アパート経営をこれから始める人にとって、初めての確定申告は疑問が多いかもしれない。そこで本コラムでは、アパート経営をしているオーナーにとって、疑問に感じやすい「不動産収入と不動産所得の違い」「確定申告が必要か否かの判断」「経費にできるものできないもの」などのテーマを分かりやすく解説していく。
アパート経営の不動産収入と不動産所得は何が違う?
アパート経営をしているオーナーは、原則確定申告が必要だ。確定申告とは、1年間(毎年1月1日~12月31日)に生じた所得金額を算出して、所得税などの額を確定させる手続きのことである。確定申告が必要な理由は、アパート経営で課税所得が発生した際には、金額に応じた税金を納めるのが国民の義務だからだ。
また課税所得が発生しない場合でも確定申告をすることにより税金の還付を受けられるなどの可能性もある。確定申告を行うには、まずアパート経営で生じた「不動産収入」と「不動産所得」の違いをしっかりと認識しておきたい。なぜならこれらが何を指すかが分からなければ、 確定申告を適切にできないからだ。
・アパート経営による不動産収入とは?
アパート経営による不動産収入とは、入居者に部屋を貸して得た家賃収入や共益費(管理費)・更新料・返還する必要のない敷金や保証金などを加えた総収入金額のことだ。
・アパート経営による不動産所得とは?
不動産所得とは、不動産収入の総額から必要経費を差し引いた金額のことだ。計算式にすると以下のようになる。
総収入額-必要経費=不動産所得の金額
引用:国税庁※この先は外部サイトに遷移します。「No,1370 不動産収入を受けた受け取ったとき(不動産所得)」
なお国税庁では、必要経費について「不動産収入を得るために直接必要な費用のうち家事上の経費と明確に区分できるもの」としたうえで以下の4つを挙げている。
- 固定資産税
- 損害保険料
- 減価償却費
- 修繕費
ほかにも賃貸事業に直接必要な支出は、経費計上が可能だ。(詳細は後半で解説)
なお、アパート経営の基礎知識については以下のコラムで詳しく解説している。
【関連記事】【初心者必見】アパート経営の基礎知識を解説!始め方からメリット・デメリットまで
アパート経営で確定申告が必要なケース、不要なケースを解説
アパート経営をしていて確定申告が必要か否かを判断する基準には、主に以下の3つがある。いずれかの基準(特に基準1または基準2)にあてはまれば確定申告が必要だ。
基準1.課税される所得があるか
「賃貸事業が専業」「他事業をしながらアパート経営をしている」といった場合、当該年度に課税される所得がある人は、必ず確定申告をしなければならない。最終的な所得税額の求め方は以下の通りだ。
1.不動産所得を含む各種所得の合計額から所得控除を差し引いて「課税される所得金額」を求める
2.「課税される所得金額」に所得税の税率を乗じて「所得税額」を求める
3.「所得税額」から配当控除額などの税額控除額を差し引く
基準2.所得金額が20万円超か
会社員・公務員・パートなど1ヵ所から給与を受け取っている場合、アパート経営で生じた所得やほかの所得の合計が20万円超なら確定申告の必要がある(給与のすべてが源泉徴収の対象になっている場合)。ただし各種の所得金額の合計が20万円以下の会社員などでも、給与の総支給額が年2,000万円を超える人は確定申告が必要だ。
また所得金額が20万円以下の年金受給者でも、公的年金などの総支給額が年400万円を超える人は確定申告が必要になる。この基準に関しては、ほかにも「同族会社の役員やその親族などで同族会社からの給与のほかに利子・賃貸料・使用料などを受け取っている人」などに該当する場合は、確定申告が必要だ。
このテーマについては、さまざまな要件があるため、詳しい内容を知りたい人は以下の国税庁公式サイトで確認するほうがよいだろう。
基準3.損益通算を利用したいか
上記2つの基準に該当しない場合は、確定申告の義務はない。ただし損益通算を利用したいなら確定申告が必要だ。ここでいう損益通算とは、不動産所得の計算上生じた損失分を給与所得などから控除することである。損益通算を行うことで、所得税を軽減したり還付金を受け取れる可能性がある。
なお、不動産投資で節税できる仕組みについては以下のコラムで詳しく解説している。
【関連記事】不動産投資で節税できる仕組みとは?リスクや低減策を解説!
アパート経営で必要経費にできるもの、できないもの
アパート経営の確定申告で迷いやすいのは「支出のうちどれを経費計上できるか」といった判断だ。具体的に、どのような項目が必要経費にできるのか否かを確認していこう。
アパート経営で必要経費にできるもの
基本的な考え方は「賃貸事業に直接必要な支出は経費計上できる」というものだ。経費にできる主な項目には、以下のようなものがある。
- 賃貸物件の不動産取得税、登録免許税、事業税
- 建物や住宅設備の減価償却費
- 固定資産税、都市計画税
- 賃貸事業に関わる借入金の利子
- 修繕費
- 建物などの管理料
- 管理会社に支払う管理委託費
・火災保険料や損害保険料 など
※事業規模など一定要件を満たすときには貸倒金(未収賃料)も経費にできる場合がある。
補足としては、上記のように不動産取得税など不動産に関係のある税金が必要経費にできる一方で、所得税・住民税など不動産に関係のない税金は経費にならないため、注意したい。
これ以外に不動産所得の必要経費にできるかで迷いやすい経費としては「交際費」がある。例えば「管理会社と信頼関係を築くために交際費を使った」というようなアパート経営に関係する名目があれば必要経費にできる可能性があるだろう。
また「新聞図書費」も迷いやすい項目の一つである。例えば、不動産投資を学ぶための本や賃貸経営の専門誌など賃貸事業をテーマにしたコンテンツであれば必要経費にしやすい。
アパート経営で必要経費にできないもの
アパート経営に直接必要でない支出の場合は、経費計上できないため、注意が必要だ。例えば前出の交際費でいえば「友人や家族との会食の費用など」、新聞図書費なら「娯楽のための雑誌など」アパート経営に関係ない費用については必要経費にならない。ほかの支出項目である通信費・車両代・消耗品費なども同様にアパート経営に直接必要か否かで判断することが必要である。
注意したい部分が「借入金の元本」だ。先述で「借入金の利子は必要経費にできる」と記載したが、借入金の元本については必要経費の対象にならない。借入金利子のみ必要経費に計上できるため、混同しないようにしっかりと覚えておこう。また判定を誤りやすいのは、アパートの一部がオーナーの自宅になっているようなケースだ。この場合、自宅で使用している部分の水道光熱費などは必要経費にできない。
ほかにも生計を一にする配偶者や親族に支払う地代家賃や給与賃金なども経費計上は不可である(青色事業専従者給与や事業専従者控除は除く)。なおここで解説してきた内容は、アパート経営で必要経費にできるもの、できないものの一般的な考え方だ。条件によっては、判断が異なる場合もあるため、不安な場合は顧問税理士と相談するとよいだろう。
なお、アパート経営の経費にできるものとできないものについては以下のコラムで詳しく解説している。
【関連記事】アパート経営の経費にできるものとできないものは?
アパート経営の確定申告で電子申告(e-Tax)は使うべき?
アパート経営の確定申告では、一定の事業規模があって要件を満たせば「青色申告特別控除」が使える(控除額55万円)。事業規模については「原則として社会通念上事業といえる程度の規模かどうか」が基準とされるが、実務上は以下の基準にあてはめて判断されることが多い。
- 貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること
- 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること
さらに確定申告を電子申告(e-Tax)または電子帳簿保存で行うことで青色申告特別控除が55万円から65万円になる。控除額が10万円増えるため、青色申告をするなら電子申告などを選択したほうが有利だ。ただし電子申告などで65万円の控除を受けるには、以下の要件のすべてを満たす必要がある。
- 複式簿記(正規の簿記の原則で記帳)
- 貸借対照表と損益計算書を添付
- 期限内(翌年3月15日まで)に申告
※上記の要件は青色申告特別控除と共通
顧問税理士を早めに確定させておくのが得策
アパート経営で確定申告を初めてする人は、早めに顧問税理士を決めておくことが得策である。なぜなら確定申告は、準備段階として日々の取引を記帳したり、貸借対照表や損益計算書などの帳簿を用意したりすることが必要だからだ。確定申告直前は税理士への問い合わせが集中し繁忙時期となるため依頼しても、丁寧なサポートやアドバイスが期待できない可能性もある。アパート経営のスタート段階で顧問税理士を確定させておくことが望ましいだろう。
宮路 幸人
会計事務所での長い勤務経験で培った豊富な実務知識により、会計処理・税務処理および経営や税務に関する相談など、さまざまな問題に対応。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格を保有し、不動産と相続関連に強みを発揮する。特に相続関連では、税務面だけでなく、家族の幸せを重視したトータルでの提案を行っており、軽いフットワークでお客さまのニーズに応えることをモットーとする。離島支援活動にも積極的。
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