マンションを建て替える際に課題となっているのが、決議するための要件をクリアしなければならないことである。その大きな障壁になっているのが「建て替え決議5分の4要件」だ。日本政府は、老朽化マンションの建て替えを促進するため要件の緩和を検討している。
あわせて区分所有関係の解消の要件も緩和されるため、より建て替えしやすい環境に変わることが期待される。改正の要点を確認しておこう。
改正の背景は老朽化マンションの増加
2022年5月27日、日本政府は所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議で、区分所有法制の抜本的な見直しに向けた検討を行うことを決定した。これに対し、法務省や国土交通省は「区分所有法制研究会」で区分所有法制の見直しに向けた論点整理を進め、2022年度中に取りまとめて速やかに法制審議会へ諮問するなど具体的な措置を講ずるとしている。
見直しを検討する背景には、全国に点在する老朽化マンションが増加している問題がある。国土交通省の「マンションに関する統計・データ等」によると、2021年末時点で築30年を超えるマンションが249.1万戸あり、20年後の2041年には588万4,000戸に達する予想だ。その内425万4,000戸は築40年以上のものであり、建て替えの必要があるマンションも相当数あると予想される。
出典:国土交通省「築後30、40、50年以上の分譲マンション戸数」※この先は外部サイトに遷移します。より株式会社ZUU作成
しかしマンションを建て替える際には、クリアしなければならない条件がある。それが「建て替え決議5分の4要件」というルールだ。
区分所有法第62条で以下のように規定している。
引用:e-GOV「建物の区分所有等に関する法律」※この先は外部サイトに遷移します。
区分所有者要件はマンションの一戸ごとに有しているが、議決権要件は区分所有法第38条および第14条1項で、各区分所有者が有する専有割合によって定められている。一例として、専有部分の面積が1,000平方メートルの物件で、70平方メートルの部屋を所有するオーナーの議決権は1,000分の70、55平方メートルの部屋を所有するオーナーの議決権は1,000分の55となる。
「建て替え決議5分の4要件」は、これら2つとも5分の4以上の賛成を得なければならない厳しいルールになっているのだ。
建て替え費用の問題で反対する人に加え、相続を機に一部の所有者と連絡が取れないケースも少なくない。連絡が取れない所有者は、反対をしたものとして扱われるため、5分の4以上の賛成を得るのは難しく、老朽化マンションの建て替えが進まない要因の一つとなっている。
「建て替え決議5分の4要件」はどう変わる?
老朽化マンションの建て替えが進まないことを重視した日本政府は「建て替え決議5分の4要件」を緩和するため、区分所有法の改正を法相の諮問機関である法制審議会に諮問することを発表している。法改正が行われると「建て替え決議5分の4要件」はどのように変わるのだろうか。
<変更が想定される項目>
・耐震性能面で危険な場合に人数の基準を引き下げる
・所在不明の区分所有者を除外して決議を行えるような仕組みにする
・出席者のみの多数決によって決議できる仕組みにする
・所有者不明の区分所有建物に特化した財産管理体制を構築
まず、単純に区分所有者の人数や議決権の基準が「5分の4」から「4分の3またはそれ以下」に引き下がる可能性がある。また耐震性能が不足して著しく危険と思われる場合に引き下げるというのも案の一つだ。さらに所在不明の区分所有者を除外して決議を行えるような仕組みづくりも検討されている。これが実現されれば分母の数が減るため、より基準をクリアするハードルを下げることが期待できるだろう。
居住しているにもかかわらず総会などに出席せず、賛否を明らかにしない区分所有者も同じように除外して、出席者のみの多数決によって決議できる仕組みも検討する予定だ。さらに所有者不明や管理が困難になっている区分所有建物に特化した財産管理体制を構築する案も打ち出すなど、かなり幅の広い議論がされている。
区分所有関係の解消の要件も緩和
区分所有関係の解消要件についても緩和される方向で検討している。区分所有関係の解消とは、「建物をすべて解体し、敷地を売却して持ち分に応じて換金すること」をいう。これによりそのマンションに居住することができなくなる。2022年現在、建物を取り壊して敷地を売却する場合、住民の100%が賛成しないと行えない。
しかし、現実的に全員賛成というのは極めて困難だろう。日本政府は、今回の見直しで多数決による建物・敷地の一括売却や建物取り壊しなどを可能とする仕組みに改めることを目指す。多数決の要件については、対象行為ごとに検討する必要があるとしている。海外の場合、区分所有関係の解消はスタンダードなため、建て替えが前提となる日本のようなケースは珍しいといえるだろう。
日本では「住宅ローンの抵当権変換の取り扱い」「建物を取り壊した敷地を妥当な価格で買ってくれる相手が見つかるか」などのハードルが高いため、建て替えありきの習慣が根付いた背景があるようだ。今後、区分所有関係解消要件の緩和で建物・敷地の一括売却が日本でも増えるかどうかが注目される。
被災マンション法の改正も視野に
今回の見直しでは、被災マンション法(被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法)の改正も視野に入れている。本法律は、1995年に起きた阪神・淡路大震災を機に成立した法律だ。地震や豪雨、津波などの政令指定災害で建物が全壊した場合、再建築に全員の賛成が必要であったものを5分の4以上の賛成で再建決議できるようにした法律である。
しかし、実務上被災した区分所有マンションの建て替え決議が5分の4では迅速な復興を阻害する可能性があるため、改正では4分の3に緩和することが検討されているようだ。また被災した区分所有マンションの建物と敷地を売却決議する可能期間が1年以内と短いことも問題視されており、決議可能期間の延長についても議論がされている。
建て替えと大規模修繕の違い
建て替えと大規模修繕は、どのような違いがあるのかも確認しておこう。
大規模修繕:そのままの建物で外壁や手すりなど経年で劣化した部分を一斉に修繕する
建て替えは完全に新築マンションに生まれ変わるため、資産価値が新築の評価になる。しかし大規模修繕は、劣化部分の修繕で資産価値を維持するのが目的のため、建て替えのように資産価値が大きく向上することは望みにくい。建て替えに比べると大規模修繕の承認基準はハードルが低い傾向にある。共用部分の変更を伴わない大規模修繕工事は、管理組合総会で過半数が賛成すれば実施できる。
大規模修繕の要件も以前は4分の3以上の賛成が必要だったが、法律の改正によって共用部分の変更を伴わないケースのみ過半数に緩和された経緯がある。大規模修繕には「普通決議」と「特別決議」があり、普通決議は過半数以上で可決。一方の特別決議は、著しい変更を伴う修繕が重大変更となるため、4分の3以上の賛成が必要だ。
もともと長期修繕積立金を毎月支払っているため、建て替えに比べれば反対する人は少ないと思われる。しかし修繕積立金は、原則マンションの建て替えには流用できない点に注意したい。なぜなら国土交通省が定めた「標準管理規約」で修繕積立金を使って建て替えを行うことが認められていないからだ。
マンションの建て替えで資産価値が向上する
マンションを建て替える最大のメリットは、完成後新築マンションに住めることだ。建て替え前は、老朽化したマンションに住んでいたわけだから、住環境が180度変わることになる。建て替え費用は、発生するもののマンションの資産価値が向上することは、区分所有者にとってもプラスになるだろう。
なぜなら購入時の費用より建て替え費用のほうが少ないため、比較的軽い自己負担で新築マンションに住むことができるからだ。一般的に、建て替え費用の目安は「1,000万円程度+引っ越し代」といわれているため、わずかなローンで建て替え費用を工面できる場合があるだろう。
また敷地が広く容積率が高いマンションを建て替える場合は、建て替え前より部屋数を増やして、増えた分の部屋を新規分譲することで建て替え費用に充てる方法もある。この場合、分譲価格と売れ行きによっては、区分所有者の自己負担がゼロになる場合もあるため、区分所有者の賛成を得やすい一面があるだろう。
区分所有法の改正案が実現すれば全国にある老朽化マンションの建て替えが進むことは間違いない。老朽化マンションの建て替えが1棟でも多く実現し、住環境と資産価値がともに向上することが期待される。
※本記事は2022年12月6日現在の情報をもとに構成しています。区分所有法改正の行方は流動的ですので、今後詳細が変更になる場合があります。参考までにお考えください。
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