不動産投資の税金講座 税理士がわかりやすく解説【第二回】不動産の税金 確定申告編

今回、連載の最後では、不動産投資にかかるキャピタルゲイン課税についてみていきましょう。

不動産の売却時の所得を譲渡所得といいます。譲渡所得に対する課税は、保有資産が所有者の手を離れるときにその値上がり益=キャピタルゲインを清算して課税するという考え方です。

つまり、要約すると不動産を売却した際の儲けに対して課税するという考え方です。 最近は都心を中心に不動産価格が上昇傾向にあり、売却益が出る可能性もあるので、注意が必要です。

なお、税法上の「譲渡」は範囲が広く、有償か無償かを問わず所有権の移転(売買、交換、収用など)が該当します。譲渡所得の計算には特例も多く、私たち税理士でも要件確認などで非常に気を遣う必要がありますので、ご自身で申告されるときは、税務署や専門家にも聞きながら計算することをお勧めします。

一般的な譲渡の計算例についてみてみましょう。計算式は次のとおりです。

{ 【譲渡収入金額 - (取得費+譲渡費用)】- 特別控除(3)参照 }×※税率

(1)計算要素の把握

上記の算式で、収入金額は売買契約書どおりで一目瞭然ですが、『取得費と譲渡費用』の経費をどのように捉えるかが重要なポイントとなります。何故なら『取得費と譲渡費用』の経費が大きいか小さいかによって、利益、すなわち譲渡所得の金額が大きく変わり、その結果、税額の違いとなるからです。

では、実際に税金の計算の仕方について説明していきます。まずは取得費の計算です。

始めに手元にマンションを購入したときの売買契約書を用意しましょう。なかには時間が経ってしまうと売買契約書が見当たらない、という方もいるかも知れません。その場合は、購入したときの振込金額がわかる資料を探し出してください。

契約書で買ったときの金額がわかれば、次にその金額を建物と土地(マンションの場合は敷地権といいます)にそれぞれ分けてみましょう。

投資用マンションは、減価償却できる建物と減価償却できない土地からなる財産と考えます。ところが契約書には建物代と土地代の内訳の記載がないものが少なくないので、その場合は下表を参考にしてください。

資産別 減価償却の可否 契約書で判別がつかない場合の計算方法
建物 固定資産税評価によるあん分または建築単価表から求める
土地(敷地権) × 同上、または総額から建物価格を控除した額
※一般的に新築と中古を比べた場合、価格に占める割合は、新築に近いほど建物部分が大きく、時間が経つにつれ土地部分が大きくなります。

土地と建物の区分は確認できたでしょうか。

区分ができたら、次に土地と建物それぞれについて取得費を計算していきます。

まず、土地の取得費は購入時と同額になりますが、建物の場合は買ったときから売るときまでの減価償却費(すでに毎年の確定申告において経費となっている)を差し引いて取得費とします。なお、取得の際にかかった費用(仲介手数料、登記費用、不動産取得税など)も取得費に加算することができます。これを一般に実額取得費といいます。

契約書などが見つからず、取得費が不明の場合等は、譲渡収入金額×5%で取得費を求めることもできます。これを概算取得費といいます。

次に、譲渡費用(仲介手数料、登記費用、広告料、借家人立退料費用など売却のために直接かかった費用)が求められれば、次は『取得費』と『譲渡費用』を合算し、譲渡収入金額から差し引きます。これが譲渡所得となります。

こうして先の算式のとおり譲渡所得を求められれば、その譲渡所得に税率を乗じたものが税額になります。

(2)他の所得と合算しない・・・分離課税

一般的に、所得税の税率は所得が高い人ほど高く(税負担が重く)なっています。これを累進課税といいますが、譲渡所得は通常の所得と違って給与所得などと合算せずに一定税率をかけて計算します。これを分離課税といい、所有期間によって税率が異なるのが特徴です。

区分 税率(所得税+住民税) 所有期間
短期 39.63% 譲渡した年の1月1日における期間が5年以下
長期 20.315%          〃        5年超

ところで仮に上記の計算でマイナス(譲渡損失)が出てしまったらどうなのでしょう。 この場合は、所得(儲け)ではなく、損失になることから、税金はかかりません。 では、マイナス(譲渡損失)分を他の給与などの所得から差し引くことはできるのでしょうか?答えはノーです。分離課税の性格から、例えば給与などのような他のプラス所得と合算して全体の所得を下げるような計算構造にはなっていないのです。

(3)特例が多いので注意

特例については要件確認が非常に重要です。一つ判断を誤ると、ケースによっては、税額が数百万単位で差が出ることがあります。さらに、ある特例を使うことによって別の特例が使えないという併用制限もありますので、注意が必要です。

ワンルームマンションなどの不動産投資の不動産の売却益については、一般的には特例は使えませんが、大きな事業用資産を所有している場合には注意しておきましょう。

主な特例
・居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除
・収用交換等の場合の譲渡所得の5000万円の特別控除
・固定資産を交換した場合の課税の特例
・特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例 等

以上、3回にわたって不動産にかかる税金についてみてきました。不動産投資は入口(購入時)出口(売却時)をみて行うことが必要なのは言うまでもありません。特に不動産の場合はインカムゲインとキャピタルゲインの両方を考えながら手取りをなるべく残すという視点が大事になってくると思いますし、そこに税金の知識が生かされてきます。不動産とうまく付き合うための一つの手段として、今回の連載内容を役立てていただけたらと思います。

mizumoto
水本 昌克
株式会社リーガル・アカウンティング・パートナーズ代表取締役
水本昌克税理士行政書士事務所所長

株式会社リーガル・アカウンティング・パートナーズ代表取締役
水本昌克税理士行政書士事務所所長
1966年8月16日東京都生まれ。
平成2年 慶應義塾大学経済学部卒。
損害保険会社、税理士法人タクトコンサルティング(医療福祉チーム)を経て、平成20年税理士法人および株式会社リーガル・アカウンティング・パートナーズを設立し、各法人の代表に就任。
その他医療法人、社会福祉法人の監事、NPO理事を務める。
現在、医療経営、相続・事業承継対策を中心とした業務に取り組んでいる。
「医療法人制度改正と今後の対応」、「ドクターのための経営セミナー~開業から承継まで」など多数のセミナーで講師として登壇。
著書に
『オーナー社長の税金虎の巻』(大蔵財務協会)
『上手な不動産組替え虎の巻』(大蔵財務協会)
『企業目利き力養成講座~医療事業・介護福祉事業』(きんざい)
など。

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