【第9話】心理的瑕疵物件、嫌悪施設のある物件を知らずに購入してしまうことの危険性

不動産は規格の定まった工業製品ではないので、同じものはなく、それぞれ立地などいろいろな意味で長所短所があるのは当然です。不動産投資を始めようという方にとっては、まさしく長所短所を見極めたうえで物件選定すべきです。しかし、そのためには、そもそも物件の何が良くて何が悪いのかが気になるのではないでしょうか。

長所については、こちらから聞くまでもなく不動産会社が語ってくれるのですが、はたして短所についてはどうなのでしょうか。

宅地建物取引業法においては、「不実告知(=嘘を言う)」が違反とされているのはもちろんのことですが「不利益事実の不告知(=故意に不利なことを言わない)」も違反とされています。

今回は、短所として、良心的な不動産会社でなければ敢えて知らせないようにしがちな心理的瑕疵物件や嫌悪施設について解説し、こうした物件を不動産投資として購入することの注意点について触れていきたいと思います。

心理的瑕疵物件とは?

 「心理的瑕疵物件」とは入居者が心理的な苦痛を感じる可能性がある物件のことで、自殺者が出たり、殺人事件が起きたり、人の死にまつわる過去があったりした物件や周辺に嫌悪施設がある場合を指すことが多いです。

「事故物件」との違い

「事故物件」という言葉も「心理的瑕疵物件」と同じ意味合いで使われます。こちらも人の死に関わる過去がある物件を指しますが、これ以外にも建物や設備に欠陥があったりする場合も含むことがあり、定義や基準は明確でなく曖昧です。

不動産業者の告知義務と国交省が策定したガイドライン

人の死に関する過去は入居者にとって心理的に好ましくないことなので、知らずに購入した方や、賃貸で入居した方が、後から知って不動産会社を相手に訴訟になった例がいくつもあります。不動産投資家にとっては自分自身が住むわけではなくとも、入居募集に影響がでたり、将来の売却処分の際の価値に影響がでたりする可能性があるため、投資判断材料として極めて重要な情報です。不動産会社から知らされずに購入してしまったら、騙されたと思ってしまうのは無理もないと思います。

一方で不動産会社側の立場からしてみても、どこまで調べるべきなのか、あるいはどういった場合まで告知しなければならないのか従来は線引きの難しさがありました。このため、過去の判例に照らし合わせるしか方法がなく、解釈もさまざまで悪質なトラブルがしばしば起こっていました。

【ワンポイント豆知識】
・悪質なトラブルの例
人の死の過去がある物件に別の誰かが一度入居した後ならば、心理的に緩和されているとして不動産業者が説明義務を怠ったという入居者側の主張が認められなかったという判例を盾にして、不動産会社の社員が一度借りたことにする契約書を作成し、形式的に入居したことにして説明義務を逃れる行為がありました。またトラブルを避けたい気持ちが強いためだったのか、不動産業者によっては不必要に入念な調査をしてしまい、故人の尊厳・名誉を毀損したり遺族の感情を逆なでしたりするようなこともあったようです。

そこで、国交省によって2021年に「宅地建物取引業者による人の死に関するガイドライン」が策定されました。

詳細は省略しますが、告知不要となる場合を簡単に示すと以下のとおりです。

① 自然死、日常生活の中での不慮の死(階段転落、入浴中、食事中の誤嚥など)は、告知しなくて良い。ただし、それら自然死などでも、長期間発見されなかった孤独死で、特殊清掃やリフォームせざるを得なかった場合は告知すべき、となっている。

② 賃貸借取引の場合、告知すべき事象発生から概ね3年経過後であれば、告知不要となる。ただし、事件性・周知性・社会に与えた影響などが特に大きい事案は、この限りではない。

③ 賃貸借取引・売買取引でも、集合住宅の隣接住戸や、日常生活に使用しない共用部分のことであれば告知不要(つまり当該住戸に入るために通るエントランスやエレベーター、廊下部分などであれば告知は必要)。

参考:国土交通省「宅地建物取引業者による人の死に関するガイドライン」※この先は外部サイトに遷移します。

告知の要否について一定の基準が示されたという意味で今回策定されたガイドラインの意義は大きいと思います。

ちなみに不動産仲介会社の調査義務は、そこに過失がない限り、売主や貸主、管理会社などに照会した事実をもって調査がなされたとみなされるため、必ずしも深い調査が行われているわけではありません(売主などに虚偽申告があった場合は、売主などの方が責任追及される可能性があります)。

このため、不動産会社にはそこまでの調査義務がないという前提を踏まえたうえで、自己防衛のためにご自身でわかる範囲で調査しなければなりません。

事故物件公示サイトの存在

ネット上では事故物件を周知するサイトの存在が業界では有名で、私もそれなりに活用しています。当然100%正しい情報とは限りませんが、不動産投資の決断をする場合、鵜呑みにしないまでも、情報を見ておくことは必要でしょう。

業界では、ライバル物件を貶めるため虚偽の書き込みをする者もいるので、すべての情報が信用できるわけではありません。こうした背景があるからか、不動産仲介業者に対しては、これらサイトを使ってまでの深い調査義務は課されていません。

しかし、このサイトの運営管理者らは不当な書き込みなどの削除には注力しているようですし、実際のニュースと照らし合わせても相応の信頼度は保たれていると個人的には思います。

ここで重要なのは、このサイトに記載された内容より、ここに載っていること自体、物件が多くの人に周知されている可能性があるとの認識を持つ必要があるということです。

こうしたサイトに載っている物件の購入を検討している人の中には、「私は事故物件なんか気にしないタイプなので・・・」と言う方もいます。しかし、自宅用でなく投資用であるならば、冷静に他人の目を意識し、入居希望者から避けられる可能性や、売却処分の際に市場で敬遠される可能性などに想像力を働かせなければならないのです。

こうした物件を知り納得したうえでの購入は一つの投資判断ですので否定しませんが、知らされずに買ってしまう恐ろしさを意識すべきでしょう。

【ワンポイントアドバイス】
事故物件公示サイトに物件が載ることで事故物件であることが周知されています。その結果、入居希望者から避けられる可能性、売却処分の際に市場で敬遠される可能性があることまで想定しましょう。

物件の周辺近くに反社会勢力の拠点がある場合

反社会勢力の拠点と言っても、さまざまありますので、ここでは代表的な例として暴力団事務所が物件の近くに存在している場合を想定してお話します。

これも、心理的瑕疵(購入者や入居者に不安心理などの悪影響を与える物件の欠陥)として扱われ、告知しなかったことで問題になったり訴訟になったりした例があります。

しかし、前述の事故物件の話と同様で、仲介する不動産会社などに深い調査義務があるわけではなく、どれくらい近くに暴力団事務所の拠点があれば告知すべきなのかを示すガイドラインもなく、所在地情報がオープンになっているわけでもないのでとても厄介です。

判例では、不動産仲介会社に対して、知っている場合には告知義務があることになっていますが、知らなかったとしたら調査しなかったことの責めは負わないという判例もあります。

もっとも、警察庁から指定暴力団とされている25団体(2022年現在)の本部事務所の所在地だけは公開されているので、その25カ所を知り得ないと言い張ることはできないと思いますが、その支部や傘下団体なども含めた全国多数の事務所に関しては公開された情報がありません。

もちろん警察署で、暴力団追放の観点から相談すれば場合によっては教えてもらえることもありますが、一般の不動産業者や投資家が広いエリアを地図上で指して「この辺りに事務所は存在しますか」と尋ねたとしても、教えてくれるものではないでしょう。

こうなると結局は、不正確を承知でインターネットに頼るという手段しかないのです。ただしネット上にある情報は古い可能性もあり、住居表示での検索も必ずしも正しい場所を示すわけではないので、取り扱いには地図を読み取るセンスなどの熟練が必要です。この問題も先程と同様にネット情報は多くの人が見ていることを頭に入れて置く必要があります。慣れた不動産投資家なら調べている可能性も高い情報であり、物件を保有する期間中は問題なかったとしても、結果的に売却処分の際に市場流通性に影響を及ぼす可能性があります。

知らずに買ってしまうことの危険性を特に意識しておくべきでしょう。

【ワンポイント豆知識】
・暴力団事務所が比較的多い場所の特徴
参考までに暴力団事務所分布のエピソードを話しておきますと、住宅街の中のこんな所に暴力団事務所があるのかと驚くケースもないわけではないのですが、風俗街周辺など、そもそもの居住用賃貸不動産を見極めるうえで慎重にならざるを得ない繁華街などには一般的に事務所も多くあるものです。もともとそのような立地だとしたら入居状況や入居者の質をどう読むのか、オーナーにはその想像力が重要です。

また、今は住宅地のように見えても、過去の歴史上で遊郭だった場所などには名残なのか、なぜか事務所が存在することがあります。

嫌悪施設の考え方

物件周辺の嫌悪施設(けんおしせつ)などと業界では呼びますが、何をもって嫌悪とするかは人それぞれであり、価値観の多様化している現代では一概に言えません。

昔ほど、固定観念にこだわりそういった施設を避ける傾向は、時代的にも業界的にもなくなってきたと言えます。例えば、「墓地」を目の前にした住居は30年ぐらい前ならば投資用として相応しくありませんでしたが、現代では賃料など募集条件によっては気にせず入居する人もいるという認識が拡がっています。また墓地は将来も高層建築物が建つことはないので、日当たりが悪くなることはないという評価をする人もいます。

それぐらい価値観は多様化し、不動産投資の考え方も人それぞれなので、本来は購入者それぞれの気持ちに寄り添って不動産業者も配慮すべきと思いますが、そうならない業界の体質があることに危惧しています。

例えば墓地を気にする人は気にするのにもかかわらず、不動産業者側は逆に墓地を平気と考える時代に今はなっていると勝手に解釈して、あまり深く説明せずにスルーさせてしまうこともあるのではないでしょうか。本来、重要事項説明では説明しているはずなのですが、長時間一方的に読み上げるだけで流してしまえば、買主の頭には残らないものです。

【ワンポイント豆知識】
・その他の嫌悪施設
墓地と同様に火葬場、斎場なども嫌悪施設と言えるかも知れません。
また、真偽はさて置き上空を高圧線が通っていると健康に影響がありそうという観点から、高圧線下の土地もかつて市場価格が低いものでした。
それ以外でも近隣に工場がある場合なども該当するでしょうし、製造物の種類によっては小さな町工場でも嫌悪施設と言われてしまう場合もあるでしょう。
また、騒音源として鉄道や高速道路、幹線道路なども含まれます。
騒音の感じ方は人それぞれなので、子供の声が苦手な人のために、昨今の不動産会社の重要事項説明書では、公園や学校などから子供の遊び声が聞こえることをわざわざ説明するのが一般的ですので、広い意味では公園や学校も嫌悪施設と言えるのかもしれません。

自己防衛のために必要な目線

嫌悪という表現がよいとは言えませんが、これらは事業者・経営者の立場である不動産投資家にとっては、賃貸事業を運営するうえで重要な問題点であり、把握しておくべきポイントです。しかし前述のとおり、良識的な不動産業者ではなく、楽に売り切ろうとする姿勢の不動産業者であれば、なるべく強調せずに済ませるため、知らされずに買ってしまうことがありがちという点に、特に注意してほしいです。

このコラムのシリーズを通して繰り返し強調していますが、ご自身の足と目で現地をご覧になり、周辺環境も見ていただきたいです。

仮に1回目は物件の前を車で通っただけだったとしても、少なくとも別の機会にご自身の足で周辺を歩いて回ってください。周辺環境を把握することで、ご自身の投資判断の軸として許せる点と、許せない点が見えてくるものです。人それぞれの価値観によって感じる問題の程度が異なりますから、自身の目で確認することが最もふさわしい投資判断行動なのです。

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- コラムの注意事項 -

本ページの内容については、掲載当時のものであり、将来の相場等や市場環境等、制度の改正等を保証する情報ではありません。