不動産投資を行うことで節税につなげることができると考える人もいるだろう。ただ、それらの対策を行っていくにあたっては、不動産所得における税務の知識をしっかりと理解しておく必要がある。今回は不動産所得に関する税務知識や、不動産投資を行うことによってどのような節税効果を生むことができるのかを解説する。
不動産所得の求め方
不動産投資における所得は不動産所得となる。不動産所得の金額の計算は以下のとおりである。
不動産投資にかかわる収入金額総額-不動産投資を行うために要した費用
不動産投資を行うために要した費用とは必要経費のことであるが、実際にはどのようなものが必要経費として認められるのだろうか。
経費計上できるのはどのようなもの?
実際に経費計上できるものの具体例として、以下が挙げられる。
- 固定資産税、都市計画税などの税金(不動産取得時にはさらに不動産取得税や登録免許税、印紙税が発生する)
- 修繕費(設備が故障した際の修繕費用や、入居者が退去した際の原状回復費用なども修繕費として計上できる)
- 保険料(火災保険料や地震保険料などといった損害保険料)
- 広告宣伝費(入居者を募集するための広告作成費用など)
- 減価償却費(建物や建物付属設備にかかわる減価償却費用)
- 借入金の支払利息(物件購入の際に金融機関から融資を受けた際、その返済金額のうち、利息分は経費として計上できる)
- 不動産投資としての事業を行うにあたって発生した消耗品費や通信費、旅費交通費など(ただし、事業を行うための費用であることが条件)
- 水道光熱費(共用部分にかかる電気代や水道代などは経費計上可能)
- 委託費(物件の管理を管理会社に委託している場合は、その費用も経費として認められる)
なお、減価償却費については土地部分を除いて計算しなければならない点や、敷金の返還などの支出は経費としてみなされない点には注意が必要である。
不動産投資を行う上でできる節税対策とは?
不動産所得はほかの所得(給与所得など)と合算され、最終的な所得税額を算出することから、不動産所得額をできるだけ少なくするためには、経費計上できるものをしっかりと把握し、漏れなく計上することがポイントといえる。以下に紹介する方法で節税効果を高めることも可能である。
また、個人事業主として青色申告制度を取り入れることも税金対策を行う上で重要なポイントといえる。簿記などの知識が必要にはなるものの、会計ソフトを利用することで決算書類の作成などを効率化することも可能である。特に青色申告では青色申告特別控除が適用される点に注目しておきたい。要件を満たすことで最大65万円が不動産所得から差し引かれる点は非常に魅力といえるだろう。
法人化
不動産投資の規模によっては不動産所得額が大きくなり、かなりの所得税を支払う必要が発生する。その際に考えたいのが法人化である。現在、個人に対する所得税率は最高で45%だが、法人税率は一般的な中小法人であれば、800万円以下の部分については15%、800万円超の部分については23.2%と、個人に比べてかなり低い税率が設定されている。
また、法人化することにより、親族を役員にして役員報酬を経費計上することも可能である。
さらに注目したいのが、減価償却である。法人の減価償却は任意計上となっており、その年の減価償却全額を計上しなくてもよいことになっている。つまり、計上する減価償却費を調整することで、利益(所得)を調整することができる仕組みだ。
ただし、金融機関によっては、法人の不動産投資については融資の取り扱いがない場合や、条件がある場合もあるため、法人化を検討する場合は一度金融機関に確認するとよいだろう。
不動産投資は実際にどのくらいの節税効果がある?
では、実際に不動産投資を行うにあたり、どのような節税効果があるのかについて、具体的に計算してみたい。
(試算条件)
- 年収(給与収入)800万円(45歳・独身)
- 不動産所得:-50万円(家賃収入200万円-必要経費合計額250万円)
- 社会保険料:約119万円
給与収入だけで所得税を計算すると、800万円から給与所得控除額である190万円を差し引いた610万円が給与所得金額である。そこからさらに社会保険料(約119万円)と基礎控除(48万円)を引いた443万円が課税所得金額となる。443万円に対する所得税率は20%でさらに42万7,500円の控除があるため、所得税額は45万8,500円である。
不動産所得が上のように赤字であっても、他の所得と損益通算が可能である。したがって、給与所得金額610万円から不動産所得の赤字額(50万円)を差し引いた560万円が総所得金額となり、そこから社会保険料と基礎控除額を差し引いた額が課税所得金額(393万円)となる。393万円の所得税額は35万8,500円であることから、不動産所得と合算することで10万円の節税効果が生まれる。不動産所得における経費のうち減価償却費は、初年度以外は支出を伴わない費用であるため、忘れないように計算に組み入れるようにしたい。
<appendix>不動産投資と併用したいiDeCoを使った節税方法
節税を目的として個人で不動産投資を行っているなら、所得控除を最大限利用する方法も併せて検討するとよいだろう。例を挙げればiDeCoの活用が有効である。
iDeCoの仕組み
iDeCoとは個人型確定拠出年金の略称で、原則として20歳以上60歳未満であれば加入できる。また、受け取り開始は原則として60歳からとなっているが、70歳まで受取時期をずらすこともできる。自身が選んだ運用商品で老後の年金を形成する私的年金の一つであるが、このiDeCoを税金対策として活用するポイントは、掛金である。iDeCoの掛金は全額「小規模企業共済等掛金控除」となり、所得控除の対象となる。掛金額上限はその人の属性によって異なるが、最大額まで利用することで課税所得金額を減少させることができ、さらに老後のための資産形成にも役立てることができる。
また、iDeCoを始めとする確定拠出年金制度は、2020年の改正年金法により、2022年4月より加入対象者および加入上限年齢が変更となるほか、受取時期についても上限年齢を引き上げるなどの変更が予定されている点にも注目しておきたい。
では先の不動産投資を行った場合の前提条件に加えiDeCoを併用することで、節税額はどれくらいになるのだろうか。最終的な所得税額は以下のとおりとなる。
なお、iDeCoの金額は、上限額まで行うものとする。また、このケースでは、iDeCoに加入することを認めている企業型確定拠出年金の加入者と仮定する。
- iDeCoの毎月の掛金:2万円(年間24万円)
iDeCoを行うことでその掛金24万円が全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となる。
したがって、うえで求めた総所得金額(560万円)から、社会保険料控除、基礎控除、小規模企業共済等掛金控除、寄付金控除を適用すると、560万円-(119万円+48万円+24万円)=369万円が課税所得金額となり、その場合の所得税額は31万500円となる。iDeCoを併用することで、さらに4万8,000円の節税効果があったことがわかる。
制度を利用する際の注意点
iDeCoは最低5,000円から始めることができ、年に一度掛金を変更することができる。ただし、加入した後は原則として途中脱退できない点には注意する必要がある。
不動産投資における税金対策のポイント
不動産投資を行うにあたって、所得税がどのような形で求められるのかを知っておくことはもちろん、給与所得と不動産所得の算出の違いや経費計上できるものなどについてもしっかりと理解しておくことが大切といえる。
特に減価償却費の計上は所得金額を抑える効果が大きいことから、その仕組みについても、別途理解を深めておく必要があるだろう。また、青色申告を利用することで青色申告特別控除が受けられる点や赤字が発生した場合は翌年3年間繰り越しができることから節税効果を生むことができる点も覚えておこう。
宮路 幸人
会計事務所での長い勤務経験で培った豊富な実務知識により、会計処理・税務処理および経営や税務に関する相談など、さまざまな問題に対応。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格を保有し、不動産と相続関連に強みを発揮する。特に相続関連では、税務面だけでなく、家族の幸せを重視したトータルでの提案を行っており、軽いフットワークでお客さまのニーズに応えることをモットーとする。離島支援活動にも積極的。
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