検査済証があっても違法建築?検査済証ありの違法建築物の事例

「検査済証がある=違法建築物ではない」とは限らない

昨今の金融機関では、検査済証をチェックすることが通例となっています。例えば当社では、新築物件のお客さまへの融資の際、建物完成後の「検査済証の写し」の入手をもって、融資実行のための最低条件の具備とする運用にしています。

検査済証の原本は施主に対して発行されるもので、それは売主の不動産業者の場合が多いでしょうから、金融機関は売主から「写し」をいただく運用になっています。

(もし悪質な売主だったとしたら、写しを偽造しかねないという懸念もないわけではありません。実は当社では、行政庁からの公的証明を、後日であっても後追いでチェックをしています。公的証明は検査済証発行直後には出ないので後日なのですが、そこまでやることは、お客さまの保護のためでもあり、業界の健全化にもつながるものだと考えてのことです。)

ただ、先述のとおり、検査済証だけでは落とし穴があります。

「検査済証は、検査機関が検査した日の合法性を証明しているだけであって、検査の日以降に工事を加えていれば、売買における引き渡し時点では違反物件に変わっている可能性がある」のです。

新築後、何年も経ている物件ならば、改築などで手が加えられたりしていることは、十分に起こり得るでしょう、という意味ではありません。

「新築物件」と称して一般の方に販売する物件の中には、検査日以降の1~2カ月間に後工事を施してからお客さまに引き渡す事例も、実は多くあります。

後述のように、結果的には容認できるレベルが多く、目くじら立てない場合がほとんどなのも事実なのですが、買主の一般のお客さまにとっては、違反部分が生じているにもかかわらず「検査済証のある新築物件です」という触れ込みになってしまっているとしたら、どうお感じになるでしょうか。

俗に言う「後工事」の内容は、竣工検査前に行えば、おそらく検査済証が下りない可能性が高く、つまり違反工事である場合がほとんどと言えます。ただし、一度は検査を通っているため、合法化させるには根本的に建て直さなければならないような重大な違反工事が施されているわけではなく、いざとなれば撤去可能なものを付け加えた程度という場合も多くあります。

そのため、結果的に容認されるケースがあるのも事実です。とはいえ、例外的にやや悪質で問題の大きいケースもまれに存在するため、最終的には個別に判断していくしかありません。そのあたりについて、詳しくお話ししていきたいと思います。

よくある違反物件や後工事の事例

<1>区分マンションの場合

分譲マンションにおいては、デベロッパーの意識も高まり、かつ市場の監視の厳しさも相まって、最近の物件であれば基本的には違反物件はほとんどないと言って良いでしょう。

ただし、少数派かとは思いますが、古い物件で名の知れぬようなデベロッパーの分譲であれば、検査済のないマンションも存在します。また、もともと1棟マンション(区分化されていないもの)だったものを1棟丸ごと買い取った後に区分化して分譲されたケースなどでは、検査済証のないマンションもあるかもしれません。

検査済証がある場合でも、「後工事」についてはどうなのかというと、昨今の大手デベロッパーの分譲物件であれば、さすがにそれもないとは思います。ただし、一昔前に投資用物件として分譲されたマンションでは、多少は考えられるでしょう。

建築基準法は、火災時の避難経路の確保などに主眼が置かれていて、空間の開放性や通路幅などが求められます。一方で、入居者が求める防犯性やプライバシー保護の観点とは相反する場合が多く、よくあるのは外廊下の腰高より高い位置に設置された目隠し板です。これらはプライバシー保護のために設置されたもので、近隣住民からの要望に基づくやむを得ない事情もあります。当社でも結果的に黙認している場合が多いですが、厳密には違反である可能性が高いものです。

違法建築物の事例

また、ひと昔前の投資用マンションの中には、住戸の一部分を「事務所」として建築確認を取り、検査済証を取得したうえで、その区分所有の1室を普通の住戸のように見せて分譲していたケースもあります。「事務所」用途の方が「居室」よりも法規制が緩いため、そうした設計がなされているのですが、検査後にユニットバスなどを後工事で設置し、一般の投資家に分譲するという流れです。検査済証があるため、事情を知らない(あるいは知ったうえで判断した)金融機関が融資を承認することもあります。これは単なるリフォームではなく、当初からユニットバスを設置できる設計(配管など)になっているため、明らかに故意の場合が多いです。

本来「事務所」で検査が下りているので、「事務所」として使われ続けていれば法的な問題はありません。しかし、投資用マンション業界では、過去の一般的な提携ローンにおいては、ローン対象物件とするためには居住用であることが求められたため、融資を引き出す目的で後工事により居住用に変更するという、作為性のある事例です。(この「事務所」の話題は次回にあらためてお話しします)

<2>1棟マンション・アパートなどの、1棟物件の場合

区分なのか一棟なのかという区別は、区分所有法や登記上の話であり、建築基準法上は必ずしも大きな違いはありません。ただし、区分マンションを作るデベロッパーは大手企業であることが多いのに対し、1棟マンションやアパートは必ずしもそうではありません。ましてや、一般の土地所有者である一個人が建てている場合も多く、法規制を守ろうとする意識が高い施主ばかりとは限らないため、現実の市場では、こちらの方が違反建築物の割合は高くなります。

余談ですが、「一流の大手ハウスメーカーが建てたアパートなら違反物件はない」と誤解されることがあります。もちろん、大手ハウスメーカーのコンプライアンス意識は高いですが、最終的な判断は施主にあります。施主が強く要求すれば、大手ハウスメーカーでも反対意見を述べつつ、最終的には要求に応じることもあるでしょう。そのため、建築会社の問題ではなく、施主の姿勢が問われる1棟物件こそ、違反建築物の確率は高くなるのです。

1棟アパートなどでよくある後工事の事例としては、オートロックの門扉、自転車置場、ゴミ置場などが挙げられます。これらを当初から設計図に記載して建築確認を取っている場合は、もちろん合法です。しかし、狭い敷地にギリギリに建てられることの多いアパートでは、避難経路として一定の幅を確保すべき場所に、ゴミ置場や自転車置場、エアコンの室外機などが設置されて、スペースをふさいでしまっている事例が多々あります。また、当初予定していないオートロック門扉の後工事も、個別ごとに見ないと一概には断定できませんが、違反である場合が多いです。

違法建築物の事例

建築基準法上の火災時の避難のしやすさと、防犯性などは相反することが多いので、オートロックなどは入居者から選ばれる設備の一つとしてありがたいものではありますが、厳密に言えば抵触している可能性があります。

当社としては、この類いの後工事については、ある程度黙認しています。その考え方のベースは「撤去が容易いかどうか」という観点です。設計図を大幅に違えて造った違反建築物(もちろん検査済証はない)であれば、合法の建物に戻すには莫大な費用がかかります。一方、検査済証のある物件の後工事レベルであれば、撤去を求められたとしても、さほどの費用をかけずに対応可能です。その観点から、結果的に容認しているのです。

さて、悩ましい違反事例の典型例として、「車庫の転用」(俗にシャコテンなどと呼ばれます)があります。これは、先ほど区分マンションの項目で述べた「事務所で建築確認を取った居住用」と似ている面があります。「車庫」として建築確認を取り、店舗や事務所に転用してしまうという違反事例です。

「車庫」は、建物のうちの一定割合の面積までは容積に算入しなくても良いことになっています。そのため、1階が店舗や事務所にふさわしい立地の物件では、1階部分をガレージとして申請し、他のフロアに使える床面積を割り振っておいて建築確認を取ることがあります。そして、結果的に1階部分を別の用途にしてしまえば、全体として容積率以上の床面積を利用できてしまうのです。年月を経てから改築する事例もあるかもしれませんが、一般的には当初から想定して設計しているものです。

本来、車庫とするつもりであれば、上下水道やガスなどの配管を最初から引き込む必要はありません。それにもかかわらず、そうした配管をあえて引き込んでおくことで、新築後すぐに改築できるようにしているのです。このような点から、故意であり、作為的な場合が多いと言えます。

<次回に続きます>
次回は、再度いくつかの事例を取り上げ、掘り下げてお話ししたいと思います。
繰り返しにもなりますが、私どもオリックス銀行の融資対象として取り扱うか否かは、単なる違反か否かで決めているわけではありません。
まずは「安全性」として、を見て、そして違反の程度の軽重や悪質性なども含めて見ており、さらに加えて、お客さま自身の信用内容・負担能力、市場での価値下落などの将来リスクも考慮したうえで、違反物件保有の是非をも含めて判断し、審査しています。
個別の事案ごと、ケース・バイ・ケースで判断をしています。

manabu不動産投資に会員登録することで、下の3つの特典を受け取ることができます。

①ウェビナー案内メールが届く
②オススメコラムのお知らせが届く
③クリップしてまとめ読みができる

- コラムの注意事項 -

本ページの内容については、掲載当時のものであり、将来の相場等や市場環境等、制度の改正等を保証する情報ではありません。