年金にかかる税金にはどのようなものがある?
(画像=shurkin_son/stock.adobe.com)

「ねんきん定期便」「ねんきんネット」などを活用すれば将来受け取る年金受給額を知ることができる。しかし額面をそのまま利用して将来の不足分の計算や資産形成の計画を立てることは危険だ。なぜなら年金を受け取る際には、所得税や住民税といった税金が発生し受給見込額にそれらの税金が反映されていないからだ。

そこで本記事では、老後資産の確保やリタイア後の家計の収支を考えるうえで必要となる年金にかかる税金について解説する。

公的年金にかかる所得税

公的年金には、所得税や住民税がかかる。最初に所得税から解説していく。ちなみに「平成29年老齢年金受給者実態調査」によると65歳以上の平均年金受給月額は約12万3,000円だが全体の約3割(29%)が20万円以上の受給である。さらに現役時代が正社員中心の場合の32.7%が15万~20万円の受給となっている点は興味深い。

所得税の計算方法

所得税額を計算する際は、公的年金等の所得金額を算出することが必要だ。公的年金は、雑所得に該当し所得金額の算出は、以下の計算式を用いる。

公的年金等の雑所得にかかる所得金額=公的年金等の収入金額合計額×割合-控除額

所得金額を求めるための控除額は、65歳未満と65歳以上で異なる。2022年時点で公的年金受給開始年齢は65歳のため、65歳以上における控除額の一例を以下に示す。所得金額の計算においては「公的年金などに係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額」によって控除額が異なる点に注意したい。ちなみに確定拠出年金を年金形式で受け取る場合は、公的年金などに係る雑所得に該当する。

そのため公的年金と合算した金額で計算することが必要だ。例えば65歳以上で公的年金などの受給額が200万円の場合、所得金額の計算に用いる速算表は、以下の通りである。

  • 公的年金などに係る雑所得以外の合計所得金額が1,000万円以下の場合
    200万円×100%-110万円=90万円

  • 公的年金などに係る雑所得以外の合計所得金額が1,000万円超2,000万円以下の場合
     200万円×100%-100万円=100万円

  • 公的年金などに係る雑所得以外の合計所得金額が2,000万円超の場合
     200万円×100%-90万円=110万円

つまり公的年金などに係る雑所得以外の合計所得金額が多ければその分控除額が少なくなる仕組みだ。では、年齢70歳(単身)、収入は公的年金(200万円)のみで所得控除は基礎控除のみと仮定した場合の所得税額を求めてみよう。今回の計算では、復興特別所得税を加味している。

  1. 合計所得金額を求める:200万円×100%-110万円=90万円
  2. 合計所得金額から所得控除額(基礎控除48万円)を差し引く:90万円-48万円=42万円
  3. 2で求めた課税所得金額に応じた所得税率を乗じて所得税額を算出する:42万円×(5%+0.105%)=2万1,441円

上記のケースの所得税額は、2万1,441円と分かる。

公的年金にかかる住民税 

では、住民税についても試算してみよう。住民税の税率については、各自治体で異なるため、今回は東京都の税率を適用し調整控除については考慮しないものとする。

住民税の計算方法

住民税は「均等割」と「所得割」に分けて計算される。均等割額は、所得に関係なく一律に適応されるもので2022年現在は5,000円である。また所得割は、課税所得金額に10%(都民税4%、区市町村税6%)を乗じて計算され流れは以下の通りだ。

  1. 合計所得金額から所得控除額(基礎控除43万円)を差し引く:90万円-43万円=47万円
  2. 1で求めた課税所得金額に10%を乗じる:47万円×10%=4万7,000円

つまり本ケースの場合の住民税額は、均等割5,000円+所得割4万7,000円=5万2,000円となる。

差し引かれるのは税金だけではない 

年金の手取り額を考える際には、上の所得税・住民税以外にも社会保険料(健康保険料)も意識しておきたい。リタイア後は、一時的に社保を任意継続したり国民健康保険に加入したりすることになるが国民健康保険の保険料の計算方法は各自治体で異なる。本記事では、東京都江戸川区の計算方法で紹介していく。

年金にかかる社会保険料

国民健康保険に加入している場合、保険料は「医療分」と「後期高齢者支援金分」と「介護保険料」を合算した額となる。また国民健康保険料(医療分・後期高齢者支援分)の計算は、住民税と同様に「均等割」と「所得割」の合計額となる点も注意したい。

社会保険料の計算方法

まずは、医療分の保険料を求める。なお住民税の課税所得金額は前段落の例で算出した47万円を使用する。

  1. 所得割額の計算:住民税の課税所得金額47万円×7.67%=3万6,049円
  2. 均等割額:4万2,000円×1人=4万2,000円
    医療分:3万6,049円+4万2,000円=7万8,049円……①

次に後期高齢者支援金分を計算する。

  1. 所得割額の計算:住民税の課税所得金額47万円×2.43%=1万1,421円
  2. 均等割額:1万3,500円×1人=1万3,500円
    後期高齢者支援分:1万1,421円+1万3,500円=2万4,921円……②

次に介護保険料を計算する。

  1. 合計所得金額を求める:200万円×100%-110万円=90万円
  2. 本人が住民税課税者で、合計所得金額が120万円未満の人:介護保険料の年額84,960円
    介護保険料:84,960円……③

医療分①+後期高齢者支援分②+介護保険料③を合計すると7万8,049円+2万4,921円+8万4,960円=18万7,930円となる。このように公的年金収入が年間200万円あった場合でも所得税や住民税、国民健康保険料で合計26万1,371円引かれてしまうのだ。最終的な手取り年金額は、173万8,629円となる。月額に換算すると約14万5,000円だ。

確定申告不要制度とは? 

ちなみに一定の要件を満たす年金受給者に対しては、確定申告不要制度が設けられている。

確定申告が不要となる要件

以下の要件をすべて満たす場合は、確定申告が不要となる。

  • 公的年金等の合計収入額が400万円以下
  • 公的年金等に係る雑所得以外の所得が20万円以下

確定申告不要制度の注意点

上の条件に当てはまっても医療費控除や住宅ローン控除、雑損控除などを受ける場合は確定申告が必要なため注意したい。

  • 住民税の確定申告が必要なケース
    所得税の確定申告が不要でも以下のようなケースでは、住民税の確定申告が必要だ。
  • 収入が公的年金などに係る雑所得のみで「公的年金などの源泉徴収票」に記載されている控除以外の控除を受ける必要がある(社会保険料控除や配偶者控除、扶養控除等)
  • 公的年金に係る雑所得以外の所得がある
  • 所得税が源泉徴収されていない

特に日本年金機構から毎年秋ごろに「扶養親族等申告書」が送られてくるが、提出せずに源泉徴収票に反映されないケースが散見されている。各種所得控除を反映させるためにも、該当する扶養親族がいる場合は、早めに提出することを心がけたい。ただし本人が障がい者や寡婦などに該当せず控除対象となる配偶者または扶養親族がいない場合は、提出が不要だ。

手取り額を考慮した計画的な支出プランを立てることが重要 

年金から引かれる所得税や住民税はもとより、健康保険料の高さに驚いた人も多いのではないだろうか。人によっては、これらの税金以外にも住宅を保有していれば毎年固定資産税の納付が必要だ。また車を保有していれば維持費も考える必要があるだろう。老後に必要な生活費を考えるうえで、これらの税金額や社会保険料額を把握することは非常に重要だ。

今後は、高齢者でも一定以上の収入がある場合、医療費の自己負担が増える点は押さえておきたい。このような動きは、今後さらに顕著になることが予想される。受給する年金額が多ければ多いほど税および社会保険料の負担は確実に多くなるため、住んでいる自治体の公式サイトを確認し「実際にどのくらいの金額が差し引かれるのか」を把握することが必要だ。

老後の資産を形成していくためには、リタイア後のライフプランを立てることも心がけたい。子どもや孫の成長や住宅の修繕など突発的に発生する費用も考慮したうえで余裕を持った資金プランを準備しておくと安心だ。

宮路 幸人
税務に関する記述の監修

宮路 幸人
税理士・CFP・宅建士・マンション管理士

会計事務所での長い勤務経験で培った豊富な実務知識により、会計処理・税務処理および経営や税務に関する相談など、さまざまな問題に対応。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格を保有し、不動産と相続関連に強みを発揮する。特に相続関連では、税務面だけでなく、家族の幸せを重視したトータルでの提案を行っており、軽いフットワークでお客さまのニーズに応えることをモットーとする。離島支援活動にも積極的。
manabu不動産投資に会員登録することで、下の3つの特典を受け取ることができます。

①会員限定のオリジナル記事が読める
②気になる著者をフォローできる
③気になる記事をクリップしてまとめ読みできる

- コラムに関する注意事項 -

本コラムは一般的な情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的とするものではありません。
当社が信頼できると判断した情報源から入手した情報に基づきますが、その正確性や確実性を保証するものではありません。
外部執筆者の方に本コラムを執筆いただいていますが、その内容は執筆者本人の見解等に基づくものであり、当社の見解等を示すものではありません。
本コラムの記載内容は、予告なしに変更されることがあります。