【第2話】売買契約書及び重要事項説明書の盲点とチェックポイント

不動産取引を行うにあたって、売買契約書と重要事項説明書は重要な書類です。売買契約の前に重要事項説明を行い、内容に納得した後、売買契約を締結する、というのが法の趣旨で、重要事項説明を別の日に事前に行っておく場合もあります。

一般的には、これらの書類は売買契約を行う際に、1時間半~3時間ほどかけて、読み合わせを行います。取引の当事者として、内容を理解していることが前提となりますが、見慣れていないと、何を中心に確認してよいものか、わからないことも多いでしょう。

今回は、契約内容の大筋や、物件購入にあたり確認したいことを把握できている状態で売買契約に臨めるよう、売買契約書及び重要事項説明書の内容とチェックポイントについて解説していきます。

売買契約書とは?

売買契約書とは、不動産取引を行うにあたって、売り手側と買い手側との間で、取引に関する取り決めをまとめて記載した契約書類のことを言います。

具体的には、売主が買主に対して不動産の「所有権」を移転し、買主が売主に対して「代金」を支払うことを約束する内容となっています。売買契約書の内容がきちんと把握できるかどうかは、不動産取引に精通している人とそうでない人を分けることになります。

しかし、法律用語を全て熟知している必要はありません。契約時に書面の読み合わせを聞いても分からない点は、立ち会っている担当者や宅地建物取引士に尋ねればいいのです。

売買契約書のチェックポイント

次に、売買契約書の中で必要最低限、確認しておいた方がいいと思われる基本的な項目をあげてみましょう。

特約事項欄

売買契約書の最初か最後、または別紙に設けられている「特約事項」。細かい字で羅列されていることが多いですが、ここに、その契約ならではの、特別に約束した事項が入っているため、もっとも確認すべき重要な項目といえます。

通常、仲介業者の担当者は、契約書の雛形にはあまり手を入れずに、特別な約束事は特約事項として別途まとめることの方が多いです。特約として記載されていれば、契約の雛形の条項にあったとしてもそれを覆すことになります。

「第○条に関わらず・・・」という文言があれば、当該第○条の条項よりも、特約事項に記載された事項が、その契約内容として有効なものとなります。このため、納得ができないような不利な条件が特約条項で盛り込まれていないかどうかを確認することをお勧めします。

売買価格

価格がご自身のご希望に沿ったものかどうかを確認します。

土地と建物を一緒に購入する場合、購入物件全体に価格をつけ、次に土地・建物それぞれに価格をつけるという手順で行う場合があります。一般的には、建物価格が高い方が減価償却費を多く計上できるため、買主にとっては、建物価格を高くする方が有利になります。

もちろん、売主にとっては土地価格を高くする方が有利になることが多いため、一つの交渉材料にもなり得ます。土地と建物を同時に購入する場合は、そのようなことを踏まえて、トータルな視点から、価格を検討します。

手付金

手付金とは、売買契約にあたって買主が売主に対し、支払う金額のことで、売買価格の5%〜20%が通例です。手付には色々種類がありますが、特に別段の定めがない限り、「解約手付」と解釈するのが一般的です。

解約手付とは、手付金を支払った買主は、これを放棄することで、また売主は手付金の倍額を支払って、契約の解除をすることができる、というものです(「手付損・倍返し」ともいいます。)。ただし、相手方当事者が契約の履行に着手した場合は、この手付損・倍返しでの解除をすることはできません(民法第557条1項)。契約を履行した側に不当な損害を与えるのは妥当でないからです。

融資利用特約

融資が通らなかった場合に、売買契約を解除できるとする特約を「融資利用特約」といいます。

通常、売買契約書を示して融資を申し込むため、融資の申し込みより売買契約の締結が先になります。そしてこの特約がないと、もし融資審査が通らなかった場合、買主は購入資金を調達できず、契約を解除するにも上述した手付金を放棄することとなり、多大な不利益を被る危険があります。

そこで通常はこの特約を入れた売買契約を締結することになります。注意点としては、万が一融資が認められなかった場合にきちんとこの特約が作用するように、必要事項を記載しておくことです。融資先の金融機関、融資金額、融資承認期間等、漏れがないよう正確に記載しておく必要があります。

重要事項説明書とは?

契約が成立するまでの間に、宅地建物取引業者は、不動産の買主に対して重要事項説明(以下、「重説」といいます。)を行うことが法律で義務付けられています。

具体的には、宅地建物取引士という有資格者から買主が契約を締結するかどうかの判断に多大な影響を及ぼす重要な事項について説明を受けて署名、捺印をします。説明される内容は売買契約書の内容と共通する点もありますが、重説は引き渡し後のトラブル回避を目的としている点で売買契約とは異なります。重説を受ける際は確認すべき項目について目的意識をもっておく必要があります。

重説において説明しなければならない物件や取引条件に関する事項は法定されています(宅地建物取引業法第35条)。例えば、対象物件についての法令上の制限に関する事項や、契約の条件に関する事項が義務付けられています。

重要事項説明書のチェックポイント

重要事項説明書には契約上の重要な事項が記載されています。物件に関する事項、取引条件に関する事項、その他重要事項とさまざまな事項が記載されていますが、その中でも盲点となる項目をあげてみましょう。

水害ハザードマップの義務化

近年における各地での大規模水災害の頻発を受け、2020年より水防法に基づく水害ハザードマップ(洪水、雨水・出水、高潮)の説明が、重説において義務化されました。豪雨や台風により甚大な被害をもたらす地域に該当するのかどうかは、当然、対象不動産の物件価値にも大きく影響するため、契約締結の意思を決定する上で非常に重要な情報になります。

これらの情報は宅地建物取引士がきちんと説明はしてくれるはずですが、取引を行うご自身としても意識をもって、検討しているエリアが最新のハザードマップにおいてどのような位置にあって、どのようなリスクがあるのかを、説明する宅地建物取引士にきちんと確認する必要があります。

事前に確認しておきたい場合は、国土交通省のハザードマップポータルサイトから、対象の自治体のハザードマップにアクセスしてみましょう。地図上で複数の防災情報を同時に表示できるため、そのエリアの水害リスクや、災害が起こった際の経路避難等を確認しやすくなっています。

国土交通省ハザードマップポータルサイト(https://disaportal.gsi.go.jp/

区分建物の隠れた費用(修繕積立金)

マンションの一室を購入する場合、恒常的にかかる費用として、管理費と修繕積立金があります。特に修繕積立金は、年数の経過とともに上昇するため、意識しておかないと、ご自身の収支計画が思っていたとおりにいかない一要因ともなりかねません。

修繕積立金というのは、来るべきマンションの修繕に備えて、区分所有者(マンションの個々のオーナー)が負担し、積み立てておくお金のことで、特に外壁やエレベーター、廊下など、共用部分の修繕に使用することを目的として、長期修繕計画を立て、これに沿ってマンションの管理組合等が徴収しています。

積立の方法としては、修繕計画にある工事費用の累計を毎月均等に積み立てる均等積立方式や、初期は低めに設定し少しずつ増やしていく段階増額積立方式、均等積立方式に加えて修繕時期に一時金を徴収する方式など、様々な方法が採用されています。つまり、修繕積立金の動向をきちんと確認しておかないと、マンションオーナーとしての収支計画は立てられないのです。

したがって、マンションの購入を検討する際には、長期修繕計画と積立金について必ず確認し、いつ、どれくらいの額の積立金等が必要になるかを確認しておく必要があります。

【第2話】売買契約書及び重要事項説明書の盲点とチェックポイント
出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の概要」

以上のように、重説は、購入者にとって必ず確認しておくべき非常に重要な事項が多くあります。また、法定されているのは確認すべき最低限の事項で、個々の物件や取引内容によって、買主の購入判断のために必要となる重要事項は多種多様です。

したがって、購入者である買主自身が、当事者としてご自身が確認すべき事項を把握しておくことが非常に重要です。契約日前までに確認事項をまとめておき、気になる点は担当者に尋ね、必要に応じて事前に重要事項説明書の写しをメール等で送ってもらうなどして、不安を払拭しておきましょう。不動産業者としても、取引後のトラブルは極力避けたいため、これらの事前確認には快く対応してくれるはずです。

この他にも、個々の契約に応じて、確認しておくべき事項というのは諸々あります。大切なのは、契約に至るまでの間に仲介業者ときちんと情報共有を行える体制を築いておくことです。そして、取引内容や物件の問題点等を自分自身がきちんと把握しておくとよいでしょう。

荻島一将司法書士
荻島一将
司法書士・行政書士ゆかり事務所 代表

住宅資材販売の会社で建具店、工務店、建設会社、ハウスメーカー、デベロッパー、設計事務所、ゼネコンを中心にルートセールスおよび新規顧客開拓に従事したのち、2013年に司法書士試験合格。
大手司法書士法人を経て、2018年に司法書士ゆかり事務所開業を開業。

司法書士(東京司法書士会所属)、行政書士(東京都行政書士会所属)、CFP®認定者(ファイナンシャル・プランナー)、宅地建物取引士。
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