不動産投資の税金講座 税理士がわかりやすく解説【第二回】不動産の税金 確定申告編

確定申告はその名のとおり所得を「確定」させるための手続きです。個人の所得は一年間という期間を区切って計算(ワンイヤールール)し、納税者が毎年その翌年の2月16日から3月15日(消費税申告は翌年3月31日)までに申告することが、法律で義務付けられています。ところで、不動産投資により得られる所得は、その貸付から生じるインカムゲインと、売却により得られるキャピタルゲインがありますが、今回は、インカムゲインについて解説していきます。

(1)収入は読みやすい、問題は経費

不動産の収入は、通常、管理会社を通じて毎月報告され、確定申告時期になると年間の収支計算書が送られてきます。不動産所得は、収入から経費を差し引いた利益に対して課税されます。ここでいう経費とは、事業(不動産所得)に関連する支出のことを言いますが、どのようなものが該当するのか見てみましょう。

不動産経費の判定

経費に入れられるもの経費にならないもの
・固定資産税
・火災保険料
・減価償却費
・修繕費
・管理料
・車両費、交通費、交際費、通信費等
(右記に該当するものを除く)
・ローン(金利)※1
・個人事業税※2
・税込み経理をしている場合の消費税※3
・所得税、住民税
・生命保険料
・ローン(元金)
・家事関連費(プライベートな食費、被服費、交際費、通信費、車両費など)
※1.土地(敷地権)に関わる分について一定の場合は経費になりません。
※2.不動産の貸付を5棟または10室以上行っている場合は事業税が課されます。
※3. 貸付が居住用の場合、消費税は非課税。事業用の場合は課税となります。

さらに、不動産経営に関わる重要なポイントは固定資産の支出額と減価償却の関係になります。当然のことですが、資産は時が経つにつれてその価値が減っていきます。それを会計では事業として使える期間に応じて減価償却という費用にします。固定資産には、減価償却できるもの(建物)とできないもの(土地、敷地権)があります。また、固定資産の価値を維持するための支出として、価値を高めたり使用期間を延ばしたりするものは資産に計上してから減価償却をし、単に維持管理や原状回復に留まるものは修繕費として全額経費にできますので、その内容によって処理が異なります。迷ったら判断はプロに聞いてください。

固定資産の減価償却について

取得価額通常の減価償却少額減価償却資産の特例(全額経費)一括償却資産
(3年償却)
10万円未満※
10万円以上
20万円未満
20万円以上
30万円未満
×
30万円以上××
※使用期間が1年未満または取得価額が10万円未満の減価償却資産は全額経費

(2)申告と納税手続き

上記(1)でまずは不動産の所得を計算して、「青色決算書」または「収支内訳書」に記載のうえ確定申告書に添付することになります。ところで、不動産経営を始めるとほとんどの方が青色申告の承認を受けています。その年の3月15日まで、または賃貸開始がその年の1月16日以後開始した場合は2か月以内に申請し、その承認を受けることによって、下記の青色申告特別控除や専従者給与の支払い、純損失の繰越控除が3年間使えるなどのメリットがあります。

青色申告特別控除について

控除額内容
10万円下記の要件に該当しない場合
55万円複式簿記による記帳に基づいて貸借対照表及び損益計算書を作成している
65万円・上記に加えその年の元帳等を電子帳簿保存している
・その申告書の提出をe-Taxにより行っている

税金の世界でも電子化の波は確実に押し寄せています。上記の「複式簿記による記帳」ですが、今は、市販の会計ソフトを使って入力していけばさほど手間をかけずに作成することができますし、最近では、クレジットカードや口座と連携して自動的にデータを取り込む機能が増えているので、入力の手間も省けます。加えて、電子申告(e-Tax)を使うと上限の65万円まで青色申告特別控除が使えるので、本稿を読まれている方には、次の青色申告控除について②または③が適用できるようになっていただきたいと思います。
申告書の作成については、国税庁が提供している確定申告書等作成コーナーが参考になります。納付についてもe-Taxからダイレクト納付やインターネットバンキング等の利用が可能です。

(3)手間ヒマを惜しまない・・・

確定申告のように期限のある作業は、追われてくるとついつい後回しにしてしまいがちになります。でもちょっと待ってください。自分で確定申告をつくってみると、不思議なことにいろいろな「気づき」があります。「何で今年はこんなに税金が増えているのだろう?」「もっと経費を生かす工夫はないか?」などなど。税理士が言うのも変ですが、確かに専門家に丸投げして任せるのはラクですが、みすみす自分の「気づき」の機会を逃してしまうのは惜しい気がします。もちろん、イレギュラーなことや複雑な判断はプロに聞くことをお勧めしますが、やがて、その「気づき」の積み重ねが、投資判断として生きてくることになるのではないでしょうか。
できることはまず自分でやってみることが、長く現役を続けていくための心がけのような気がします。さあ、あなたも来年のあなた自身の確定申告にトライしてみませんか。
次回は『不動産売却時にかかる可能性のある税金“譲渡所得編”』です。

mizumoto
水本 昌克
株式会社リーガル・アカウンティング・パートナーズ代表取締役
水本昌克税理士行政書士事務所所長

株式会社リーガル・アカウンティング・パートナーズ代表取締役
水本昌克税理士行政書士事務所所長
1966年8月16日東京都生まれ。
平成2年 慶應義塾大学経済学部卒。
損害保険会社、税理士法人タクトコンサルティング(医療福祉チーム)を経て、平成20年税理士法人および株式会社リーガル・アカウンティング・パートナーズを設立し、各法人の代表に就任。
その他医療法人、社会福祉法人の監事、NPO理事を務める。
現在、医療経営、相続・事業承継対策を中心とした業務に取り組んでいる。
「医療法人制度改正と今後の対応」、「ドクターのための経営セミナー~開業から承継まで」など多数のセミナーで講師として登壇。
著書に
『オーナー社長の税金虎の巻』(大蔵財務協会)
『上手な不動産組替え虎の巻』(大蔵財務協会)
『企業目利き力養成講座~医療事業・介護福祉事業』(きんざい)
など。

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