副業で一定額以上の所得を得た場合には確定申告が必要となる。給与所得のあるビジネスパーソンが副業を行うにあたっては、どのようなケースであれば、確定申告の対象となるのか、また確定申告の方法やその際の注意点についても理解しておく必要がある。
本題に入る前に、「収入」と「所得」の違いを簡単に解説しておきたい。
- 収入:会社からの給与や、商品を売って得た売上額
- 所得:収入から必要経費(仕入額)などを引いた金額
副業で収入を得た際に確定申告が必要となるケース
副業で得た収入は雑所得として扱われる。ただし、副業にはさまざまなものがあり、不動産の賃貸などで得た収入については不動産所得の対象となる。具体的に、副業に関わる収入として雑所得の対象となるものには主に以下が挙げられる。
- 原稿料
- 講演料
- ネットオークションやフリーマーケットなどで得た収入
- 暗号資産取引で得た収入
このような副業で収入を得た場合、その所得を含め、給与所得以外の所得の合計額が20万円超の場合に確定申告が必要となる。ただし、給与所得以外の所得の合計額が20万円以下であっても医療費控除やふるさと納税などの寄付金控除を受ける場合は、確定申告が必要であることに注意したい。
所得の計算方法
所得の計算において、通常は収入からその収入を得るためにかかった経費を差し引いた額で計算する。しかし、暗号資産や先物取引などの場合は所得の計算方法が若干複雑であるため、ここでは暗号資産について解説する。
暗号資産については、「売却して得た利益」以外にも「暗号資産で商品を購入した」場合も申告の対象となる。その場合の所得金額の計算方法については以下のとおりである。
1.暗号資産の売却
ここでは、計算しやすいように1ビットコイン=100万円と仮定する。例えば400万円で4ビットコインを購入し、そのうちの0.2ビットコインを21万円で売却した場合、所得金額の計算は、21万円-{(400万円÷4ビットコイン)×0.2ビットコイン}となり、1万円が所得金額となる。
2.暗号資産で商品を購入
こちらも、1ビットコイン=100万円と仮定する。例えば400万円で4ビットコインを購入し、40万3,000円(税込)の商品を購入する際の決済に0.3ビットコイン(取引時の交換レート:1ビットコイン=135万円)を使用した場合の所得金額の計算は以下のとおりとなる。
40万3,000円(商品の購入代金)−{(400万円÷4ビットコイン)×0.3ビットコイン}=10万3,000円
暗号資産の取引には、他にも暗号資産同士の交換や暗号資産の分岐により取得するものなど多岐にわたり、それぞれによって所得の計算方法が異なることから、国税庁が発表している情報を参考にして該当する取引の計算式を確認する必要がある。
【参考】暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)令和3年6月(国税庁)
どのようなものが経費として認められる?
副業を行うにあたり、経費として認められる要件は、「その収入を得るために直接必要となるもの」でなければならない。例えば、上で紹介した原稿料や講演料における経費としては、その資料作りのためのパソコン代や資料印刷のためのプリンター代(原則として取得価額が10万円未満のもの)、そしてそれに付随するインク代や用紙代、さらには講演先への交通費も経費となる。また、原稿執筆や講師業においてインターネット環境が必要な場合は、その通信料や電気代も経費となり得る。ただし、プライベートでの費用とともに支出しているときは、「利用回数」「利用時間」など客観的かつ合理的な基準で按分し、副業にかかる部分だけを経費としなくてはならない。
資産の販売によって得た収入であれば、その資産の購入代金や送料なども経費として認められる。また、暗号資産を売却した場合はその取得価格そして売買時にかかった手数料についても経費計上可能である。
副業で収入を得た場合の確定申告の方法
上述のとおり、副業で得た収入が要件を満たす(給与所得以外の所得金額の合計が20万円超など)場合は、原則として翌年の2月16日から3月15日までの所得税の確定申告の期間に確定申告を行う必要がある。
確定申告を行う際は、まず雑所得の金額を計算し、給与所得の額と合わせた所得の合計額を再計算し、追加で支払う所得税を算出する。給与所得者の場合は通常、年末調整ですでに所得税額を支払っているため、それ以外の所得が発生している場合は、その額に応じた所得税を納めなければならない。
ちなみに現在の所得税率については以下の表のとおりである。
課税対象となる所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
出典:国税庁ホームページより株式会社ZUU作成
例えば、課税対象となる所得金額が680万円だった場合、93万2,500円の所得税が発生することになるが、他に副業による雑所得が100万円あった場合、課税対象となる所得金額は780万円となり、それに応じた所得税額は115万8,000円であることから、その差額である22万5,500円を追加で納めることになる。
追加で支払う所得税がある場合は、金融機関や税務署の窓口にて現金で支払う方法や、指定した金融機関の預貯金口座からの振替、コンビニエンスストアで支払う方法、さらにはクレジットカード払いなどを選択することができる。また、その際の納付期限については、確定申告の申告期限(原則として3月15日)であることに注意したい。
働き方改革の一環で副業を解禁する企業が増えている
最近では副業解禁の流れから、就業規則を改定し、副業を認める会社は増えている。
とはいえ、副業を行うにあたっては届け出を条件としている会社は少なくないので、所定の手続きを踏んでから副業を行うことが望ましい。もしも、副業に関する社内規定に抵触して副業を行っていることが発覚した場合、なんらかの罰則を受ける可能性があり、会社での人間関係にも支障をきたす恐れもある。
確定申告の際の注意点
副業の収入の中に暗号資産の取引がある場合、その取得時にその暗号資産の評価方法を選択して届け出を行う必要がある。暗号資産の評価方法には「総平均法」と「移動平均法」があり、初めて暗号資産を取得した際や異なる暗号資産を取得した際には、その取得した年分の確定申告期間終了時までに「所得税の(有価証券・暗号資産)の評価方法の届出書」を納税地の税務署に提出しなければならない。届出書を提出しない場合は「総平均法」を選択したとみなされるため、「総平均法」を選択するのであれば、届け出は不要である。
住民税の申告を忘れないこと
所得税の確定申告においては、原則、給与所得以外の所得合計が20万円超となる場合に必要となるが、給与所得以外の所得合計が20万円以下で所得税の確定申告が必要でない場合であっても、住民税の申告は必要となる。
ただし、医療費控除や寄付金控除と共に所得税の確定申告を行った場合は不要である。住民税の申告時期も所得税と同じく、原則として2月16日から3月15日までとなっており、住んでいる自治体の担当窓口に所定の用紙に記載して提出する。
住民税の申告は聞きなれないことから忘れがちであるが、副業で収入を得た際には必要となること、そして所得税の確定申告を行っていれば不要となる点をしっかりと理解しておきたい。
鈴木 まゆ子
中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。
「ZUU Online」「KaikeiZine」「朝日新聞『相続会議』」「マネーの達人」「納税通信」などWEBや紙面で税務・会計に関する記事を多数執筆。
著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。
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