
不動産投資や資産運用では、税金や社会保険料などのコストを削減するため、資産管理会社やマイクロ法人の設立が推奨されることもあります。
本コラムでは、資産管理会社等を設立するメリットやデメリットのほか、法人の設立が向いている人の特徴や具体的な設立手順を解説します。
資産管理会社とは?マイクロ法人との違い

資産管理会社とマイクロ法人は、どちらも法人という形態を取る点では共通していますが、設立の目的や運用方法に違いがあるため、具体的な活用方法や設立目的を理解して使い分けることが重要です。以下では、それぞれの定義や特徴について詳しく解説します。
資産管理会社の基本的な役割
資産管理会社は、その名の通り資産の「管理」を目的として設立される法人です。ここでいう資産とは、不動産や株式、投資信託など多岐にわたり、個人の所有資産のことを指します。その資産を法人に移し管理や運用を行うことで、さまざまなメリットを得ることが可能になります。
代表的な役割としては、節税対策と相続対策が挙げられます。2025年度税制においては、法人税率が最大23.2%であるのに対して個人の所得税率は最大45%であり、法人で不動産を所有することで、個人で保有するよりも、結果的に所得税や住民税の圧縮が可能となる場合があります。また、相続の際には法人名義の資産であるため、分割や評価において有利に働くこともあります。
マイクロ法人とは?定義と特徴
マイクロ法人とは、英語の「Micro(小規模)」からその名がついており、一般的に出資者と経営者が同一人物であり、1人のみで経営している小規模な法人を指します。ただし、家族を従業員として雇う場合もあります。
設立の目的はさまざまですが、実務上は副業や資産管理、節税目的で活用されるケースが多く見られます。例えば個人事業主としての所得を法人に分散させたり、役員報酬を調整することで、社会保険の加入義務を回避または軽減したりといった工夫が可能になります。
資産管理会社・マイクロ法人・プライベートカンパニーの主な違い
資産管理会社とマイクロ法人、そしてプライベートカンパニーは、一見すると似たような言葉ですが、それぞれに異なる目的と背景があります。
名称 | 主な目的等 |
---|---|
資産管理会社 | 不動産や金融資産の運用・保有・管理など |
マイクロ法人 | 社会保険料の負担軽減、節税など |
プライベートカンパニー | 文脈によって使われ方が異なる |
資産管理会社は、あくまで不動産や金融資産などの管理や運用を法人で行うことが主な目的です。これに対し、マイクロ法人は会社の形態を表し、主に社会保険料の負担軽減や所得の分散による節税など、税務上のメリットを享受するために小規模で設立されることが多いです。
また、「プライベートカンパニー」という言葉も耳にすることがありますが、これは文脈によって意味が大きく異なるため注意が必要です。日本では、個人が設立した資産管理会社やマイクロ法人を指して「プライベートカンパニー」と呼ぶこともありますが、本来の意味は「非公開会社」または「民間会社」を指すものであり、厳密には資産管理や節税の目的で使われるものではありません。
このように、似たような用語であっても実態や用途には明確な違いがあるため、正しく理解することが大切です。
資産管理会社・マイクロ法人を活用するメリット
ここでは、資産管理会社やマイクロ法人を活用する主なメリットとして、節税・社会保険料の軽減・損失の繰り越し・相続対策の4つの視点から、それぞれの具体的な効果について解説します。
所得分散と経費計上で節税できる
資産管理会社やマイクロ法人を設立する最大の魅力の一つが、節税効果です。
日本では累進課税を採用しているため、1人が多くの所得を得た場合、その分の税率が高くなります。そこで、法人を利用し家族を会社の役員として登記することで、役員報酬という形で所得を分散させることが可能となり、1人に集中していた高額な所得税や住民税の負担を軽減することができるようになります。
また、個人で事業に関する支出を経費計上するよりも、法人で計上したほうが、経費として認められている範囲が広くなります。所得は売上から経費を差し引いた額なので、できるだけ多くの経費を計上することにより、課税所得を圧縮することも可能です。
ただし、何でも経費にできるわけではなく、実際に業務と関連性がある支出でなければなりません。また、節税目的があまりに露骨だと、税務署による税務調査の対象になる可能性もあります。そのため、正しいルールに基づいた運用が求められます。
社会保険料の負担を軽減できる
法人化により、社会保険料の負担を抑えることも可能になります。
特に個人事業主から法人化することで、役員報酬の設定や従業員の加入有無を調整できるようになる点が大きなポイントです。例えば、役員報酬をあえて低く設定することで厚生年金や健康保険などの保険料を最小限に抑えることができます。
ただし、法令改正等によって条件が変わることもあるため、事前に社労士などの専門家に相談するようにしましょう。
損失を最大10年にわたって繰り越せる
資産管理会社やマイクロ法人を活用することで、法人として計上した損失を翌年度以降に繰り越すことが可能になります。これは「繰越欠損金控除」と呼ばれる制度で、法人税法上、最大10年間にわたって翌年以降の利益から差し引くことが認められています。
この仕組みにより、例えば初年度に修繕費や減価償却費が多く発生して赤字となった場合でも、その赤字分を翌年度の黒字と相殺できるため、税金の支払いを大幅に抑えることができます。個人の不動産投資では、損失の繰り越しが3年までに限られているため、法人化することの大きなメリットの一つといえます。
もっとも、税務申告においては繰越欠損金の記載漏れや形式ミスがあると控除が認められないこともあるため、専門家によるサポートなどを受けながら正確に申告することが重要です。
相続対策ができる
資産管理会社やマイクロ法人は、相続対策としても非常に有効です。個人で不動産を所有している場合、その物件ごとに相続人で分割する必要があり、分け方によっては揉め事の原因になる場合があります。
しかし、法人名義で不動産を所有していれば、相続時にはその不動産を直接分けるのではなく、会社の「株式」を分けることで対応が可能になります。株式であれば、相続人の人数や相続割合に応じて柔軟に分割できるため、相続手続きがスムーズに進むうえ、トラブルの回避にもつながります。
また、個人名義の不動産であれば路線価や倍率方式で評価されますが、法人所有の不動産は会社の純資産価額に反映され、自社株式の評価を通じて間接的に評価されるため、法人化することで資産評価額を抑え、相続税の節税効果が期待できる場合もあります。
資産管理会社・マイクロ法人を活用するデメリット
資産管理会社やマイクロ法人の活用には多くのメリットがある一方で、当然ながらデメリットや注意点も存在します。以下では、主なデメリットを3つ解説します。
手続きや運用の手間と費用
法人の設立・運用は、個人と比べて手続きが複雑になる点が大きなデメリットとして挙げられます。
法人を設立するためには、定款の作成、公証人による認証、登記申請などの専門的な知識や書類の作成、さらに税務署への届け出などの手続きが必要です。法人運営が始まった後も、毎年の決算処理や法人税の申告、会計帳簿の作成などが求められます。
また、設立にあたって、「株式会社」だと30万円程度、「合同会社」だと10万円程度の設立費用が発生します。他にも、法人住民税や税理士費用などのランニングコストもかかります。
節税メリットを得るために始めた法人運営が、気づけば膨大な時間と費用を要する業務になっていた、というケースもあります。
会社の資産を個人で自由に利用することはできない
法人を通じて取得した不動産や資産は、あくまでも会社名義のものであり、たとえ経営者であっても個人的な理由で自由に利用することはできません。
例えば、法人名義で購入した物件を家族旅行の宿泊先として使う、法人所有の車をプライベートな買い物に使うといった行為は、税務上問題視される可能性があります。これらは私的流用として経費の否認や追徴課税の対象となることもあるため、法人資産は法人の業務に関連する範囲内での使用に限定しましょう。
法人住民税を支払わなければならない
法人を運営するにあたって見落とされがちなのが、たとえ赤字であっても支払わなければならない法人住民税です。
個人の場合、一定の所得以下であれば所得税や住民税が非課税となるケースもありますが、法人の場合は違います。法人住民税には「均等割」と「法人税割」の二つがあり、特に均等割は赤字かどうかに関係なく、法人として存在する限り必ず納税義務が生じます。
均等割の金額は法人の資本金や従業員数によって異なり、1人会社であっても年間数万円の負担が発生します。一方で法人税割については利益がなければ課税されませんが、毎年の納税義務があるという点で、個人とは大きく異なる注意点といえるでしょう。
資産管理会社・マイクロ法人の活用でメリットを受けられる可能性がある人は?

資産管理会社やマイクロ法人の設立は、誰にとってもメリットがあるわけではありません。以下では、資産管理会社やマイクロ法人の活用でメリットを受けられる可能性がある人について具体的に解説します。
事業収入が800万円以上ある人
個人としての事業収入が一定額以上ある場合には、資産管理会社等の設立を検討する価値があります。事業内容や自治体等によって異なりますが、およその目安は事業収入が800万円以上の場合とされています。
もっとも、法人化したからといって必ずしも税負担等を軽減できるとは限らず、法人住民税のように固定的に発生するコストもあるため、あらかじめ税理士等の専門家とも相談しながらシミュレーションを行うようにしましょう。
不動産などの資産を複数所有している人
不動産を複数所有している場合には、資産管理会社等の活用が有効な場合があります。
個人で複数の物件を所有している場合、収入の管理が煩雑になったり、税金対策が難しくなったりすることがあります。しかし、法人を通じて不動産を一括管理することで、収支の一元化や経費計上の効率化が図れるだけでなく、役員報酬などを活用することによって法人と個人とで所得を分散させることも可能になります。
また、法人名義での資産保有により、相続時の評価額を抑えることができるため、将来の相続対策にもつながります。特に、賃貸収入のある不動産を複数所有している場合、法人化によって税制上の恩恵を受けやすくなり、資産形成や管理の効率が向上する可能性もあります。
相続対策を検討している人
将来の相続に備えたいと考えている場合にも、資産管理会社等の活用は非常に有効です。
法人名義で資産を保有している場合は、株式の形で相続を行うことができるため、資産の分割や管理がスムーズです。また、法人資産の評価は一定のルールに基づいて算出されるため、個人所有に比べて評価額が低く抑えられるケースも多く、結果として相続税の圧縮につながることがあります。
親から多くの資産を引き継ぐ可能性がある人や、将来的に資産を子どもに継承したいと考えている人にとって、資産管理会社等の設立は相続対策として検討してみてもいいかもしれません。
節税対策をしたい人
現在の所得に対して税負担が大きいと感じている場合や、少しでも税金を抑えて手元に残る資金を増やしたいと考えている場合にも、資産管理会社等の設立を検討しましょう。
特に、本業の給与所得が高く、副業としての不動産投資からの収入が増えている場合、個人で一括して課税されると高額な税率が適用されてしまいます。しかし法人を設立することで、個人と法人の所得を分けて管理でき、法人税率の枠内での運用が可能になるため、節税効果が期待できます。
また、法人では個人よりも幅広い経費の計上が認められるため、正しく活用することで実質的な利益を圧縮し、納税額を抑えることができます。
資産管理会社・マイクロ法人の設立手順と必要な手続き

ここでは、資産管理会社やマイクロ法人を設立するための手順を紹介します。法人設立手続きは会社の形態によって大きく異なりますが、ここでは株式会社の設立方法を解説します。
法人設立の基本的な流れ
株式会社設立の流れを簡単にまとめると、次のようになります。
株式会社設立の流れ
①定款の作成
②株式発行事項の決定
③株式の引き受け
④出資の履行
⑤設立時役員等の選任
⑥設立経過の調査
⑦登記
そもそも会社設立とは、会社という目に見えない存在に対し、権利・義務の主体となる「法人格」を付与する手続きであり、法律で定められたステップを踏む必要があります。
以下からは、特に注意すべき定款の作成や登記手続き、設立後の手続きを取り上げて解説します。手続きを誤ると、設立までに時間がかかってしまうだけではなく、設立自体が無効とされてしまう可能性もあるため、司法書士や弁護士などの専門家に依頼すると良いでしょう。
定款の作成と公証役場での認証
資産管理会社等を設立する際には、まず定款を作成しなければなりません。定款とは、会社の形態(株式会社、合同会社など)、会社の名称(商号)、本店所在地、事業目的、出資金の額、会社設立日、役員、株主構成など、会社運営の基本ルールを定めた重要な書類で、「会社の憲法」とも呼ばれます。
作成した定款はそのままでは効力をもたないため、公証役場に持ち込み、公証人による認証を受ける必要があります。認証を受けた定款は、後の登記手続きなどで必要となる法的な書類となりますので、内容に誤りがないよう、慎重に作成することが求められます。
出資金の払い込み
定款の認証を終えた後は、会社設立に必要な出資金の払い込みを行います。出資金は、法人名義の口座がないため、会社の資本金として代表者個人の銀行口座に振り込みます。この際、振込明細や通帳のコピーなどを用いて「払込証明書」を作成し、設立時の登記申請に添付します。
金融機関等から借金をし、一時的に出資金として振り込んだのち、会社設立後にこのお金を引き出して返済に充てる「見せ金」行為は、判例により禁止されているため絶対にやめましょう。
法務局での法人登記手続き
出資金の払い込みを終えたら、法人登記の手続きに入ります。定款、設立登記申請書、払込証明書、印鑑届書、役員の就任承諾書などの必要な登記書類を揃えて、所轄の法務局に提出します。郵送やオンラインでの申請も可能ですが、不安な場合は窓口で申請を行いましょう。
この登記手続きが完了することで、会社は正式に法人格を取得し、資産管理会社やマイクロ法人としての活動を始めることが可能になります。提出書類に不備があると受理されず、再提出になる場合もありますので、書類の内容は事前によく確認しておきましょう。
税務署・都道府県税事務所への届出
法人登記が完了したら、速やかに税務署や都道府県税事務所、市区町村の役所などに対して、法人設立届出書や青色申告承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書など、各種届出を提出します。
これらは法人として税務処理を行うために必須の手続きであり、提出期限も定められているため注意が必要です。特に青色申告を活用することで、税務上の優遇を受けられる可能性があるため、早めに手続きを済ませることをおすすめします。
社会保険・労働保険の手続き
法人として従業員を雇用する予定がある場合には、社会保険や労働保険への加入手続きも必要です。たとえ家族を役員にして給与を支払う場合でも、社会保険の対象となる可能性があるため、事前に要件を確認しておくことが重要です。
これらの手続きは年金事務所や労働基準監督署、ハローワークなど複数の機関で行う必要があり、非常に煩雑です。しかし、これらは法令上の義務であり、適切に対応しなければ罰則の対象となることもあるため、早めに準備を整えておきましょう。
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