原則として取り扱いません。しかし、「採光」のみが抵触している場合には、危険度の観点からは多少大目に見ることもあります。審査においては、総合的な判断になります。
同じ違法性だとしても、危険性にかかわる話か、そうではない話か、そこがわかれ目であると、当社では考えています。
以上
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