セブンライツ法律事務所

※このコラムは、不動産投資家の方や不動産投資に興味をお持ちの皆さまにエッセンスを提供する目的で、オリックス銀行が企画しています。不動産賃貸経営に関する考え方や、課題解決の取り組み事例などを専門家の方々に伺い、お伝えすることで、お役に立ちたいと考えています。

今回は、セブンライツ法律事務所に所属し、不動産関連案件を扱われている藤木友太弁護士のお話を、当社で投資用不動産ローンを担当している櫻井(ウエルスマネジメント部)が伺いました。

水災害の責任をめぐるオーナーと店舗経営者との裁判事例

櫻井:ここ数年、今までは想定してこなかったような規模の水災害が多発していますね。不動産購入の意思決定を行ううえで、水害リスクにかかる情報が重要な要素であることから、購入前の重要事項説明として「水害ハザードマップ」の明示が義務付けられたことは記憶に新しいです。先生が経験された裁判の中で、投資用不動産に関係する水災害関連事案はありますでしょうか。

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藤木友太 弁護士

藤木先生:とある賃貸用物件の1階部分を賃借してクリニックを営んでいた入居者が、不動産オーナーに対して損害賠償訴訟を起こした事案を担当したことがあります。わたしは入居者の代理人だったのですが、この入居者の方は、台風によって近隣の河川が氾濫し、1階部分が床上浸水して、医療機器の故障や1カ月間の休業などの損害を被りました。

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オリックス銀行株式会社
ウエルスマネジメント部
櫻井

櫻井:自然災害がきっかけで入居者が損害を被った場合でも、オーナーが損害賠償責任を追及されるケースがあるのですね。

藤木先生:そうです。この事案でオーナー側は、2つの観点から自己の責任を否定しようとしました。ひとつは、「浸水は『不可抗力』、つまり人の力では制御できない『天災』によるものである」として、誰の責任によるものでもなかったという主張。もうひとつは、「仮に不可抗力ではなかったとしても、河川管理者(市)の管理が不十分であったことが浸水の原因である」として、責任は市の側にあるという主張でした。オーナー側は、市に対して「訴訟告知」をすることにより、市を本件訴訟に巻き込むことにしました。

櫻井:一見オーナー側に落ち度は無いように聞こえますが、結論はどうなったのでしょうか。

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藤木先生:この訴訟の争点は、今回の水害が不可抗力であったのかという点と、市の河川管理に落ち度があったのかという点になります。最終的にこの件は和解で決着したので、判決による確定的な判断は下されませんでしたが、裁判所としては、オーナーの主張はいずれも認められない可能性が高いという心証を持ったようでした。

櫻井:第1の争点である「不可抗力」かどうかという点について、裁判所はどのような見方をしたのでしょうか。

藤木先生:もともとこの物件は低地に所在していて、ハザードマップ上も浸水リスクのある地域として指定されていました。そのため近隣の物件は、基礎を高くしたり止水板を設置したりするなどの対策を講じていて、実際に市内で浸水被害に遭った建物はわずかでした。そのような中で、今回の建物のみが浸水したという状況でしたので、オーナーが事前に浸水を予見して対策をとることは可能であり、「不可抗力」による被害ではないという心証になったようでした。

櫻井:それでは、第2の争点である市の管理責任についてはどうだったのでしょうか。

藤木先生:実は、今回の事案で市は、この物件の近隣河川の排水ポンプをあえて稼働させていなかったという事情がありました。オーナー側はこの点を指摘して市の責任を追及しようとしたのですが、結論としては、市の判断にミスはないという心証でした。というのも、この台風災害の時は、市内の河川すべてが氾濫しかけていて、各河川の高低差やポンプ同士の連係などを考えると、この物件の近隣河川のポンプを動かしたらより広範囲に浸水被害が生じる可能性があったからです。市は、過去の降雨データや排水ポンプの性能などに関するさまざまな資料により、この点を立証しました。
このような裁判所の心証を踏まえてオーナー側と入居者側が協議をしました。最終的には、一部損害賠償と賃料値下げ、オーナー負担で止水板を設置することなどの条件を盛り込んで示談締結となりましたが、被害発生から決着まで2年以上の期間がかかりました。

櫻井:オーナー側が「不可抗力」ということを認めてもらえる、あるいは市の管理責任を認めてもらえる場合というのは少ないのでしょうか。

藤木先生:そうですね。「不可抗力」というのは、人の手ではどうすることもできない天災であるということですから、それが立証されるためには、オーナー自身が物件そのものの水害リスクを把握して、周辺物件と同等の水害対策を行うことが前提になります。例えば止水板の設置や排水設備の設置などの対策を十分に行ったうえで、それにもかかわらず周辺物件も含めた広範な被害が起きたという場合でなければなりません。
また、市の河川管理責任については、水災害のトラブルにおいてしばしば争点になることありますが、オーナー側が行政の責任を問うためには、市の河川管理の過程のどこかに判断ミスがあったということを立証する必要があり、ハードルは高いです。
近年盛んな水防関係法令の改正の目的は、不動産オーナー自身の「水防災意識」を高めることにあるとされています。これは、水災害対策の第一次的な責任はオーナー側にあるから気を付けなさいという、国からのメッセージだと考えています。

櫻井:ありがとうございます。当社ではワンルームマンションやアパートの融資を主に行っております。今回のケースは事業用物件でしたが、居住用物件の場合とでは、トラブルの生じやすさなどに差はありますか? また、住戸以外の駐車場部分での損害も負わなくてはならないケースは考えられますか?

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藤木先生:事業用の物件の方が、設備の損害や原状回復が完了するまでの休業期間の売り上げ等、損害を受けた際の金額が大きくなることが想定されますので、訴訟になりやすいと言えます。居住用、特にアパート等の狭小住戸では損害額も大きくないことから、訴訟にまで発展するケースは多くないと思います。
ただ、そもそもオーナーとしては、賃貸借契約上、入居者に対して住居を利用可能な状態で提供するという義務を負っています。そのため、例えば水害によってその住戸に2か月間住むことができなくなってしまったような場合には、訴訟にまで発展せずとも、その間の家賃の減額や免除等の対応を検討しなければなりません。
駐車場についても、特に地下を掘り下げて駐車スペースを設けているような物件では、排水設備や止水板の設置などの対策が十分でなかったという過失が認められた場合、オーナーの責任が問われるケースが考えられます。また、水害によって利用できなかった期間中の利用料の減額・免除についても、住戸の場合と同様の問題が考えられます。

櫻井: 水害によって住戸などが利用できなくなった場合、オーナー側は、損害賠償とは別に、賃料の減額・免除に応じる必要があるということでしょうか。

藤木先生: そうです。昨年改正された民法の611条1項には、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。」と定められています。水害事案では、損害賠償の問題とは別に、この規定に基づく賃料の減免が問題になるケースが頻繁に生じると考えられます。

櫻井:具体的に、どのような事情が起きた場合に、どれくらいの割合で賃料が減額されるのでしょうか。

藤木:個別の事案によるため一概には言えません。民法611条1項は「使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。」としか定めていない抽象的な規定なので、減額割合をめぐってトラブルになるケースも多いでしょう。それを避けるためには、あらかじめ賃貸借契約書の中で、減額対象となる故障の範囲や減額割合などを事前に明記しておくことが効果的です。

水災害トラブルに対してオーナーが取るべき対策手段とは

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櫻井:このような裁判事例があることも踏まえながら、オーナー側が水害対策を講じていく必要性は高いと思いますが、どのような対策が有効なのか教えてください。

藤木先生:まず、不動産オーナーとしてハザードマップを確認し、所有している物件の水害リスクについて理解を深めることが第一歩ですね。
ここで重要なことは、ハザードマップで指摘されている想定浸水深度が低いからといって、水災害トラブルが発生する可能性が低いという訳ではないということです。数十センチといった比較的低い浸水深度の場合こそ、オーナー側で対策をすれば防げたであろうということで、オーナーの責任がやり玉にあげられてしまう事例が多いと思います。もし、所有している物件に浸水リスクがあるようでしたら、近隣物件がどのような浸水対策を施しているかを確認して、土嚢や止水板の設置等、オーナーとしてできる対策をしていくと良いと思います。
それだけではなく、現在加入している火災保険の補償対象・内容を再確認し、浸水リスクの大きさに応じて水害も補償に入れる等の保険の見直しを行うことも重要です。

櫻井:このように聞くと、オーナーがとるべき対策というのは非常に範囲が広く、負担も大きいように思えてしまいますね。

藤木先生:かなり重たいことを言ってしまいましたが、実際には、オーナーがあらゆる災害リスクを適切に把握して対策をとるということは事実上不可能です。そのため、「何も起こらないようにする対策」だけでなく、「何かあったときのダメージを減らす対策」こそが重要です。それに加え、入居者との信頼関係を構築することも重要です。具体的には、契約締結時の説明を尽くすことと、その後のコミュニケーション(入居者の要望に適切に対応すること)です。
何らかの災害があった際、オーナーの責任をすべて免れることは難しいですが、契約締結時に十分な説明を行っておくことで、入居者側にも浸水リスクについて予見できたという責任が認められやすくなります。万一裁判に発展した際にも、裁判所はその点をオーナー側の有利な事情として酌んで、和解の落としどころを見つけてくれるようになります。コミュニケーションにより信頼関係を構築していれば、よりスムーズに示談交渉を進めていくことが可能になります。

櫻井:なるほど。まずは水害リスクについてきちんと認知をすることから始め、対策や入居者とのコミュニケーションをとることが重要なのですね。
当社でも水害ハザードマップを確認して、必要があると思ったときには、先生にお勧めしていただいたような対策を、お客さまにご案内するようにしています。営業担当者として、投資用不動産のオーナーとなるお客さまが想定外のリスクを被らないように心がけていきます。本日はありがとうございました。

藤木 友太
藤木 友太 氏
セブンライツ法律事務所
弁護士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®


(経歴)
明治大学法学部卒、同大学法科大学院を修了後、2014年弁護士登録。
2017年にセブンライツ法律事務所に参画。
主な取り扱い分野は、企業のビジネスモデル構築・資金調達・労務・M&Aなどの法的支援、不動産関係法務、相続・事業承継法務。
実家は三代続く日本茶卸売店。幼い頃から多くの地元企業に接し、さまざまな経営者の本音を聞く中で、円滑な相続・事業承継ができなかったために閉鎖する企業が増えつつある現状に直面する。
弁護士として、また自身も家業の次期後継者として、日本のSuccession(承継)を法律面から支えることに使命感を燃やす。

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