築30年のアパート経営について 30年後を見据えた戦略と投資プラン
(画像=oka/stock.adobe.com)

20~30年といった長期融資を受けてアパート経営を行う場合は、以下のような不安を感じる人もいるだろう。

  • 融資期間が終わる30年後まで保有していいのか
  • 途中で売却をするとしたらどのタイミングがいいのか
  • 資産規模を拡大するためにどのようなプランを立てればいいのか

不動産のプロであっても「30年後の賃貸需要がどのように変化するか」を正確に予測することは、極めて困難であろう。しかしマーケットの変化に関する予測が困難な中でアパート経営をする場合は、30年後という長期的な展望を持ちながら将来を見据えることが大切となる。本記事では、30年後を見据えたアパート経営をするうえで認識しておきたい3つの戦略と具体的な投資プランについて解説していく。

30年後を見据えたアパート経営の3つの戦略

30年後を見据えたアパート経営をするうえで考えられる戦略は、主に以下の3つだ。また、各戦略における具体的な経営プランも併せて解説する。

  • 30年を待たずに途中売却をする①(資産規模拡大)
  • 30年を待たずに途中売却をする②(節税対策)
  • 30年後も保有を続ける

アパートを保有する自分の目的を基準として、「保有を続けるのか」「どの時点での売却をするのが最も合理的か」について考える。

30年を待たずに途中売却をする①(資産規模拡大)

物件を買い替えながら資産規模を拡大することを主たる目的としてアパート経営を行う場合は、30年を待たずに途中売却をすることも選択肢の一つだ。一定期間、運用した後に物件を売却することで手元にキャッシュができる可能性がある。売却した資金を活かして、より大きな規模の物件に買い替えることも検討できるだろう。

融資残高がある状態で物件を売却する場合、売却時点での融資残高を一括繰上返済することが必要だ。そのため物件売却後に手元に残るキャッシュの計算式は、以下のようになる。

手元に残るキャッシュ=売却金額-融資残高+運用期間中の累計キャッシュフロー

ここで重要なのは、より大きな規模の物件に買い替える自己資金として必要なキャッシュがいくらかを試算し融資残高の減少スピードと物件価格の変動率を勘案することだ。「どの時点で売却をすれば目標金額に達するか」というシミュレーションをしたうえで、適切な売却時期を見計らうのが合理的な選択といえるだろう。

なお、ローンの残債以上の価格で売却できるもしくは累計キャッシュフローを含めた金額がプラスという前提で話を進めてきたが、マイナスになる可能性もある。その場合、資産拡大は望めず、当初の計画は頓挫してしまうだろう。また、資産規模を拡大しようとする段階で、新たにローンが組めるかどうかはわからない。そういったリスクがあることを頭に入れ、計画を組む際は慎重に行うべきだろう。

・30年を待たずに途中売却をする場合①(資産規模拡大)の経営プラン
資産規模拡大を主たる目的として途中売却する場合の経営プランでは、以下の2つが重要となる。

  • 融資期間を短くすることでローン残高の減少を早める
  • 資産規模の拡大プランを立て必要な自己資金を設定する

より大きな規模の物件に買い替えるための自己資金捻出を主たる目的としている場合、物件売却後に手元に残るキャッシュを最大化することが課題となる。融資残高の減少を早めるために融資期間を短くするプランも合理的な選択肢の一つだ。ただし、「融資期間を短くする」ということは、毎月の返済額が増加し家賃収入に占める返済比率が高くなるため、キャッシュフローが圧迫される。

融資期間を無理に短縮し、ギリギリの返済計画を立てた場合、返済途上で予想外の空室増加や家賃の下落、修繕の必要性が発生したときにキャッシュフローが大きく赤字になる可能性がある。余剰資金に余裕がある場合を除いて、そういった大きなキャッシュフローの赤字を負うことはローン返済に支障をきたす恐れがあり、最悪なケースで債務不履行を起こす可能性があることから、返済期間と確保するキャッシュフローのバランスを熟慮する必要がある。

こうしたリスクを考慮し、資産規模の拡大プランを立て「必要になる自己資金の金額」「売却した場合手元に残るキャッシュ」についてシミュレーションをしておくことも重要だ。

作る金額の目標をあらかじめ設定しておくことで、融資期間や売却時期などのプランニングが行いやすくなる。

30年を待たずに途中売却をする②(節税対策)

節税対策を主たる目的としてアパート経営を行うのであれば、30年を待たずに途中売却をすることも合理的な選択肢の一つだ。アパート経営による節税スキーム上、一定の時期に節税効果が大きく弱まるタイミングが訪れる。そのため節税効果が弱まった以降に物件を保有しても目的を達成できなくなる可能性が高い。

アパート経営による節税対策をするうえで重要な要素の一つに減価償却という制度がある。減価償却とは、経年により価値が下落していく資産(建物や大型設備など)を取得した際、取得に要した費用を「減価償却費」という形で同資産の耐用年数に応じて経費に計上していく会計処理のことだ。減価償却費の計上には、法定耐用年数という上限がありその年数を過ぎると減価償却費の計上ができない。

減価償却費の計上ができなくなったタイミングで節税効果が大きく弱まる可能性が高いため、そのタイミングを見越して売却活動を始める選択も合理的だろう。

・30年を待たずに途中売却をする場合②(節税対策)の経営プラン
節税対策を主たる目的として途中売却をする場合の経営プランを立てるうえでは、以下の2つが重要となる。

  • 節税効果が弱まるタイミングを売却時期の目安の一つとする
  • 売却益への課税も考慮して売却時期を想定する

減価償却費の計上により節税対策を行う場合、法定耐用年数が経過した以降は、節税効果が大きく弱まる。そのため、「アパートを購入する時点での法定耐用年数から考えると、節税効果が何年続くのか」についてしっかりとシミュレーションしたうえで、売却活動を始める時期をあらかじめ想定しておくのがよいだろう。

不動産を売却して利益が出た場合、譲渡所得に対して税金(所得税および住民税)がかかる。不動産譲渡所得への課税における税率は、物件の保有年数で異なるため、注意が必要だ。具体的には、物件を売却した年の1月1日時点での保有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」、5年以下の場合は「短期譲渡所得」として以下の表のように異なる税率が適用される。

課税区分所得税住民税合計
長期譲渡所得15.315%5%20.315%
短期譲渡所得30.63%9%39.63%

※復興特別所得税を含む
出典:国税庁「暮らしの税情報(令和3年度版):土地や建物を売ったとき」 ※この先は外部サイトに遷移します。より株式会社ZUU作成

長期譲渡所得の税率は、短期譲渡所得の約半分で済むため、5年以内に売却する合理的な理由がない場合は5年を超えて保有することも節税の観点からは有効と考えられる。

30年後も保有を続ける

家賃収入という収入源の確保を主たる目的としてアパート経営を行うのであれば、30年後も保有を続けることは選択肢の一つとして考えられる。長期的に賃貸需要が旺盛でありメンテナンスが行き届いている物件であれば、30年後もある程度の稼働率と家賃水準を維持したままアパート経営をすることは可能と考えられる。

実際に築年数が30年を超える古い物件であっても収益物件として稼働し続けている物件が都心部を中心にある。築年数が経過してもリフォームやリノベーションなどで物件を修復したり新たな価値を付加したりすることが可能だ。

築45年の木造アパートであっても室内にリノベーションを施すことで収益物件として稼働しているという実例もあることから、経営努力によっては賃貸の継続は不可能ではないだろう。ただし、容易に実現できることではない。リノベーションして長期保有を視野に入れる場合、綿密な資金計画を立てたうえで慎重に投資判断を行う必要があるため、取り得る選択肢の一つとして考えておくのが無難といえる。

・30年後も保有を続ける場合の経営プラン
30年後も保有を続ける場合の経営プランを立てるうえでは、以下の4つが重要となる。

  • 長期的に賃貸需要がある物件を選別する
  • 融資期間を長くとることで毎月の返済額を抑える
  • 大規模修繕、設備の機能アップも視野に入れる
  • 家賃下落を想定する

売却を想定せず超長期で物件を保有して家賃収入を得続ける戦略の場合、キャッシュフローの最大化が課題といえる。アパート経営におけるキャッシュフローは、家賃収入から各種経費を差し引いた金額だ。そのため「長期的に家賃収入を得続ける」「ローン返済をはじめとする毎月の経費を抑える」といったことが重要である。

また「建物の老朽化に対応するために大規模修繕や建て替えの費用がかかる」「築年数の経過とともに家賃が下落する可能性がある」といった点も看過してはいけない。大規模修繕や建て替えのために、計画的な資金の積み立てを行ったり家賃の下落を資金計画に反映させたりするなど、将来を見据えた資金面での事前準備をするのが得策と言えるだろう。

事前プランニングが投資の成否を大きく分ける

アパート経営は「何を目的とするか」によって経営における戦略とプランが大きく異なる。そのため「何のためにアパートを保有するか」という視点をアパート経営の軸として物件購入時点で描いておきたい。経営戦略によっては「30年を超える超長期で同じ物件を保有する」という選択肢をとることもできるだろう。

しかし建物の老朽化や周辺エリアの人口減少に備えて大規模修繕やリノベーション、家賃下落などを想定して万全な資金計画を立てておきたい。融資期間中の途中売却を念頭に置く場合も「何のために売却をするのか」という目的で合理的な売却時期が大きく異なる。そのため事前に中長期的なプランニングをしておくことがアパート経営を成功させるうえで大切な要素の一つと言えるだろう。

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