
親族が賃貸経営していたアパートを相続する場合、以下のような疑問や不安を抱くことはないだろうか?
- アパートを売却して現金化すべきか引き継ぐべきか?
- 売却するのであれば相続発生前後のどちらがいいのか?
- 引き継ぐにあたり何をしなければならないのか?
本記事では、相続で取得したアパートを売却するか引き継ぐかを判断する際に有用な3つの基準を紹介していく。あわせて相続するにあたりすべき6つのこと、売却する際の2つの注意点についても解説する。
売るか引き継ぐかを決める際の3つの判断基準
相続したアパートを売るか引き継ぐかを決める際に主な判断基準は、以下の3つだ。
- 相続人にアパート経営のノウハウがあるか
- 賃貸経営に適した物件か
- 相続税の節税ができるか
相続人自身および相続されるアパートが賃貸経営に向いているかだけでなく相続税の対策という実務的な点も勘案して総合的に判断しよう。
相続人にアパート経営のノウハウがあるか
アパート経営には、建築や税務、運営など多岐にわたる専門知識が求められる。そのため相続人に専門知識が備わっていない状況でアパート経営を行うと損失を出してしまいかねない。ノウハウがない場合は、アパート経営を引き継がず売却して現金化することも選択肢の一つだ。アパート経営をするうえで求められる主な専門知識には、以下のようなものがある。
- 物件運営の実務的知識(賃貸マーケットのリサーチ、入居者募集の戦略立案、クレーム対応など)
- 会計や税務の知識(経営収支の管理、確定申告の方法、賃貸経営にかかる税金など)
- 付帯設備や建物の知識(設備交換や大規模修繕工事の周期およびコストなど)
- 法務の知識(民法、建築基準法、借地借家法等など)
アパート経営における実務の多くは、管理会社や税理士などへアウトソーシングすることも可能だ。しかしオーナーとして経営判断をする際には、ある程度の専門知識が求められることも多くある点は認識しておきたい。
賃貸経営に適した物件か
相続されるアパートが賃貸経営に適さない物件の場合は、アパート経営を引き継ぐよりも売却して現金化するほうが賢明かもしれない。賃貸経営に適している物件か否かを判断する要素としては、以下のような項目が挙げられる。
- 長期的に賃貸需要が見込めるエリアか?
- 当該エリアの賃貸需要を満たせる間取りか?
- 周辺にある類似物件の入居率は高いか?
アパート経営は、物件を借りる入居者がいてはじめて成立するビジネスだ。そのため人口減少などの要因で空室率の上昇が見込まれる物件は、賃貸経営に適さない可能性が高くなるだろう。
相続税の節税ができるか
相続する財産を現金などで承継するよりもアパートとして承継するほうが相続税を抑えられる場合がある。なぜなら相続税は、相続される財産(現預金、株式、不動産など)の評価額を基準に課税され不動産の評価額は税制上の特例適用で売却して現金化した金額よりも評価額が低くなる可能性があるからだ。課税対象となる財産の評価額が圧縮されれば相続税の節税になる。
そのような場合は、相続前にアパートを売却して現金化するより相続で引き継ぐほうが賢明かもしれない。
アパートを相続する際に行うべき6つのこと
アパートを相続する際に行うべきことは、以下の6つだ。
- 入居者情報の確認
- 経営状況の確認
- 修繕状況の確認
- 管理会社および管理プランの確認
- 相続税の納付
- 登記名義人の変更
アパート経営をするうえでの本質的な項目の確認だけでなく手続的な項目もれや遅滞のないように対応しておこう。
入居者情報の確認
入居者情報は、アパート全体や各住戸で以下のような項目を確認しておこう。
- 空室率
- 入居者属性
- 現行家賃
- 預かり敷金
- 家賃滞納の有無
- 家賃保証会社への加入有無
- 契約更新時期
現行家賃が相場よりも高い場合は、住戸の入居者が退去した後に家賃が下がる可能性がある。また長期間にわたって家賃滞納をしている入居者がいる場合は、法的措置に発展する可能性もあるだろう。それぞれの住戸をどのような入居者がどのような条件で借りているのかを確認することで各住戸の現状を把握することができる。
あわせてリスクやトラブルの要因を把握して善後策を検討することも期待できるだろう。
経営状況の確認
経営状況を把握するためには、アパートの資金面を確認することが必要だ。具体的には、以下のような項目を確認しアパート経営の資金繰りが健全か否かを把握するとともに問題点やリスクを洗い出しておこう。
- キャッシュフロー
- ローン残高の有無および金額
- 損害保険への加入状況
まずは、相続するアパートの収入と支出、資産と負債を把握しておこう。ローンの返済状況やリスクへの備えが万全にできているかを確認しアパート経営の財務的な基盤を盤石にすることもオーナーの重要な仕事の一つである。
修繕状況の確認
アパートに設置されている設備や外壁などは、経年劣化するため、一定年数を経過している場合は交換や修繕を行う必要がある。設備交換や外壁の塗り直しといった各種修繕には、大きなコスト(修繕費)がかかるものもあるため、修繕費の発生時期と金額を概算するために以下のような項目を確認しておきたい。
- 各種設備の交換履歴
- 修繕の実施状況(実施時期、内容)
設備交換や修繕は、アパートの劣化スピードを緩やかにするための重要な手段の一つとなる。そのためオーナーとして修繕状況を把握し修繕資金を準備しておくのが得策だ。
管理会社および管理プランの確認
アパート経営では、現場実務(日常清掃や入居者対応など)の多くを管理会社にアウトソーシングできる。管理会社および管理プランの内容によって委託業務の範囲や管理委託料等が異なるため、どの管理会社にどのような内容で管理を委託しているかを確認しておこう。相続人にアパート経営の知識がある場合は、委託業務を絞って管理委託料を削減することも選択肢の一つだ。
もし知識がない場合は、管理委託料を上乗せしてでも委託業務を広げることも検討したい。
相続税の納付
アパートをはじめとする財産を相続した場合、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内に相続税の申告および納税が必要だ。「期限までに相続税の申告しない」「相続税を過少申告した」「期限までに相続税を納めなかった」といった場合には、税金が加算されることがあるため、期限までに申告と納税をもれなく行おう。
また、申告期限内に遺産分割協議が決まらない場合、一旦、法定相続分で申告と納税をすることとなる。この場合、小規模宅地の特例や配偶者の税額軽減等の特例が当初申告において使えず、相続税の申告と納税が多額となる可能性もあるため注意が必要である。
登記名義人の変更
民法改正などに伴い2024年4月1日からは、被相続人の名義で登記がなされていたアパートを相続した場合、登記名義人を新所有者(相続人等)に変更することが義務化される。原則相続でアパートを取得したことを知った日から3年以内に登記名義人の変更手続きをしなかった場合、10万円以下の過料の対象となるため、注意しておきたい。
相続したアパートを売却する際の2つの注意点
相続したアパートを売却するにあたって注意すべきことは、以下の2つだ。
- ローン残高があると売却活動が難航する可能性がある
- 周辺の相場を入念に調べ適正価格で売却する
ローン残高の有無を確認したうえで周辺相場を見ながらどの程度の価格で売れそうかを考えて売却活動を行おう。
ローン残高があると売却活動が難航する可能性がある
売却活動で想定される売却価格がローン残高を下回っている場合(オーバーローン)は、スムーズに売却活動を行えない可能性がある。なぜなら購入時または新築時にローンを組んでアパートに抵当権を設定した場合、当該アパートを売却して買主に引き渡す際に原則ローンを完済して抵当権を抹消することが必要だからだ。
オーバーローンの場合、売却価格とローン残高の差額を相続人が持ち出して補てんするなどの措置をとらなければ売却できない場合があることも想定しておこう。
なお、ローンを組むにあたり団体信用生命保険に加入していた場合は相続される段階で保険金によりローンは完済されることから、この限りではない。
周辺の相場を入念に調べ、適正価格で売却する
アパートを売却する際には、周辺の相場を入念に調べたうえで「いくらで売るのが妥当か」をイメージしておきたい。なぜなら周辺相場を知らずに売却活動をすると「安値で買いたたかれる」「売出価格が高すぎて売れない」といったことがあるからだ。不動産売買の知識が少ない相続人が周辺相場を勘案して適正な売出価格を算出するのは困難な場合もある。
そのため不動産業者など不動産の専門家に相談して算出してもらうのも選択肢の一つだろう。
「誰がどのアパートを相続するのか」を基準に結論を導こう
相続したアパートを売却するか引き継ぐかを判断するには、相続人のアパート経営に関する知識と当該アパートの属性を総合的に考える必要がある。売却するときだけでなく引き継ぐ場合も確認しておく必要がある事項や注意点があるため、専門家の意見も参考にしながら結論を出すのも選択肢の一つだろう。

宮路 幸人
会計事務所での長い勤務経験で培った豊富な実務知識により、会計処理・税務処理および経営や税務に関する相談など、さまざまな問題に対応。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格を保有し、不動産と相続関連に強みを発揮する。特に相続関連では、税務面だけでなく、家族の幸せを重視したトータルでの提案を行っており、軽いフットワークでお客さまのニーズに応えることをモットーとする。離島支援活動にも積極的。
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