アパート経営で生活保護者を受け入れるメリット・デメリットとは?
(画像=KMPZZZ/stock.adobe.com)

アパート経営を運営していく中で、物件の経年劣化によって入居者が入りにくくなったり、家賃を下げないと入居者が決まらなくなったりすることで、収益減になることは十分に想定される。こうした状況になった場合、通常の入居者のほかに生活保護者を入居者として受け入れることでアパート経営の安定化が期待できる。

本コラムでは、入居者として生活保護者もターゲットとすることのメリットデメリットを中心に解説しつつ、関連する制度についても紹介していく。

目次

  1. 生活保護者を受け入れることによるメリット
    1. <メリット1>200万人以上いる受給者が入居者ターゲットになる
    2. <メリット2>住宅扶助の代理納付で家賃滞納リスクが軽減できる
    3. <メリット3>補助金を利用して改修がしやすくなる(住宅確保要配慮者専用にした場合)
  2. 生活保護者を受け入れることによるデメリット
    1. <デメリット1>一般の賃貸物件よりも手間がかかる
    2. <デメリット2>孤独死や自殺発生時の家賃損失などの可能性
    3. <デメリット3>他の属性の入居者に敬遠される可能性がある
  3. 生活保護者の家賃支払いが安定している理由とは?
  4. 生活保護者向けアパート経営は家主と入居者のWin-Winの仕組み

生活保護者を受け入れることによるメリット

アパート経営を安定させる方法の一つとして、生活保護者を受け入れることの主なメリットは以下の3つだ。

<メリット1>200万人以上いる受給者が入居者ターゲットになる

近年生活保護者数は、微減傾向が続いているものの200万人台前後をキープしているため、人口減少の影響を比較的受けにくいと考えられる。

また生活保護者の半数を占める高齢者(65歳以上)に限定すると、1995(平成7)年に30万人前後だった高齢者の生活保護者は、2020(令和2)年に約105万人と3倍以上になった。このボリュームのある層を入居者ターゲットにすることで安定経営をしやすくなる。

<年齢階級別被保護人員の年次推移>

<メリット2>住宅扶助の代理納付で家賃滞納リスクが軽減できる

「生活保護者は支給額に上限があるから家賃滞納リスクがあるのでは?」というイメージがある人もいるかもしれない。しかし実際に生活保護者は、家賃額相当の実費(上限あり)である「住宅扶助費」を受け取れるため、家賃滞納リスクは限定的だ。ただ、いくら住宅扶助費があっても生活保護者がそれを別の目的に使ってしまえば家賃滞納が発生してしまう。

これを防ぐのが「代理納付」だ。代理納付とは、受給者に代わって福祉事務所が家主に住宅扶助費を直接支払う制度である。受給者の承諾を得て入居当初から代理納付にできるほか、家賃滞納が発生した場合、家主は原則住宅扶助費を代理納付することが可能だ。これを活用すれば生活保護者向けアパート経営では、限りなく家賃滞納をゼロに近づけることもできる。

<メリット3>補助金を利用して改修がしやすくなる(住宅確保要配慮者専用にした場合)

生活保護受給世帯の内訳を見ると高い割合を占めているのが「高齢者」「障害者」「母子世帯」だ。これらの人たちは、住宅を確保するのが困難なケースも多く「住宅確保要配慮者」とも呼ばれる。住宅確保要配慮者の入居を拒否しないことを条件に、賃貸住宅の改修費用を補助するのが「住宅セーフティネット制度」だ。

住宅セーフティネット制度を活用することで以下の改修費用が補助される。

住宅セーフティネット制度
  • バリアフリー改修(外構部分も含む)
  • 防火、消火対策工事
  • 子育て世帯対応改修
  • 耐震改修 など

出典:国土交通省「住宅セーフティネット制度について」※この先は外部サイトに遷移します。

なお、アパートを住宅確保要配慮者専用にした場合の改修費用の補助率は、全体の費用の3分の1(国費の場合。地方公共団体を経由した場合、国・地方それぞれ3分の1)が上限だ。補助金の要件や金額の詳細を知りたい方は、国土交通省の資料「住宅確保要配慮者専用賃貸住宅改修事業」※この先は外部サイトに遷移します。が参考になる。

生活保護者を受け入れることによるデメリット

生活保護者を入居者として受け入れると、以下の3つのようなデメリットもあるため注意したい。

<デメリット1>一般の賃貸物件よりも手間がかかる

生活保護者向けアパートの経営は、一般的な賃貸物件の経営と勝手が異なることは十分に押さえておきたい。一般的な賃貸物件の経営では、管理会社や仲介会社に業務を委託すれば家主の負担はかなり軽減できる。

しかし、生活保護者向けアパートでは、受給者を支える福祉事務所やNPO、事業者などとの連携が欠かせない。特に受給者を直接フォローするケースワーカーとの緊密なコミュニケーションが必須となる。一般的な賃貸物件の経営に慣れている家主からすると、生活保護者向けのアパート経営は手間がかかると感じる面はあるだろう。

<デメリット2>孤独死や自殺発生時の家賃損失などの可能性

厚生労働省の調査によると、生活保護者の10万人あたりの自殺率は全国平均の2倍以上の人数だ。同省では、生活保護者の自殺率が高い原因として精神疾患の人の割合が全国平均よりも高いことを挙げている。
出典:厚生労働省「生活保護受給者の自殺者数について」※この先は外部サイトに遷移します。

また2022年11月時点で生活保護受給世帯の51.2%を高齢の単身者世帯が占めているため、孤独死のリスクも高い。
出典:厚生労働省「被保護者調査(令和4年11月分概数)」※この先は外部サイトに遷移します。

こういった背景を踏まえると、生活保護者向けのアパートは入居者の自殺・孤独死のリスクが高いといえるだろう。もし入居者の自殺や孤独死が起これば、通常よりも高い原状回復費用が必要になったり長い空室期間が発生したりするなど損失のリスクがある。

このデメリットの対策としては、入居者の孤独死・自殺・犯罪死による賃貸住宅の損失を補償する保険を利用するのが有効だ。補償対象の一例としては、空室期間中の家賃減少の損失、家賃値引きによる損失、原状回復費用などがある。

<デメリット3>他の属性の入居者に敬遠される可能性がある

アパートの入居者の一部が生活保護者の場合、ビジネスパーソンや学生など他の属性の入居者と生活のリズムが合わなかったり生活音が気になったりすることも考えられる。これにより、生活保護者以外の入居者が退去してしまい、空室率上昇に影響する可能性も否定できない。

対策としては、生活保護者向けのアパートに転換する際に防音リフォームを施して生活音を緩和するのが有効だ。

生活保護者の家賃支払いが安定している理由とは?

本コラムの前半で触れたように、生活保護者の家賃支払いが安定している理由は「住宅扶助」である。

住宅扶助は、入居者が住んでいるエリアの等級や世帯人数によって変わってくる。例えば、東京都内の1級地で入居者が1人であれば、住宅扶助の限度額は5万3,700円以内だ。世帯人数が変わってくると住宅扶助の限度額は以下のようになる。

世帯人数 住宅扶助の限度額
1人 5万3,700円以内
2人 6万4,000円以内
3〜5人 6万9,800円以内
6人 7万5,000円以内
7人以上 8万3,800円以内

出典:新宿区「生活保護基準一覧」※この先は外部サイトに遷移します。
(参照:令和4年4月1日(第77次改定))

生活保護者を入居者として受け入れることを考えるなら、所有する物件の家賃相場が住宅扶助の限度額と見合っているかを確認することが大切だ。また単身者の場合は、床面積の上限も決まっている。入居者ターゲットを単身者と考えている場合は、こちらも併せてチェックしたい。

生活保護者向けアパート経営は家主と入居者のWin-Winの仕組み

家主のなかには「アパート経営を通して地域や社会貢献に役立ちたい」と考えている人もいるのではないだろうか。生活保護者を受け入れることで、高齢者や障害者など住まいの確保に困っている人に役立つことも可能だ。さらに単なる住居提供だけにとどまらず、バリアフリー化などの改修を行えば「生活保護者にとって快適な住まいを提供できる」という社会的な役割を担うこともできる。

生活保護者もターゲットとする「生活保護者向けアパート経営」は、住宅扶助の代理納付で安定経営が実現できたり住宅セーフティネット制度で改修コストを抑えられたりする点が大きな魅力だ。まさに家主と入居者のWin-Winを実現できる仕組みといえるだろう。

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