不動産の抵当権とは?自分で抹消手続きできる?売却時の注意点も解説

不動産投資では多額の予算が必要となるため、抵当権を設定し融資を利用することが多いです。そこで本コラムでは、抵当権に関する基本的な知識や、質権などの他の担保との違い、設定方法などについて詳しく解説します。抵当権の特徴や注意点などを十分に理解し、不動産投資のリスクを抑えていきましょう。

抵当権とは?基礎知識を確認しよう

不動産の抵当権とは?自分で抹消手続きできる?売却時の注意点も解説
(画像:PIXTA)

はじめに、抵当権に関する基本的な知識を解説します。不動産投資では必須の知識となるため、しっかり確認しておきましょう。

抵当権は担保の一種

抵当権とは、主に住宅ローン等の担保として不動産に設定される権利であり、借り手が返済できなくなった場合に、貸し手がその不動産を売却して残りの債務の返済にあてる権利のことをいいます。融資を組む際の担保として他にも保証人や質権などいくつか種類がありますが、一般的に住宅ローンは金額が大きく他の担保では補償が難しいため、抵当権が利用されています。

抵当権に関連して、契約書等に「抵当権設定者」と「抵当権者」という言葉がよく出てきます。「抵当権設定者」とは、自身が所有する不動産に抵当権を設定する債務者のことであり、住宅ローン等を借り受ける側のことです。一方の「抵当権者」とは、債務者による返済が滞った際に抵当権を実行し、競売にかけられる債権者側のことであり、住宅ローンを提供している金融機関や、その保証会社が該当します。

抵当権と質権の違い

抵当権と質権は、いずれも不動産や物品を債務の担保とする点と、所有権を失うわけではないという点で共通しています。しかし所有物の占有という観点では、性質が大きく異なります。

抵当権は「非占有型担保」とも呼ばれ、抵当権が設定されていても所有者は占有権を失いません。すなわち、抵当権が設定されている物件であっても、所有者は自由にその物件を使用したり、貸し出したりすることが可能です。

一方の質権は「占有型担保」とも呼ばれ、質権が設定されている場合は所有者であっても占有権を失います。そのため、質権が設定された物件を使用・収益することはできなくなってしまいます。例えば、高級腕時計やブランドバッグを担保として預けることでお金を借りることも質権の一種として挙げられます。

不動産に設定する質権のことを不動産質権といいます。不動産質権とは、抵当権とは異なり担保として設定した不動産を完済するまで債権者が占有します。債務者としてはせっかく購入した不動産が使用収益できなければ購入した意味がなく、債権者としても不動産を運用する手間が生じるため、実務上はあまり用いられていません。

抵当権と根抵当権の違い

抵当権とよく似た言葉に、根抵当権があります。いずれも債務の担保に不動産を用いるという点では共通していますが、「どのような債務を担保するのか」という点で異なります。

一般的な抵当権とは、特定の金額の債務を担保するものです。例えば、3,000万円の不動産Aを購入し、そのための住宅ローンBを結んだとき、Bの支払いを担保するためにAに抵当権が設定されるような場合です。

これに対して根抵当権とは、一定の範囲に属する不特定の債権を、極度額の限度まで担保するものです。具体的には、会社間の継続的な物品供給契約A、B、C……が結ばれる際、契約のたびに抵当権を設定することは現実的ではありません。そこで、将来発生する債務(C以降も含む)まで一括して補償するために設定されるのが、根抵当権です。

このように、根抵当権は基本的に会社間取引などの際に用いられることが多く、担保の対象となる債務が1つで金額も明確な場合には、一般的な抵当権が用いられます。

抵当権の特徴

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ここからは、不動産投資にあたって知っておくべき抵当権の特徴について詳しく紹介します。

抵当権がついていても使用収益・売買・相続できる

抵当権の一番の特徴は、抵当権設定後でも物件を自由に使用・収益ができるという点です。例えば、抵当権が設定されたあとに自ら入居することや、賃貸に出して家賃収入を得ることが可能です。さらに、抵当権がついたあとに、その物件を売買や相続の対象とすることもできます。

ただし、抵当権つきの物件は、抵当権設定者が債務を返済しない場合に抵当権者が抵当権を実行し、物件の所有権を第三者に売却することができてしまうため、不動産市場では抵当権が設定されたままの状態では一般的に売買はされず、抵当権を抹消してから売却することが通例です。

抵当権を抹消するためには、担保の対象となっている債務の完済が必要となりますが、住宅ローンが残っている不動産を売却する場合は、売却日の当日に売却資金によってローンを完済し抵当権を抹消することも一般的によく行われています。

抵当権には順位がある

抵当権は、1つの不動産に複数個設定することが可能です。例えば、不動産甲を購入するために住宅ローンAを組み、甲に抵当権A’を設定したあと、別の借り入れBを担保するために甲に抵当権B’を設定するような場合です。

このように、1つの不動産に複数個の抵当権が設定された場合、抵当権には順位がつけられ、上位の抵当権者ほど優先的に債権の弁済を受ける権利をもち、このことを優先弁済効力といいます。

抵当権の順位は、原則として登記の前後によって決まり、先に登記された抵当権ほど順位が高くなります。先ほどの例でいえば、時系列的には抵当権A’は抵当権B’よりも先に設定されていますが、抵当権の順位は登記によって判断するため、B’が先に登記され、A’が後から登記された場合には、B’が第一順位、A’が第二順位ということになります。設定した時系列ではなく、登記をした時系列が重要になります。

抵当権自体は登記をしていなくても当事者同士での契約により成立するものの、抵当権を設定する場合には第三者に対して抵当権を主張するために登記を行うことが一般的です。

なお、抵当権の順位は固定された物ではなく、抵当権者同士の合意があれば、順位を変更することも可能です。また、上位の抵当権者が債務の弁済を受け、抵当権が消滅した場合、後順位の抵当権者の順位が自動的に繰り上がります。

抵当権の対象とは?

抵当権の対象は不動産(土地または建物)です。しかし、抵当権の効力は単に不動産本体だけではなく、その不動産と一体になっている従物に対して効力が及びます。これを付加一体物と呼びます。付加一体物については、不動産から分離・搬出することができず、勝手に搬出しようとすれば、抵当権者からの差止請求・原状回復請求の対象となってしまいます。

抵当権の及ぶ範囲、すなわち不動産の付加一体物の範囲は状況に応じた判断が必要となり、非常に複雑なため、抵当権設定の際には契約書等をしっかり確認しましょう。

一般的な不動産投資の場合を想定すると、例えば建物に据え付けられた空調設備や音響設備などは、建物の付加一体物として、抵当権の対象となるでしょう。一方で、室内に置かれたソファやシーリングライトなど、簡単に取り外せる家具・家電などは、通常は抵当権の対象外となります。そして土地も付加一体物として扱われません。

抵当権を設定する方法|抵当権設定登記

不動産の購入から抵当権の設定にいたるまでの流れを簡単にまとめると、次のようになります。

  • 住宅ローン等の契約・保証委託契約
  • 抵当権設定契約
  • 所有権保存登記または所有権移転登記
  • 抵当権設定登記または抵当権移転登記
  • 登記事項証明書を取得し、抵当権者へ提出

新築物件を購入する場合には所有権保存登記、既存物件を購入する場合には所有権移転登記により、不動産所有者の名義変更を行います。所有権の登記と同時に抵当権の登記も行われることが一般的です。

抵当権の設定は、抵当権設定者、すなわち住宅ローン等の債務者側が登記を行うことが原則となっていますが、実務上は、債務者と債権者の両者から委任された司法書士が手続きを代行することがほとんどです。

抵当権を実行する方法|競売または収益執行

抵当権の実行とは、抵当権設定者が債務を支払わない場合に、抵当権者が不動産を処分して優先的な弁済を受けることをいいます。抵当権の実行には、①担保不動産競売と②担保不動産収益執行の2種類があります。

①担保不動産競売とは、抵当権者が不動産を差し押さえて競売にかけ、売却代金から優先弁済を受ける方法です。②担保不動産収益執行とは、不動産を差し押さえたあと、裁判所が選んだ管理人により不動産を運用させ、そこで得られた収益を弁済に当てることをいいます。

一般的に、抵当権者としてはできる限り早く債務の弁済を受けたいと考えるため、担保不動産競売が利用されることが多く、担保不動産収益執行が利用されることはあまりありません。

抵当権を外す方法|抵当権抹消登記

抵当権は、担保の対象となっていた債務の弁済や、消滅時効の完成、抵当権者による放棄などの原因により消滅します。

ただし、抵当権が消滅したからといって、登記簿上に記録された抵当権が自動的に削除されるわけではありません。自ら抵当権抹消登記手続きを行う必要があります。

抵当権抹消登記は、不動産の登記簿を管理している法務局で、必要書類を提出することで行います(オンラインによる申請も可能)。この際、申請書類と併せて、住宅ローンの完済を証明する書類も必要となるため、金融機関や保証会社等から取り寄せておきましょう。

抵当権抹消登記手続きについては、自ら行わず司法書士に依頼するのが一般的です。

抵当権に関して注意すべきポイント

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不動産投資を行う際には、抵当権に関連する重要なポイントがいくつかあります。ここでは、特に注意すべき2つのポイントについて詳しく説明します。

返済不能時・売却時のリスクを考える

抵当権を設定し金融機関へ担保提供することで、基本的には住宅ローンの金利を低く抑えることに繋がりますが、返済不能時のリスクについてしっかりと認識しておく必要があります。

抵当権が設定された不動産は、返済が滞った際に抵当権者に差し押さえられる可能性があります。差し押さえがされている不動産は、最終的に債権者によって競売や公売にかけられるものの、不動産市場ではリスクの高い物件として評価され、一般の市場価格よりも低い価格で取引されることが多いです。よって、不動産を売却したとしても、ローンの残額を賄えない可能性もあります。

そのため、抵当権を設定する際には、招待的な返済計画や売却の可能性を含め、慎重に検討することが重要です。

抵当権の内容を確認する

すでに抵当権が設定されている不動産を購入する際には、その抵当権の内容を詳細に検討することが重要です。

特に、1つの債権を担保するために、複数の不動産に抵当権が設定されている場合(共同抵当といいます)には、債務を完済しないことには抵当権の対象となっているいずれの不動産も売却することができません。後々になって、所有している不動産の一部を売却したくてもできないということが起こらないようにするためにも、抵当権を設定する段階において本当に設定して問題ないのかをしっかりと確認することが必要です。

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