元ローン担当者の少しマニアな独り言〜不動産投資家になられる方に知っていただきたい不動産のお話〜【第5話】

不動産関連業務キャリア数十年のオリックス銀行元ローン担当者が、いままでの経験から皆さまに知っていただきたい不動産のお話を連載で綴っていきます。

第5話 「境界確認書と確定測量をすることの重要性」

不動産を所有していれば、特に住宅街の土地の場合、何らかの相隣問題が起こり得ます。

マンションならば、同じ棟の中で人間関係のこじれなどがあっても、土地のことは気にせずに済むかも知れませんが、アパート等土地付建物の場合には、土地特有の問題として隣接地との境界争いなどの可能性がリスクに含まれます。

もちろん不動産投資において多少のリスクは覚悟の上ゆえ、過剰にあおるつもりもないですが、一般のサラリーマン投資家の購入時の売買契約書を多く見て来た立場から言わせていただくと、結構、境界に関して無頓着なケースが多くありました。後日にもめ事になった案件も、きっとあるでしょう。

今回は「土地境界」のことと確定測量の重要性についてお話しします。

そもそも土地の境界は、明確な訳ではない

しっかりした宅地造成や区画整理が行われた土地ならば、境界は明確ですが、歴史的に古い土地の場合は、はっきりしていないことがあります。土地は工業製品ではないですし、実際に境界線が引かれている訳ではないからです。

しかし、それではトラブルになるので、資格のある測量士が図面などを作成し、隣接地権者同士が確認し合って書面(境界確認書、境界承諾書など)にして、その測量に基づいた座標値の位置に「境界杭」を打ち込み、土地上に見えない線を引いて後世に残すのです。

測量士による測量作業から境界確認書作成までの一連の流れを、俗に「境界確定」などと言います。

後々の隣接地権者同士のトラブルを避ける意味で、境界を確定することは極めて重要ですが、昨今は、業界自体の緩みを感じる過熱感の中、売買の取引条件として曖昧に扱われることが多いのではないかと思います。

<Appendix>境界杭(境界標)とは?

境界の点や線の位置を表す標識が境界標です。境界標には、以下のような種類があります。これらの頭部に、境界点が記されています(下図参照)。

  • コンクリート杭
  • 石杭
  • プラスチック杭
  • 金属標
  • 金属鋲
  • 木杭
日本土地家屋調査士会連合会「知って得する、境界標の「知識」」
(画像=日本土地家屋調査士会連合会「知って得する、境界標の「知識」」)

引用:日本土地家屋調査士会連合会「知って得する、境界標の「知識」」※これより先は外部サイトに遷移します

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現地の境界杭が常に正しいとも限らない

「境界杭」は、現地の土地の境界点を示す大事なものですが、素人目には神聖で絶対的なものと勘違いしている面があるのも事実です。

実は、埋めた後に長い年月を経て杭が動いてしまうことも、珍しいことではありません。杭の近くで工事を行い、土を掘った影響で動いてしまうこともあり、その場合には過去の測量の座標数値などを基に再び元の位置に戻すのです。つまり、現地の境界杭は絶対ではなく、地権者同士が認め合った境界確認書、すなわち境界確定していることの証しこそ、絶対視すべきと言えるかもしれません。

たまに、悪意で境界杭を動かす人もいるそうですが(境界損壊罪というれっきとした犯罪です)、これも境界杭を正しいと信じてしまっているからこその行動だと思います。しかし、杭を動かしても土地の所有面積が増える訳ではありません。(境界の話は奥が深いので、いろいろなエピソードはまた別の機会に)

<Appendix>境界標が移動、あるいはなくなってしまう事例

  • 土砂崩れが起こり、境界標が移動、もしくはなくなってしまう
  • 道路工事、電柱工事、ブロック塀の築造することで境界標がなくなってしまう
  • 境界標の上に盛土されてしまい、確認できなくなる
  • 車に踏まれ、境界標が破損、移動してしまう
  • 境界標の破損によって頭部の矢印や十字印が視認できなくなる
  • 経年劣化、腐食で境界標が破損してしまう

売買契約書における面積の表し方を理解しておこう

売買契約書における土地の面積には、

  1. 登記面積
  2. 実測面積(現況測量)
  3. 実測面積(確定測量)
  4. 建築確認対象の敷地面積

などが使われます。

表示する面積の種類が複数あり、詳しくない方にはわかりづらいですね。

このうち①と④はさておき、②現況測量面積と③確定測量面積の違いを端的に言えば、部分的にでも境界確定していない状態(隣接するすべての土地について地権者同士が境界を認め合っていない状態)のままの測量面積と、境界確定した(隣接するすべての土地について地権者同士が境界を認め合った状態)測量面積の違いです。

確定測量(③)が望ましいのはもちろん、現況測量(②)しかできない場合があるのもしかたないのですが、その言葉の意味を理解していないために、不利な条件にもかかわらず満足している買主も意外に多いことが問題だと思います。

現況測量の段階では、まさしく面積は確定しておらず、後になって面積が「ぶれる」リスクは覚悟しなければなりません。

現況測量のままの数値でも「建築確認申請」は通ってしまうことが多くあります。そのため、建蔽率、容積率を土地の面積に対して目いっぱい使ったアパートなどにおいて、将来的に境界がずれて土地の面積が減ったために建築基準法に適合しない不適格物件になり、次の買い手の融資が付きにくく、売却処分にも影響が出ることが考えられます。

ちなみに、建築確認や検査済証に関してもまた神聖視する方がいますが、あくまで役所や検査機関は建築に係ることのみチェックしていて、必ずしも土地の権利関係をチェックしている訳ではありません。逆説的に言えば、建築確認や検査済証における土地の面積とは、その建物を建てるのに理論上必要かつ十分な面積を表しているのであり、購入者の私権のおよぶ所有権土地がそのとおりに存在しているかどうかは別問題です。(だから不動産を扱う者は現地も見に行くべきなのです)

  • 現況測量とは:隣接するすべての土地について地権者同士が境界を認め合っていない、部分的にでも境界確定していない状態のこと
  • 確定測量とは:隣接するすべての土地について地権者同士が境界を認め合った、境界が確定した状態

土地のすべての隣接地との境界確認書を、原則としては取得するべき

土地を含む不動産を購入する場合は、原則として、すべての隣接地権者との間の「境界確認書」を取得し、境界確定させるべきです。

しかし、さまざまな理由で境界確認書の捺印を拒絶する地権者もいますので、必ずしも境界確認書が取得できるとは限りません。境界確認書を取得できない理由は、既に土地の境界問題でもめている可能性もありますし、境界争いが無くとも高齢などで意思表示に法的な問題があったり、相続で現所有者が特定できていなかったりとさまざまです。

<境界確認書が取得できない主な理由>

  • 既に土地の境界問題でもめている可能性
  • 高齢などで意思表示に法的な問題がある
  • 相続で現所有者が特定できていない

個人の不動産投資家にそこまでの矜持は求めませんが、不動産会社ならば、自社の販売用に土地を仕入れる際、既に境界確定している物件を選ぶか、確定させることを約定した購入方法にするのが基本です。仮に未確定の物件の場合は、購入後に自社で隣接地権者と折衝して境界確定をさせて、不完全な商品にならないようにすることが当然だと思います。

仲介案件の中古物件の場合なら、売主が一般の方ゆえやむを得ない場合もありますが、不動産会社が売主の場合でも、境界を曖昧にしたまま商品として売りに出しているものも見かけます。不動産会社の買取転売の場合も含め、境界確定していないとしたら、本当に隣接地権者との折衝が困難な場合か、右から左に流して儲けようとしているだけかのどちらかでしょう。

土地は個々に千差万別ですから、リスクの程度によっては境界確認書が無くとも購入する決断を下すことを否定しませんが、まったく気にせずに購入しているケースもあるので、注意喚起したいのです。

ちなみに、道路などの公有地との境界については、国や自治体との間で「道路査定」と呼ばれる方法で境界確定をしますが、時間を要することや、境界紛争リスクの低さを勘案して、道路査定のみ省略するという選択ならば理解できます。

<Appendix>道路査定とは?

未査定のまま利用されている道路について、民有地と官有地の境界を明らかにすることです。道路法によって道路査定を行う義務があります。境界が確定されていないことで、土地の面積がわからず、価格が割り出せずに売買できないケースがあります。

売主に確定測量を求めることを交渉するのが理想

不動産売買の契約条件は本来、売主買主の交渉次第です。したがって、すべての隣接地との境界承諾を求め、確定測量してもらうことを売主にお願いして合意さえあれば、売買条件にすることができます。

この場合、時間と手間をかけることになるので、契約書に決済引渡までの間の売主の義務とする条項を盛り込むことが通例(その費用負担を売買代金に含むか別途かなどは協議次第)でしょう。

土地の状況次第ですが、前述のとおり売主が不動産会社なら当然に境界確定している場合がほとんどですし、一般の売主でも事前に境界確定しているなら条項は不要で、もし決済までに作業を求める場合でも、例えば道路査定だけは除外等のオプション条件はさまざまでしょう。

しかし、一番厄介なのは、その申し出を売主が拒絶する場合です。この場合、境界紛争が存在しているからかもしれないし、実は売主が面倒なだけの理由かもしれませんが、拒絶が疑念を抱かせることは確かです。

その観点で、売主に確定測量を求める意義はあり、有効なのですが、マーケットのパワーバランス(売手市場か買手市場か)によっては言いだせないこともあるので、投資家にとっては難しい判断になります。

結局、うるさいことを言うなら売りたくないという反感を買いたくないため、譲歩してしまうのもやむ得ない場合があります。だからこそ、過熱した市場では、規律の緩和に対しても本来は金融機関がしっかりすべきではないか、と私自身は思います。

当社では、一般的な個人向けアパートローンにおいて、特別に必要と判断した物件以外では、境界確認書の取得をローンの取扱条件にしていません。(開発事業目的の不動産業者向け融資の場合は、原則として境界確定を条件にします。)

このことが、結果的に境界確認書の取得が面倒というだけの売主業者や仲介業者を生み出し、業界の甘えを助長しているとしたら残念です。とはいえ、当社として境界確認書の取得を融資条件にすることについては、取得困難・不可能なケースも多い実態の中で、個人向けアパートの規模とリスクのバランスから、そこまで厳格化する必要性も感じていません。

仮に、境界確認書の取得を融資条件にしてしまうと、体裁を整えることに腐心するあまり、ごく一部の意識の低い業者の不正を助長してしまいかねないという悩みもあります。

例えば、当社の求めに応じて不動産会社が提出した境界確認書(コピー)に関して、署名や捺印が本当に本人のものか?という疑念が生じたことも無かった訳ではありません。ちなみに、地積更正などのために法務局に提出する場合の境界確認書は、実印の捺印と印鑑証明の添付が必要ですが、それ以外の場合は三文判で構いません。

数年前に、金融機関提出書類の不正が横行した経験と反省を踏まえ、書類偽造行為に何らかの対処をしたいところですが、第三者である隣接地権者の書類の真贋を厳格にチェックすることは、やや難しい面があるのです。

当社としてもできるだけアドバイスしていきたいと考えていますが、限界もあるのも事実です。どうか投資家の皆さまには売買の折衝の中で境界問題を意識していただき、ご自身のリスク感覚を磨いていただくことが、望ましいと思っています。

シニアコンサルタント 真保雅人
(大学卒業後、鉄道会社約4年を経て1989年5月オリックス株式会社に入社し、投資用不動産ローン業務を約10年担当。その後、オリックス不動産株式会社にて約10年間の賃貸マンション用地仕入開発業務経験を経て、2010年11月オリックス銀行株式会社に出向。オリックス銀行では投資用不動産ローン業務に責任者として約10年従事し、現在に至る。)

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