不動産投資を行う上で知っておきたい金融緩和政策と不動産価格の関係
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不動産価格と金融緩和政策は密接な関係にあるといわれている。金融緩和政策は日本経済にさまざまな影響を与えるが、不動産価格についても同様といえる。金融緩和政策が不動産市況にどのような影響を与えるのかについて解説する。

日本の金融緩和政策

世界各国の政府および中央銀行は、金融緩和政策を打ち出すことにより、金融そして経済環境の安定に努めている。日本の金融政策は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」といわれており、この「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という政策は2つの枠組みから成り立っている。

第1に、マイナス金利や公開市場操作などの金融市場調節手段によって長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」、第2に、消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、市場に供給する貨幣量の拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」だ。

日銀が行う市場への貨幣供給手段としては金融機関が保有する日本国債の買い取りを通して銀行の保有資金を増やし、企業や個人への融資を促進する手段と、日銀がETF、J-REITを購入する手段の2つがある。こうした取組によって市場に資金を供給するとともに、企業や個人が資金の調達コスト(主に金融機関から資金を調達する際の金利)を安くすることで、経済活動を縮小させることなく活発化させることにある。

2020年、日銀は金融緩和政策において、新型コロナウイルス感染症拡大による景気および経済環境の悪化に対応するため、新型コロナウイルス感染症対策に向けた金融支援に加えて「CP・社債などの買入れの増額」、「国債の積極的な買入れ」を行うなど、金融緩和を一段と強化する考えを発表した。

金融緩和政策の内容と効果とは?

マイナス金利や、公開市場操作などの金融緩和は日本の政府銀行である日本銀行(日銀)が行っている代表的な金融緩和政策だ。その具体的な内容と効果について触れていきたい。

マイナス金利とは?

マイナス金利とは金融機関が日銀に対して必要以上に預けている当座預金の金利をマイナスにするというものだ。

日銀は金融機関に対して金融不安などで金融機関の資金繰りが悪化した場合に備え、保有する預かり資産(一般顧客の預金など)の一定割合以上を日銀の当座預金に預け入れることを義務付ける「準備預金制度」を実施している。準備預金には金融機関の万一に備え、義務として日銀に預けなければならない「法定準備預金額」(または所要準備額と呼ぶ)と法定準備預金額を超える部分の「超過準備」があり、日銀はこの超過準備の部分に一定の利息を付与してきた背景がある。

金融機関は低金利状況下で利ザヤが薄く、貸倒れリスクのある融資よりも超過準備による利息収入の方が確実に収益を得られることから、日銀に対して多くの資金を預けてきた。マイナス金利政策は、この超過準備に対して付与される金利を預金者(金融機関)が金利を支払うマイナスに引き下げ、日銀に必要以上に資金を預けることに対してデメリットを与えたのだ。

よくマイナス金利を個人の預金金利がマイナスになることと勘違いすることが多いが、日銀と金融機関との間での一定の当座預金金利がマイナスになることなので混同しないようにしたい。

公開市場操作とは?

公開市場操作とは、日銀が金融市場で手形や債券等の有価証券を金融機関等と売買することで市場に流通する貨幣量の増減を行うことだ。

金融緩和局面では、金融機関から国債などの有価証券を買い取ることで金融機関の保有する貨幣量を増加させ、融資の増加を促している。こうした有価証券の売買資金は日銀の当座預金を通して行われるため、マイナス金利政策と併用することで、より資金が市中に流れやすくなるとされている。

金融緩和政策が市場に与える効果とは

上記2つの政策がどのような影響を及ぼすのだろうか。主に次の4つの効果があるとされている。

  1. 円安効果
    日本の金利が低くなることで資金の流出が発生し、円安を誘導できる
  2. 株価対策
    円安を誘導することができれば、円安におけるメリットを受けやすい企業の収益改善につながり、結果的に株価が上昇する
  3. 市中貨幣量の増加
    日銀に必要以上に預けた当座預金の金利がマイナスとなるため、金融機関は余剰がある場合においては、外部(企業、個人)の貸し出しなど運用を行うことになる
  4. 貸出金利の低下
    マイナス金利によって、多くの金融機関が融資を増やすことから金融機関同士での競争が生まれ、一般顧客や法人に対する貸出金利が低下する効果が期待できる。

また、マイナス金利や日銀による国債の買い入れは市場の長短金利を下げる効果がある。市中の金融機関が設定するローン金利は、融資先のリスク度合いや各金融機関の経営判断によるところも大きいが、市場の長短金利を参考に決める一面もあることから、市場の長短金利が下がれば貸出金利の低下にも寄与することになる。貸出金利が下がれば企業や個人の資金調達環境の改善につながることになる。

金融緩和政策が不動産の価格に与える影響

では金融緩和政策は不動産市場にどのような影響を与えるのだろうか。結論から言えば、不動産価格が上がりやすい環境を生むことになる。理由は次の2つだ。

ローンが借りやすくなり、不動産の購買需要が増加する

金融機関の貸出金利の低下は、調達コストが下がることから借り手からすればローンの借りやすさにつながる。不動産の購入をする場合、余程資金に余裕のある企業や資産家でもない限りローンは切っても切れない関係だろう。

ローンが借りやすい環境になれば、不動産を購入する企業や投資用の不動産ローンを含む住宅ローンを利用する個人が増えることが期待できる。

特に不動産投資においては家賃収入からローン返済を含む経費を引いたものが利益になることから、経費の一部であるローンの利息が減少することによって利益を生みやすい環境を醸成し、不動産投資家が参入しやすくなると言える。

不動産の購入需要が増えれば、一般的な物の価格と同様に需要と供給のバランスで決まるという、市場原理から言えば価格の上昇圧力につながりやすいと言える。

機関投資家の心理変化

銀行や生損保、年金基金などの機関投資家は、これまでリスクが少ない資産として国債や事業債などの国内の債券をベースにポートフォリオを組んできた。しかし、日銀による国債の買い入れなどで国債利回りが低下すると、国債による収益が期待できない状況下で、外国債券や外国株式、不動産投資分野へと振り分ける機関投資家が増えることが予想される。

機関投資家が不動産分野へ投資する場合に購入する商品は現物不動産やリート、プライベートファンドなど多岐にわたるが、いずれにしても不動産分野への投資が増えれば、前述の通り需要が増加することになることから、不動産価格の上昇要因になると言える。

今後の日本の金利動向

現在の長短金利操作付き量的・質的金融緩和は2016年頃から行われてきた金融政策だが、今後の見通しはどうなのだろうか。

2022年1月18日の金融政策決定会合後の記者会見で、2%の消費者物価上昇が安定的に達成されるまで長短金利の引き上げは想定していないと語った。また、2022年2月14日、日銀は「指し値オペ」といわれる金利操作を実施した。その目的は長期金利の上昇を抑えるためで、具体的には10年物国債を0.25%の利回りで無制限に買い取るというものだ。

これらのことから当面は金利が上がりにくい状況が続くだろう。ただし、利上げに踏み切れば不動産市況を取り巻く環境が変わっていく恐れがあることから、今後不動産価格の動向を推測するにあたり、金利の動向とそれから派生する影響をしっかりと見極めておく必要があるといえるだろう。

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