家賃値下げ交渉リスクの高い賃貸物件とは?貸主は交渉にどう対処すべき?
(画像=kinako/stock.adobe.com)

安定した家賃収入を実現するには、どうしたらよいのだろうか。これは、不動産投資をこれから始める人にとって重要なテーマだ。安定収入を脅かすリスクの一つが「家賃値下げ交渉」である。家賃の値下げ請求によって見込んでいたよりも収入が目減りすれば安定経営が揺るぎかねない。本稿では、家賃値下げ交渉リスクの高い物件の特徴や交渉があった際の対処策について解説していく。

家賃値下げ交渉リスクが高い物件とは?

例えばGoogleで「家賃値下げ 交渉」のキーワードで検索すると多くは借主を読者に想定した以下のような情報が表示される。

  • 家賃交渉を行うときのポイント
  • 家賃の値下げ交渉の進め方
  • 家賃交渉を成功させるコツ など

貸主の立場であればこういった情報を参考にしながら自身が所有している物件や検討中の物件が「家賃値下げ交渉リスクが高いのか否か」について見極めることが大事だ。家賃値下げ交渉リスクが高くなる物件の特徴として次の項目が考えられる。

  • 駅から遠いなど、立地が悪い・築年数が古い、物件の外観、設備劣化が目立つ
  • 商業施設の撤退などで生活利便性が低下した
  • 周辺の物件と比較して家賃設定が割高
  • 隣地に別の物件が建つなどして日当たりが悪くなった
  • 空室が複数ある

入居者から家賃値下げ交渉があった際の対処策

家賃値下げ交渉リスクを軽減したい場合は、前述した不人気要素(立地が悪い、築年数が古いなど)が少ない賃貸物件を選ぶのが得策だ。ただし現実的には、不人気要素がまったくない賃貸物件を手に入れるのは難しい一面もある。だからこそ不動産投資家は、家賃値下げ交渉のことをしっかり学んでおきたい。適切な対処ができる準備が大切だ。

家賃値下げ交渉・請求は法的に有効か?

貸主が押さえておきたいのが「家賃値下げ交渉・請求が法的にどのような扱いになるか」ということだ。法的な扱いをしっかりと把握しておくことで適切な対処がしやすくなる。家賃値下げ交渉・請求に関する法律の一つが借地借家法第32条だ。

借地借家法第32条第1項
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う

同法では、建物の借賃がさまざまな事情によって不相当になったときに「建物の借賃額の増減を請求することができる」と定められている。つまり家賃が見合わないとき借主には家賃の値下げ請求をする権利が法的に認められているのだ。そのため借主からの家賃値下げ交渉があった際、貸主が「値下げ交渉には応じられない」と拒絶することは適当ではない。

まずは、交渉のテーブルにつき法的に認められる内容かどうか(詳しくは次項参照)を判断するのが賢明だ。

どんなときに家賃値下げ請求が法的に認められるか?

とはいえすべての家賃値下げ交渉・請求に応じる必要はない。なぜなら法的に認められるかどうかは内容によって異なるからだ。上記の条文を見ると分かるように借地借家法第32条では、以下に挙げるような事情で家賃が不相当になった場合に借主の家賃の値下げ請求(または家主による家賃の値上げ請求)ができると記載がある。

  • 土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減
  • 土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下
  • その他の負担の増減により、土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下
  • 近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき

上記の条文を分かりやすく表現すると以下のようになる。

  • 固定資産税や都市計画税、物件管理費などの増減
  • 土地や建物の評価額の増減
  • 経済状況等による土地や建物の評価額の変動
  • 近所の類似物件の家賃との比較で今の家賃が適正な価格でなくなったとき

法的な観点からいえば借地借家法第32条第1項または民法第611条第1項(詳しくは後述)にあてはまらない家賃値下げ交渉・請求でないなら応じなくてよいことになる。一方で「生活が苦しいので家賃を値下げして欲しい」といった法律の条件にあてはまらない家賃値下げ交渉・請求は、どう扱えばよいのだろうか。法的な観点でいえば応じる義務はないが各貸主の判断になるといえる。

家賃の値下げ交渉・請求で折り合いがつかない場合は調停・訴訟へ

借地借家法第32条第1項にあてはまる内容の家賃値下げ交渉があったとしても「家賃をいくら値下げするのが適当か(相場に近いか)」の判断は、難しいだろう。借主と貸主が主張する適当な家賃の額で折り合いがつかない場合は、調停や訴訟で決着するしかない。家賃値下げ交渉・請求に関する家主側は、値下げに応じるにしても経営が苦しくなるレベルまで下げるのは避けたいところだ。

家賃をどれくらい値下げすると利回りやイールドギャップなどの経営指標が厳しくなってしまうのかの事前チェックは必須である。

家賃値下げ交渉・請求に関する(家主側の)Q&A

家賃値下げ交渉・請求に関するよくあるQ&Aを3つ紹介する。

過去の家賃も含めて値下げ交渉をしてきた場合はどうなる?

家賃の値下げ請求は「将来の家賃を対象にしたもの」となるため、過去の家賃は値下げ請求の対象にならない。たとえ相場よりも高い家賃を設定したとしても「貸主は返す必要がない」というのが基本だ。この根拠としては、借地借家法 第32条第1項で「将来に向かって家賃の増減の請求ができる」と記載されていることが挙げられる。

話し合いや裁判をしている間の家賃の額はどうなる?

例えば借主が家賃の1万円の値下げを請求し貸主がこれまで通り10万円の家賃を支払うよう主張している場合、裁判が決着するまではこれまで通りの家賃(10万円)を支払うのが基本だ。借地借家法第32条3項では、以下のようにうたわれている。

借地借家法第32条第3項
減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。

住宅設備の不具合による家賃の値下げ交渉はどうなる?

部屋に備えた住宅設備が故障した場合、借主が家賃値下げを請求してくることもあり得る。このケースでは、内容や期間によって家賃の値下げが必要になることもあるだろう。借地借家法には、設備の不具合による家賃の値下げ請求に関する直接的な記載はない。しかし民法第611条第1項では、以下のように定められている。

民法第611条第1項
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される

これが家賃値下げの根拠になる。とはいえこのケースの家賃の値下げは、借地借家法のような「将来に向けての(継続的な)値下げ」ではなく「不具合の状況や期間に合わせた一時的な家賃の値下げ」というのが基本的な考え方だ。なおどのようなケースでどれくらいの家賃の減額が必要かについては、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会の『貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン』※この先は外部サイトに遷移します。が参考になる

法的に認められる家賃値下げ請求なのかの見極めを

本稿では、借主からの家賃値下げ交渉・請求の対象になりやすい賃貸物件の特徴や交渉があった際の対処策について解説してきた。そのポイントを振り返ってみよう。まず家賃値下げ交渉・請求の対象になりやすい賃貸物件の主な特徴は、以下の内容だった。

  • 駅から遠いなど、立地が悪い・築年数が古い、物件の外観、設備劣化が目立つ
  • 商業施設の撤退などで生活利便性が低下した
  • 周辺の物件と比較して家賃設定が割高
  • 隣地に別の物件が建つなどして日当たりが悪くなった
  • 空室が複数ある

また家賃値下げ交渉・請求は「借地借家法 第32条第1項」で認められている点もポイントだ。以下のようなケースが法的に認められている。

  • 税金や管理費などの増減
  • 土地や建物の評価額の増減
  • 経済状況等による土地や建物の評価額の変動
  • 家賃が適正な価格でなくなったとき

あわせて民法第611条第1項では、住宅設備が故障した場合に内容や期間に応じて期間限定の家賃値下げが必要になるケースもあった。家賃値下げ交渉・請求に対する貸主の心構えで大事なことは、交渉があった場合に相手の言い分をしっかりと聞くことだ。問答無用で拒絶してしまうとトラブルに発展しかねない。まずは、借主の主張に耳を傾け法的に認められる内容かを見極めよう。

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