DSCR(DCR)は、融資を利用して不動産投資をする場合の不動産経営の余裕度(健全性)を確かめる指標だ。本コラムでは、不動産投資に欠かせない指標の一つであるDSCRの意味や計算方法、目安などについて解説していく。
DSCR(DCR)の意味・計算方法・目安とは?
DSCR(DCR)とは「返済に余裕があるか」を示す指標
DSCR(DCR)とは、Debt Service Coverage Ratioの頭文字をとっており、読み方は「ディー・エス・シー・アール」だ。融資を利用して不動産投資をする場合、不動産が年間で生み出す純収益に対して年間の借入金返済額がどれくらいかを示した指標のことである。
DSCRを見ることで以下のような内容を判断しやすくなる。
・不動産投資ローンの返済でどのぐらいの余裕があるか
・収益に対して返済が重すぎないか
・経営の健全性が担保されているか など
例えばDSCRが低くなる物件を選んでしまうと資金繰りに無理があるとしてローン審査に通らない可能性がある。金融機関からの融資で最大限レバレッジを活用するためにも、DSCRの・計算方法・目安などはしっかりと押さえておきたい。
ただしDSCRは、あくまでも指標の一つであることに留意したい。他の項目や指標を組み合わせて不動産経営の健全性を分析するのが一般的だ。また、DSCRは「DCR(Debt Coverage Ratio)」と表記されることもある。DSCR(DCR)には、以下のようにさまざまな日本語表記があるため、注意しておきたい。
・元利金返済カバー率
・借入金償還余裕率
・返済余力率
・負債支払安全率 など
いずれの日本語表記も使われている言葉自体は異なるが、本質的な意味は変わらないため、混乱しないようにしよう。
DSCR(DCR)の計算方法は「純収益÷返済額」
次にDSCRを算出する計算式を見てみよう。
DSCR=年間の純収益(NOI)÷年間の借入金返済額(元本+利息)
例えば、不動産投資による年間の純収益が500万円、借入金返済額が250万円であればDSCRは2倍だ。この場合、稼働や家賃が半分になるといった極端なことがあったとしても返済は可能であることから比較的健全な経営だということができる。
一方で、年間の純収益が同じ500万円でも返済額が倍の500万円である場合はDSCRは1倍となり、家賃下落や空室で収入が減った場合に家賃収入以外の部分での補填が必要になるため、比較的厳しい審査になる可能性がある。
DSCR(DCR)の計算で用いられる純収益(NOI)とは?
次にDSCRの計算式で用いられる純収益(NOI)について掘り下げていく。NOIとは「Net Operating Income」の略で、読み方は「エヌ・オー・アイ」だ。純収益以外に「純営業収益」「営業純利益」などと和訳されることもある。
NOIは「キャッシュフロー」と捉えられることも多い。NOIの意味は「純収益=不動産経営から生み出される正味の収入」だ。分かりやすくいえば当該物件が稼ぐ力を示しているといえる。
NOIの家賃収入には、駐車場代や敷地内の自販機収入なども含まれるのが特徴だ。NOIの計算方法は、年間の家賃収入から管理費・固定資産税・都市計画税などの運営費などを差し引いた手残りとなる。ただし、減価償却費や借入金の利息は差し引かずに算出されるため注意したい。計算式は、以下の通りだ。
NOI=年間の家賃収入-年間の運営費-空室による損失など
なお、NOIはDSCRのほかにも不動産投資の指標である「NOI利回り(計算式:NOI÷不動産価格×100)」などにも用いられる指標だ。NOI利回りが大きいほど物件の収益性が高いということができる。
DSCR(DCR)の目安は 1.2 倍以上、1倍以下は要注意
判断はさまざまだが、一般的にDSCRの目安は1.2倍以上といわれ、1倍以下だと純収益がローン返済額を下回ることになる。つまり、家賃収入をもとにした純収益だけでは返済していけない収支計画だということだ。DSCRを目安に不動産投資の物件を考える際に注意したいことは、以下の2つである。
・目安はあくまでも目安
返済余力のある(安全性の高い)不動産経営を目指すなら、これを大きく上回るDSCRを目指すのが理想だろう。
・目安未満で不動産経営に不向きと即座に判断しない
DSCRが目安(1.2倍以上)を下回っていても、即座に「不動産経営をすべきではない」と判断しないほうがよいだろう。DSCRが目安以下でも給与収入でフォローをしながら長期的な資産形成を進めたり、他の物件を含めた資産負債バランスや収支バランスが健全なら許容されたりするケースも考えられる。
また最終的に融資審査におけるDSCRの重視度は、金融機関や物件の種類などで大きく異なるだろう。そのため、DSCRが目安未満であっても状況次第で融資が可能な場合もある点には注意しておきたい。
DSCRを高める方法は?
上述したように、DSCRとは年間の純収益(NOI)を年間の借入金返済額で割って算出する。つまり、DSCRを高めるには以下の2つのアプローチがあるということだ。
・年間の純収益(NOI)を増やす
純収益(NOI)を増やす具体的な方法としては「家賃を上げる」「空室期間をなくす(または空室期間を短くする)」「運営コストを削減する」などが挙げられる。とはいえ、純収益を増やすために無理に家賃を上げれば空室につながりやすくなるため、物件の状況や周辺相場を見ながら慎重に検討していくことが必要だ。
・年間の借入金返済額を減らす
借入金返済額を減らす具体的な方法は「返済期間を長くする」「低金利で借り入れをする」などだ。しかしながら返済期間を長くすることは元本の減少スピードを遅くするデメリットがあり、低金利にこだわることは融資を受けることができる金融機関の選択肢を狭めるデメリットがあるため、バランスを見て判断したい。
このように、DSCRを高める方法はさまざまだが現実とマッチングさせながら慎重に判断していくことが大切だ。
不動産投資はローンを活用できる投資
DSCRは、融資を利用して不動産投資をする場合の不動産経営の余裕度(健全性)を確かめる指標であるため、金融機関が「不動産投資ローンの融資をするか否か」を判断する際に使われることもある指標だ。ここでは、DSCRを考えるにあたり、不動産投資においてローンを活用するメリットについて整理していく。個人投資家などが不動産投資ローンを利用する主なメリットは、以下の3つだ。
・リターンを最大化できる
自己資金と借入金を組み合わせて投資することでレバレッジ効果が得られる。限られた自己資金でリターンを最大化することが可能だ(以下の表を参照)。
<レバレッジ効果の一例>
レバレッジ | 投資金額 | 利回り | 年間リターン |
---|---|---|---|
あり | 3,000万円 (自己資金+借入金) | 5% | 150万円 |
なし | 1,000万円 (自己資金のみ) | 5% | 50万円 |
・資産規模をスピーディーに拡大しやすい
レバレッジ効果によって最大化したリターンを再投資することで効率的に資産規模の拡大を進められる。
・手元にキャッシュを残せる
キャッシュは、突発的な修繕などに備えてストックしておいたり、金融商品や他の不動産投資に回してさらなるリターンの原資にしたりすることも可能だ。
ちなみに、金融機関から直接的な融資を受けられる投資カテゴリは不動産投資だけである。例えば、債券や投資信託、上場株式などの場合、購入目的でローンを組むことはできない。自分の収入や属性、資産背景などを考慮し不動産投資ローンを利用できる見込みが高い場合は、レバレッジ効果を活用するのがよいだろう。
DSCRの見方や計算方法を理解して物件選定に活用しよう
DSCRは、金融機関が融資判断をする際に使われる指標であるだけでなく、オーナー自身が不動産経営の余裕度(健全性)をセルフチェックする際の指標でもある。キャッシュフローや安定経営を重視しているなら物件選定の際に活用してみてはいかがだろうか。
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